シベリアは神話/民話の宝庫①日本文化とも関連ある民族社会

日本人にとって、自分たちの国の神話・民話のルーツを考えるにあたり、無視できない地域があります。

その地域では古来より、「上手に昔話を語れること」が成人になることの条件とされ、すぐれた語り部は共同体の中で尊敬されるだけでなく、わざわざ遠方より「その人の昔話を聞きたい」という旅人がやってくるほど、民話が生活の一部として重要視されておりました。

いささか意外な地名かもしれませんが、それはシベリアです。

「シベリア」と聞くと、極寒の厳しい土地、とにかく生活するだけでも大変な貧しい土地という先入観が強いかもしれません。

  • 八月にはもう初雪が舞い始め、やがて一日中太陽が姿を見せない長い冬が訪れる
  • 冬の間はそもそも太陽を見る機会のない日々が続き、月やオーロラが生活の明かりとなる
  • 地面も水も凍り、厳しい寒波がすべてを包み込む

そんなシベリアの自然環境が、人間にとってはとても厳しく辛いものであることは確かです。

さらにこの過酷な土地は、ソ連時代には政治犯や戦争捕虜の流刑先としても使われてきました。

ロシア文学に描かれる様々な悲劇のみならず、多くの日本人が命を落とした「シベリア抑留」という歴史的な事件もあるため、多くの日本人にとってシベリアはなんだか恐ろしい、物悲しい土地というイメージになっているのではないでしょうか。

流刑地であるがゆえにロシア人に「発見」された!神話・民話の宝庫としてのシベリア

ところが、20世紀のソ連においてちょっとした逆説が起こりました。

ソ連の体制の中で政治犯と認定された学者や文化人が多数シベリアに強制流刑されたことにより、「シベリアは実はすぐれた神話や民話の宝庫である」ということが彼らによって「発見」されたのです。

シベリアに送られてきたたくさんのロシア人が、そこで積極的に現地の少数民族たちと関わったおかげで、多くの口承神話や民話が記録され、モスクワやサンクトペテルブルクを通じて西欧側に紹介されるきっかけとなりました。

もともと文字を持たない民族ばかりであったシベリアの土地に、古くからの人類の知恵を織り込んだ神話・民話がたくさん「自然保存」されていたことは大変に幸運なことでした。

それがロシアの知識人たちのおかげで「文字として記録」されたことも、人類史にとってたいへん幸福なことでした。

というのも二十世紀の過酷な激動を経て、シベリアでは少数民族がどんどん衰退していきます。

昔ながらの「語り部」も高齢となってしまい、急速に民話を聞く機会が少なくなってしまっているからです。

彼らの文化がどんどん消えていくことをどうするかは、引き続き人類の重い課題です。

口承文学である神話や民話がシベリアにやってきたロシア人たちの手によって大量に記録されていたことは、かろうじての幸運でした。

日本文化も無縁ではない!シベリアの民族多様性!

シベリアは神話・民話の宝庫というのみならず、そこに暮らす少数民族たちの出自もまた多様性に溢れています。

ツングース系もいればエスキモー系もおり、モンゴル系もおり、さらには現在のトルコ人の遠い親戚に当たるチュルク系の民族までが住んでいます!

日本も無関係ではありません。

人類学の研究が進む中、どうやら日本人というのは、南太平洋からきた民族と中国朝鮮からきた民族の他に、シベリアから入ってきた民族の血も引いているのではないか、という説が出てきています。

それを示しているのは、遺伝子上の研究結果だけではありません。

シベリアの民話には「おむすびころりん」や「こぶとりじいさん」とソックリなものがあったり、古代における日本文化との何らかの関連性を予感させる要素が多々あるのです。

「叙事詩を吟ずる者にはいつもミルクを、昔話を語る者にはフェルトの上座を」

シベリアの神話・民話の最大の魅力は、その「やさしさ」にあります。

民話の中ではよくキャラクターは死ぬし、殺人もあります。

そういう意味では現代人の眼から見ると「残酷」に見える部分はあるのですが、全体を支えている宇宙観はとてもやさしいもの。

動物と植物と人間はあくまでも対等であって相互に平等である、という思想を感じることができます。

さらには近現代の体系化された宗教とはまったく別の、より素朴で純粋な「死生観」がそこにはしっかりと息づいています。

そうした神話や民話は、文字を持たない彼らのあいだでは語り部の伝統を通して、次の世代へ、また次の世代へと、着実に継承されてきました。

彼らの伝統では、語り部が少年たちに民話を語って聞かせ、今後は少年たちが自分で同じ民話を語り、そこに誤りがあると間違いを指摘されるという、あたかも「民話の語りの師匠―弟子関係」のような考え方が脈々と生きていました。

そしてすぐれた才能のある語り部は共同体の宝として、とても大事にされました。

「叙事詩を吟ずる者にはいつもミルクを、昔話を語る者にはフェルトの上座を」ということわざがあるくらいです!

宗教や思想などといった「近代的な」イデオロギーとはまったく無縁な彼らのこうした伝統が、むしろ「宗教」や「思想」などよりも強固に彼らの共同体の絆を結び合わせてきたのだ、と考えることができます。

このように、我々日本人にとっても興味の尽きない対象であるシベリアの神話・民話の世界。

今回から4回の連載で、その世界を旅してみましょう!

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