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北欧神話の世界樹「ユグドラシル」は日本にもある樹木だった?

北欧神話の世界は、ユグドラシルと呼ばれる巨大な木の上に存在していると言われています。

このユグドラシル、果たして樹種は何で、どういうところで生育していたのでしょうか。

今回はちょっとマニアックな、北欧神話の世界樹「ユグドラシル」についてご紹介していきます。

北欧神話の世界樹「ユグドラシル」の概要

世界樹ユグドラシル
世界樹ユグドラシル(Prose Edda from 1847, by Oluf Olufsen Bagge)

北欧神話の世界は、全部で9つに分かれています。

それらは宇宙を貫いて立つ一本の世界樹の上に点在しているとされます。

この世界樹が「ユグドラシル」です。

語源は、「Ygg(ユグ)の馬」であるという説が有力で、「Ygg」は北欧神話の主神オーディンの別名です。

なお、北欧神話のすべてにおいて、ユグドラシルの存在が前提になっているわけではありません。

たとえば、太古の巨人ユミルを解体して世界を作ったという世界創生のエピソードには、ユグドラシルについての言及はありません。

ただし、多くの神話の中にユグドラシルのことが語られており、メジャーな存在であったということは明らかです。

北欧神話の世界樹の樹種は「トネリコ」

ユグドラシルの樹種は、「トネリコ」であると言われています。

トネリコはモクセイ科の落葉樹で、原産地は日本です。

しかし残念ながら、「日本原産の木が北欧神話の世界樹になるだなんて!」と早とちりしてはいけません。

じつはユグドラシルは、日本原産のトネリコの近縁種である「セイヨウトネリコ」に属する木なのです。

毎回「セイヨウトネリコ」と正式名称を書くとしつこい感じがしますし、「セイヨウ」とつけるだけでロマンもへったくれもなくなってしまいますから、「トネリコ」としているのでしょう。

ただ、「トネリコ」は元は純然たる大和言葉で「戸塗り木」が訛ったものだと言われています。

こちらも由来を知ってしまうと、ちょっと興がそがれてしまうでしょうか。

ちなみに、セイヨウトネリコの英名は「Ash」です。

「灰」を意味する英単語と同綴同発音となります。

トネリコとオリーブ

先に述べたように、トネリコもセイヨウトネリコもモクセイ科に属します。

ギリシア神話では、北欧神話のトネリコと同じように「オリーブ」が神聖な樹木としてよく登場します。

じつはこのオリーブもモクセイ科で、トネリコとは近縁種にあたります。

ただし、ギリシア神話にもトネリコがまったく登場しないというわけではありません。

たとえば、トロイア戦争の英雄アキレウスの槍がトネリコ製であったと伝えられています。

トネリコは北欧においては材木用として欠くことができない樹木であり、ギリシアが属する地中海地方ではオリーブが生活に密着した重要な樹木でした。

両方ともに神話においてよく言及されるのは、それぞれの地域において、人々が生きるために重要な役割を果たしていたからだと言えるでしょう。

世界各地の神話に見られる世界樹

世界の重要な要素として巨大な樹木を配置する、という考えは、北欧神話特有のものではありません。

世界各地の神話にも、世界樹と呼ぶべき樹木が登場します。

ここでは、そのうちの代表的なものを2つご紹介しましょう。

キリスト教の「生命の樹」

旧約聖書の「創世記」では、エデンの園には「知恵の樹」と「生命の樹」があったとされています。

そのうちの知恵の樹の実をアダムとエバが食べてしまいます。

神は残りの生命の樹まで二人に食べられると、人類は神と同じ力を持ってしまうと危惧します。

そこで、炎の剣とケルビムをもって生命の樹を守らせたといいます。

カバラに記されている生命の樹
カバラに記されている生命の樹

ケルビムは「智天使」と呼ばれる天使のひとりです。

旧約聖書は、キリスト教だけでなくユダヤ教やイスラムでも聖典として扱われています。

そのうちユダヤ教では、カバラと呼ばれる神秘思想が生まれ、その中で生命の樹は重要な役割を担うようになります。

ここでは生命の樹は10個の円(セフィラ)とそれらを繋ぐ22本の「パス」によって図式化されます。

これがセフィロトの樹です。

セフィロトの樹は、「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングで特徴的なシンボルとして登場します。

諸星大二郎の古典的名作「妖怪ハンター」の「生命の木」と題されたエピソードでは、知恵の樹の実ではなく生命の樹の実を食べた「じゅすへる(=ルシフェル)」という名の人祖の子孫たちが登場します。

ケルビムも「けるびん」として登場しますが、天使ではなく猛獣の一種のように描かれていました。

「妖怪ハンター」には、他のエピソードにも「生命の木の実」が重要なアイテムとして登場します。

これらはいずれも、世界の重要な要素として樹木が使われた例と言えるでしょう。

神仙思想の「扶桑(ふそう)」

「山海経(せんがいきょう)」は、中国古代の博物学事典とでも呼ぶべき書物です。

ただ、各地の言い伝えをそのままほぼすべて真実として記録しているので、博物学事典というより妖怪大全集のような内容になってしまっています。

扶桑(ふそう)は、その「山海経」に書かれている大樹で、東方の海中に浮かぶ島に生えていると言われていました。

そこは一種の理想郷で、のちには同じく東方にある仙人の国とされている蓬莱(ほうらい)国と同じものとみなされるようになります。

樹種はその名の示す通り桑であるとも考えられますが、そうではなくもっと様々な樹を混ぜた実在しない樹である、という説もあります。

やがて扶桑も蓬莱国も、中国から見て実際に東の海上にある島国の日本のことを意味する、と解釈されるようになり、扶桑は日本の別名とされるようになります。

これらも、理想郷という重要な要素に樹木が使われた例と言えます。

さらに時代が下ると、日本海軍の戦艦の名前として採用されます。

戦艦扶桑は非常に複雑な形をした艦橋(パゴダマスト)で知られていますが、よく見ると巨大な樹のように見えなくもありません。

ユグドラシルを中心とする神話は、セイヨウトネリコが育つ地域で生まれた可能性が高い

ユグドラシルが属するとされるセイヨウトネリコは、実は北欧三国(そのうちフィンランドは「北欧神話」そのものとも縁の薄い土地ですが)の大部分では生育できません。

また、北欧神話の多くが伝えられたアイスランドでも生育しません。

これはユグドラシルを中心とする各種の神話が、元々はセイヨウトネリコの繁茂する地域で生まれた、ということを意味していると思われます。

じつはユグドラシルをセイヨウトネリコであると言い出したのはアイスランド人のスノッリ・ストゥルルソンらしいのですが、彼がどうしてセイヨウトネリコの存在を知っていたのかはさだかではありません。

ただし、当時のアイスランドはいわゆるヴァイキングたちによって盛んに交易が行われていました。

セイヨウトネリコそのものが持ち込まれることはなかったでしょうが、材木あるいは各種の加工品として持ち込まれた可能性は高いと思われます。

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