ギリシア神話の主軸をなすのは、オリュンポス山の山頂に住まう12人の神、すなわちオリュンポス十二神であると言われます。
十二神という名称は非常に有名ですが、具体的に「じゃあメンバーは誰と誰?」と聞くと頭を抱えてしまう人が多いのもまた事実。
あなたはちゃんと十二神すべての名前を挙げられますか?
きっとできない人が多いはず。
じつは、オリュンポスの十二神は、十二人ではありません。
メンバーは完全には固定ではなく、説話によって入れ替わっているためです。
なぜそのような状況になっているのか、このページではその詳細を完全解説します!
Contents
まずはオリュンポスとは何かを知っておこう

オリュンポスとは、ギリシャ北部にあるオリュンポス山のことを指します。
ギリシア中部のテッサロニケ地方と、中央マケドニア(マケドニアという名前がついていますがギリシア領です)との境界付近、海から数十キロの地点にそびえ立っている山です。
標高はアルプスの山々と比べると低めですが、海から直接そそり立っているように見えるため、実際の標高以上に高く見えます。
十二神は、初期においてはこのオリュンポス山の山頂に神殿を構え、そこで生活していたと信じられていました。
しかし後には神々の居所は現実の山ではなく、「オリュンポスの山頂のように高い、どこか人間には見えないところ」とされるようになりました。
ギリシア神話の十二神のメンバー

一般的には、十二神のメンバーは下記とされています。
- ゼウス
- ポセイドン
- アポロン
- アレス
- ヘファイストス
- ヘルメス
以上の六男神と
- ヘラ
- ヘスティア
- デメテル
- アテナ
- アフロディーテ
- アルテミス
の六女神です。
しかし、ゼウスの子でありながら十二神のメンバーに入っていないデュオニュソスを憐れみ、ヘスティアがその座を譲った、という話も一部に伝わっています。
この場合は「デュオニソスin、ヘスティアout」となります。
その他、細かいところでメンバーの交替があり、「これが十二神だ」という絶対不動のラインナップはありません。(さすがに主神ゼウスとその妻ヘラが外れることはありませんが。)
この十二神のメンバーを大きく分けると、ゼウスの兄弟姉妹、つまりティターン時代の神の王クロノスの子のグループと、ゼウスの子のグループに2分されます。
- ゼウスの父であるクロノスの子供グループ(つまりゼウスの兄弟姉妹)
- ゼウスの子のグループ
クロノスの子は、女神がヘスティア・デメテル・ヘラの3人、男神がハーデス・ポセイドン・ゼウスの3人です。
それぞれ先に書いた方が年長で、ヘスティアが6人兄弟姉妹の長子、ゼウスが末弟となっていますが、その間の順番はよくわかっていません。
恐らく、ヘラはゼウスのすぐ上の姉であったろうと推定されています。
先に述べたように、ゼウスの兄弟姉妹はゼウス本人も含めて6人です。
これでは「十二神」にはなりません。
そこでゼウスの子たちが、新たにオリュンポスのメンバーに加えられます。
ゼウスの正妻としてはヘラが一般的に知られています。
しかしゼウスはヘラと結婚する前に、二回正式な結婚をしており、そのときにできた子がいます。
また、ゼウスは正式な結婚以外にも、各地で愛人を作り、子供をもうけています。
次の項からは、まずは「ゼウスの兄弟姉妹」、そして次に「ゼウスの子供たち」の順でフォーカスをあてて、オリュンポス十二神について考えていきましょう。
ゼウスの兄弟姉妹について じつは年齢と外見がバラバラ!
ゼウスの兄弟姉妹の特徴は、実年齢と外見が全く一致していない、というところにあります。
クロノスは「やがて自分の子に王位を追われる」というガイアの言葉に恐怖を覚え、妻レアの産んだ子を片っ端から飲み込んでしまいました。
これに腹を立てたレアは、末子ゼウスが生まれると、赤子の代わりに石を産着にくるんで夫に渡します。
クロノスはそれを呑み、難を逃れたゼウスはクレタ島で成長します。
やがて青年となったゼウスは兄弟を助けるため、クロノスに薬を飲ませて胃の中のものを吐き出させます。
クロノスの子たちは呑み込まれたのとは逆の順番で出てきたのですが、クロノスの身体の中では時が止まっていたようで、子供たちは皆乳児のままでした。
そして先に出てきた子から再び成長を始めたのです。
この結果、年齢的には一番年上のはずのヘスティアが、外見的には一番若い、ということになりました。
兄弟の身に危険が及ばないことを確認したゼウスは、クロノスとその兄弟であるティターンたちと戦いを始めます。

この時、姉妹たちはみな幼い(ヘスティアに至っては乳児)ため、中立の立場を取ったオケアノスなどに預けられています。
しかしハーデスとポセイドンはゼウスとともに戦っていますから、脱出後すぐに青年の姿にまで成長しているようです。
このあたり矛盾があるようですが、相手は神様ですから人間の理屈を述べ立てても意味はないのかも知れません。
この戦いでゼウスは勝利し、オリュンポスの山頂に居を定め、兄弟たちと世界を治めるようになります。
ただし、ハーデスのみは冥界を領域としたため、オリュンポスを去ることになります。
ハーデスがオリュンポス十二神に数えられないことが多いのはこのためです。
ただし、「聖闘士星矢」においてはしっかり十二神の主要メンバーとされています。
最初の妻の子アテナ
ゼウスの最初の妻は、知恵の女神メティスです。
彼女はオケアノスの娘であり、ゼウスの兄弟を救うための薬を調合し、クロノスに飲ませた張本人でした。
ゼウスの正妻となった後、メティスは子を身ごもるのですが、ゼウスの祖父ウラノスと祖母ガイアが、「生まれて来る子は父をしのぐ」という不吉な予言をしてしまいます。
これに恐れを抱いたゼウスは、なんと妻ごと子供を飲み込んでしまいました。
しかしメティスはこのことを予測しており、甲冑を鍛えて胎児に与えていました。
飲まれた後メティスはゼウスと同化されてしまいましたが、胎児は甲冑のおかげで同化を免れ、やがて父のこめかみから外に飛び出したのです。
これが女神アテナだと言われています。

アテナは最初の正式な妻との間の長子ですので、オリュンポスでは父に次ぐ権威の持ち主とされ、オリュンポス十二神にも数えられます。
二番目の妻の子は?
さて、最初の妻と同化してしまったゼウスは、今度は掟の女神テミスと結婚します。
テミスはウラノスとガイアの娘で、ティターンの一員です。
テミスはゼウスとの間に、ホーライと呼ばれる季節あるいは時間を司る三姉妹と、モイライと呼ばれる運命を司る三姉妹(「ファイブスター物語」などで有名になるクロト・ラケシス・アトロポス)をもうけます。

ただ、彼女たちはその出自の割にはオリュンポスではあまり重要な地位を与えられません。
ホーライはヘラまたはアフロディーテの侍女とされてしまいましたし、モイライはゼウスの秘書官のような役目を担わされました。
ヘラとの子
ゼウスの三人目の、そして最後の正妻がヘラです。

,アンニーバレ・カラッチ,1597年)
ゼウスは彼女との間に、アレスとヘファイストスをもうけます。
アレスはゼウスの正妻から生まれた男子としては最年長なのですが、ギリシア神話ではあまり重んじられていません。
アレスは日本ではよく「戦神」と呼ばれますが、戦争そのものではなく戦争のもたらす災厄を司る神でした。

あまり尊ばれることがなかったのは、その出自が禍々しかったためだと考えられます。
ヘファイストスはゼウスとの子ではなく、ヘラが単独で産んだ子だともされています。
このため不倫の子だと勘違いしたゼウスは、赤子の彼を掴んで地面に投げ捨てました。
この結果、彼は脚が不自由になってしまいます。
しかし鍛冶屋として天性の才能を持っていたため、その後神々のために数多くの武器を鍛え、ゼウスの覇権をサポートし続けます。
愛人たちとの子
ゼウスと正妻たちの子では、アテナ・アレス・ヘファイストスの三人がオリュンポス十二神の中に入っています。
アポロン・アルテミス・ヘルメス・アフロディーテの四人(場合によってはデュオニソスを加え五人)が残っていますが、これらは正妻ではなく愛人との子です。
アポロンとアルテミスは双子で、母はレトです。
レトはクロノスの兄弟であるコイオスとポイベーの娘で、ゼウスの従姉妹に当たります。
レトが双子をみごもったのは、ゼウスがヘラと結婚した後のことです。
このためヘラは激しい嫉妬に駆られ、「ギリシアのすべての土地はレトに出産する場所を提供してはならない」という命令を下します。
その結果レトは放浪を余儀なくされ、デロス島に逃れてアルテミスとアポロンを出産しました。
出生時にはヘラにうとまれたアポロンとアルテミスですが、特にアポロンは多彩な才能の持ち主でした。
そのためヘラも二人を受け入れざるを得なくなり、オリュンポス十二神に数えられることになりました。
ヘルメスの母はマイアで、彼女はティターン・アトラスの娘でありプレアデスの一人とされています。
彼がオリュンポスの十二神とされたのは、ゼウス本人がオリュンポスの伝令役としての神の存在を必要としており、その目的でマイアに近づき、妊娠させたから、と言われています。
アフロディーテは養女

アフロディーテはゼウスとディオーネの娘とされています。
しかしこの母のディオーネの出自は、ティターンであるともアトラスの娘であるとも言われ、あまりはっきりしていません。
ヘシオドスの「神統記」によれば、クロノスがウラノスを襲撃し、その男根を斬った時、海に投げ捨てられた男根についた泡から発生した、とされています。

このように素性がはっきりしないながらも、非常に美しい女神であったため、ゼウスが自分の養女としてオリュンポス十二神に加えた、ということです。
なお、アフロディーテは後にヘファイストスの妻となりますが、アレスを愛人として浮気を楽しんでいた、とも言います。
複雑だが、知っているとよりギリシア神話が楽しくなる!

オリュンポス十二神、と言いますが、実際に神話の中で活躍するのはその一部です。
ヘスティアは「かまどの守護神」として尊ばれていましたが、神話には乏しく、そのせいか後でデュオニソスに十二神の座を譲ったとされています。
じつは豊富な神話に恵まれているのは、「ゼウスの愛人の子」のグループです。
彼らは元々ギリシア人やその先祖に信仰されていた神ではなく、外部からギリシアにやってきた神だと推測されています。
神話が豊富なのは、元いた土地では主神(アポロンとアルテミスの母であるレトは小アジア地域での主神でした)やそれに準じる位置にいたためです。
ギリシアの人々はこうした有力な神々を無視することができなかったため、「ゼウスの愛人の子」という形で自分たちの神話に取り込んだものと考えられています。
その証拠に、愛人の子たちに比べ、正妻の子たちはぱっとしません。
しかしさすがにギリシア全土の最有力都市・アテナイの守護神であるアテナは別格で、神話やその後の時代に作られたホメロスの叙事詩等でも活躍しています。
オリュンポス十二神の序列は、多数の神話が一つにまとまっていく過程で生じたものです。
ある意味本国籍の選手を主体としながらも、外人選手を導入して戦力の強化を図っているプロスポーツチームのようなものだと言えるかも知れません。
なお、巨人との戦いである「ギガントマキアー」の後には、英雄ヘラクレスがヘラの娘ヘーベーの夫として迎えられ、オリュンポスの一員となっています。
複雑ではありますが、このような経緯を知っていると、よりギリシア神話を楽しめるのではないでしょうか。
画像出典:Wikipedia
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