トウテツ(饕餮)という中国神話の神獣をご存知でしょうか?
古代中国より伝わる、かなり悪神としての階級(?)の高いオオモノです。
最近ではマット・デイモン主演の米中合作映画『グレートウォール』で、ウジャウジャと万里の長城に攻めてくる怪獣軍団が「トウテツの群れ」と呼ばれておりました。
もっとも中国神話のオリジナル設定を知っている人は、このB級映画『グレートウォール』でのトウテツのザコ軍団扱いにはイラついたことでしょう!
なんでもかんでもCGで大量増殖させたものが攻めてくればいいってわけでもなかろうに……!
そしてもうひとつ!
本稿のライターと同世代のゲーム世代なら、つまり『ロマンシング・サガ』シリーズの洗礼を受けた世代なら、「トウテツ」というキャラクター名には、独特の感慨となつかしさを感じるはず!
ロマサガ3において敵キャラ「トウテツ」は、
- 普通にプレイしていると絶対に出会えない
- それでいて超貴重なアイテムを一定確率で落とす
ということで、熱心なロマサガファンの少年少女たちを「一度でいいから会いたい」と狂わせた、幻のモンスターなのです!
Contents
ロマンシングサガ3のコアなマニアを引き付けた、「幻の敵キャラ」トウテツとは?
トウテツは、ロマサガ3においてはフィールド上でエンカウントする敵キャラとして設定されています。
プログラム上、設定されている、というだけです。
登場はしません。
「よほど複雑な条件が揃わないとエンカウントしない」とウワサになった、幻の敵キャラなのです。
それでいて、たいへんにヤヤコシイ事態が起こっています。
この『ロマンシングサガ3』というゲームは、ラスボスを退治してエンディングに入ると、スタッフロールの背景で、主人公たちがさまざまな敵キャラに必殺技をくらわしている映像が流れるのですが、なぜかそこで必殺技を食らっているモブの敵キャラの中に、トウテツが混じっているんですね。
目ざといファンは、こういうところを見逃さない。
「スタッフロールの後ろで必殺技を食らっているあのモンスターは何だ?」という騒ぎになりました。
しかもロマサガ3には別の裏技として、「ゲームに登場するすべて武器防具を一瞬で取得してしまう」隠しワザがあるのですが、それをやると手に入れられる防具リストの中に「トウテツパターン」という謎の防具が!
「どうもトウテツというレアな敵キャラがいるらしく、それを倒すことでしか手に入らない隠し防具もあるらしい」という騒ぎになりました。
そして当時のゲーム少年少女たちの世界の常として。
「〇〇を〇〇して〇〇すると、トウテツに会えるらしい」というたぐいの根も葉もないデマが大量拡散し、多くのプレイヤーがデマに惑わされた無駄な捜索で夏休みを消化してしまう、という事態となったのでした。
ネット社会になって正体判明!!なんと開発中のバグだった?!
最近のネット社会というのは本当に便利なもの。
ロマンシングサガ3の「トウテツ」についても詳細なデータが出回るようになり、背景を含めてすべてがわかるようになりました。
ネットの情報を総合しますと、「トウテツというレアな敵キャラがおり、それを倒すことでしか手に入らない隠し防具がある」は事実でした!
ただし「レア」の意味は相当に厳しいもの。
レアどころか普通のプレイヤーが出会うことは不可能。
プログラム上「トウテツ」という敵キャラはたしかに存在しているのですが、フィールドで出会える敵キャラの中では最強クラスの難敵設定。
そしてロマンシングサガのシステムは、「主人公たちの強さにあわせた敵が、楽な相手~難敵まで、確率に応じて出てくる」もの。
トウテツの場合は、設定値が強すぎて、「主人公たちが最強レベルになっても確率論的に出てこない」状態(!)になっていた模様です。
そんなキャラが、どうしてレアアイテムを持っていたり、エンディングに登場したりするのでしょうか?
これもネット社会の恩恵で、スクウェア・エニックスの開発者が背景をつぶやいたことがあったそうです。
それによると開発者たちの自己テストの段階では、普通に出てくる敵だったらしい。
リリースに向けてテストを繰り返してバグ取りや設定値補正をしているうちに、いつのまにか「理論上トウテツと遭遇できない」数式になっていたらしい。
広義のバグですね。
それにしても「テストを繰り返しているうちに、意図せざる偶然の結果が生まれた」というのは、開発現場という場所で働いたことがある人間には、痛いほどよくわかる「あるある」ですな・・・・・・。
もともとの中国神話のトウテツは、めちゃくちゃ偉い方だった!
あらためて中国神話オリジナルのトウテツ(饕餮)を調べてみましょう。
- 古代中国神話に出てくる由緒正しい怪獣
- 「体は羊で人面をもつ」などとされているが、出典によって姿の説明はコロコロ変わる
- 日本でいう「ぬえ」のように、「姿かたちは結局ようわからん」が結論の模様
- 貪欲を象徴する悪神である
- 四凶の一、とされている。この「四凶」というのがどれくらいハイレベルな神獣かというとなかなか難しいが、普通に考えて最上位レベルであることは間違いない!
はるか古代から伝えられていること、人間の根源的な悪徳にかかわっている神獣であることから見ると、少なくともそれ以降のたくさんの中国妖怪どもなどは歯牙にもかけない偉い御方といえます!
となると、ますます『グレートウォール』のCGのような描き方は失礼千万ですし、ロマサガ3で「幻のレアキャラ」となったのは偶然の結果とはいえ、オリジナルの神話設定にある意味、忠実ともいえますね!
開発上の偶然が生むこういう「幻のキャラ」は、今後も生まれてほしい!
ロマンシングサガ3の「トウテツ」に会いたいがために、ROMを改造しようとしたり、プログラムを解読しようとしたりした少年少女は少なくなかったはず。
そういう子供たちが情報工学やプログラミングの世界に入って大人になったのかもしれない、と仮定すると、ゲームのもたらす社会貢献というものも、なかなかバカにならないのではないか、と思うのでした。
ゲームというもの、バグは少ないほうが良いに決まっていますが、こういったいい意味での「偶然の面白さ」は今後も残ってほしい。
「多少のアラ」は、むしろ「余裕」ないし「あそびの部分」として、ゲームの世界には必要なことなのではないかな、などとも思う次第でした。
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