シベリアは神話/民話の宝庫③ワタリガラスの神話が多い!

シベリアの神話・民話を紹介していくこちらの連載記事。

前回はその中でも特に「クマ」が出てくる物語に注目し、クマがとりわけ神に近い動物として崇拝の対象になってきた、という背景を探りました。

今回はまたそれとは違う動物の名前をキーワードに選び、シベリア神話の世界に触れていきましょう。

今回のキーワードとなる動物は、「ワタリガラス」です!

そもそも「ワタリガラス」ってどんな動物?

ワタリガラス
ワタリガラス(原典

まずは「ワタリガラス」という動物種についてちょっと補足を入れさせてください。

日本人である我々が海外から輸入された神話や民話を読むときに感じることは、「ワタリガラス」と普通の「カラス」は違うのか、という点についてではないでしょうか?

実際、日本語の伝統では、このような明確な区分はありません。

というよりも、そもそも「ワタリガラス」に該当する鳥は日本では北海道以北でしか見られないので、伝統的な日本語の世界には「カラス」一種類しか分類がなかった、と言ったほうが正確でしょう。

ですが海外の言語では、「ワタリガラス」と「普通のカラス」は明確に区別されることが多いようです。

たとえば英語についても、この二種類の鳥の名称を分ける伝統があります。

学校の英語の授業で、カラスを指すのに「クロウ」と「レイブン」という二種類の単語があるのを不思議に思った人も多いのではないでしょうか?

この場合、日本語でいういわゆる「カラス」を指す英単語が「クロウ」です。

これは西欧でもゴミをあさったりする不浄なイメージで嫌がられています。

渡り鳥であるところの「ワタリガラス」は、英単語では「レイブン」にあたります。

これは高潔で、知性のある存在として神話やファンタジーでは好んで使われるキャラクターとなっています。

実際、ファンタジーのキャラクターでも、「レイブン」とつく名前のキャラクターや団体は「善玉」ないし、せいぜい「高貴で知的な悪役」となっているのではないでしょうか?

シベリアのみならず世界中の神話やファンタジーで愛されている「ワタリガラス」!

この「ワタリガラス」、シベリアの神話・民話では定番のキャラクターです。

それのみならず、シベリアから見ると対岸のアラスカにまで、ワタリガラスを主人公とする神話が分布しています。

古代にシベリアを通じてアメリカ大陸にまで渡っていった人々の移動と一緒に、「ワタリガラス」を主人公とする神話が伝わっていったルートがあるのではないか、と推測されます。

この「ワタリガラス」、シベリアやアラスカでは人間と共存関係にある存在として描かれることが多いようです。

たとえばシベリアの神話・民話に登場する「ワタリガラス」には、以下のような特徴が見られます。

  • ワタリガラスは長生きであり、それゆえ、とても物知りであるとされている
  • 狩りの際にワタリガラスを見かけると、それは人間に獲物がいる場所を教えてくれているのだ、と解釈される
  • ワタリガラスの鳴き声や、飛んで行った先を追いかけていくと、狩りが成功することが多いと信じられている
  • ただしワタリガラスに導かれたおかげで狩りに成功した暁には、獲物の一部を残しておくことが礼儀とされる
  • ワタリガラスを怒らせるようなことはしてはいけない。ワタリガラスを怒らせると必ず復讐される

これだけでも、そうとうに良いイメージで扱われているのがわかるかと思います。

更にワタリガラスは、カムチャッカに住むイテリメン族の中では、「世界を生み出した創世主」という地位まで与えられているそうです。

  • 昔、大地ができる以前には、空と海と、ワタリガラスの夫婦しかいなかった
  • あるときワタリガラスが空から降りてきて、息子を生んだ
  • そのときに生まれた息子が大地となったことで、世界は空と海と大地の三つになった

ここまでくるとワタリガラスもまた、クマと同じく時には「神」に近い存在として理解をされていた、といえそうですね。

最近の科学が立証した「ワタリガラスは確かに知性が高い」という結果!

ところでこのワタリガラスですが、実際に最近の研究では、チンパンジーにも匹敵するほどの高い知能があることがわかってきています。

道具を使って遊んだり、人間でいう幼児くらいの認識能力はある、とすらいわれています。

もしそうだとすると、「狩りの時に助けてくれる」とか「怒らせると復讐される」とかいった伝説も決して迷信ではありません。

シベリアやアラスカの先住民たちが経験的に「ワタリガラスは動物の中でも飛びぬけて頭がよい」と知っていたがゆえに伝わってきた伝説なのかもしれません。

そうだとすると、人類が21世紀になってようやく科学によって確認できたデータを、シベリアの人々は何千年も前から先取りで知っていて、神話や民話を通じてちゃんと子孫に伝達していた、ということになります!

これはあらためて神話・民話の凄さを思い知らされる話ではないでしょうか?

ロマンあふれる神話・伝承を電子書籍で

ゲームや漫画、映画などエンタメ好きにも読んで欲しい編集部厳選の神話・伝承をAmazon kindleで販売中

2件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT US
ZEUS
はじめまして、ゼウスです。ミスペディアの管理人です。 「神話の面白さをもっと伝える」をモットーに、世界中の神話・伝説のストーリーをはじめ、神話を元ネタにしたエンタメの解説や神話のおもしろエピソードなど、ロマンあふれる情報を発信しています。