みなさんは「クトゥルフの呼び声」という小説をご存知でしょうか?
1928年に発表されたH・P・ラブクラフトの代表作で、クトゥルフ神話の表題にも使われたホラー短編です。
クトゥルフ神話はここから始まったと言っても良いほどの傑作で、現在も続く神話の原典になっているものです。
この記事では、その概要と魅力について解説します。
小説「クトゥルフの呼び声」あらすじ
古代碑文学の権威で、セム語講座の名誉教授でもあったエインジェル教授が謎の死を遂げました。
唯一の後継者である主人公は、彼が残した封印付きの1つの箱に興味を持ちます。
箱の中身は「粘土作りのレリーフ」、「『クトゥルフ教のこと』と記された分厚いノートを中心とするメモ書きのたぐい」、そして「1925年の春に起きた精神異常と集団的狂気を報じた新聞記事の切り抜き」、この3種類に分けることができました。
粘土板には象形文字のような線の羅列と、鱗を持ったグロテスクな胴体に退化した翼の痕跡を持ち、触腕を備え醜く膨れ上がった顔を乗せた奇怪な姿の絵が描かれていました。
大伯父であうエインジェル教授の残したものから、このレリーフを作ったのがウィルコックスという青年彫刻家で、自身が見る奇怪な夢を元に作り上げたということを知ります。
そしてその青年が書き綴った「クトゥルフ・フタグン」という言葉が、主人公を想像を絶する恐怖へと導いていくのです。
この「クトゥルフの呼び声」の中に登場する、本作品どころか神話全体を通しての象徴的な存在、それがあの有名な旧支配者「クトゥルフ」です。
旧支配者「クトゥルフ」

はるか昔、人類誕生より以前に大宇宙から地球に降り立った『偉大なる古き神々』。
その神は死ぬ時に海の底に身を隠したのです。
やがて最初の人類が誕生すると、その夢に現れ神々の秘密を教えました。
その神「クトゥルフ」は海底に沈んでいる大いなる都市「ルルイエ」の隠れ家で眠り、星辰の座が正しい位置になったときに復活し、ふたたび地球の支配者となるのです。
ラブクラフトによって設定されているのは、旧支配者で海底に沈んでいるルルイエという石造りの古代都市に眠っているということと、海洋生物の寄せ集めのようなグロテスクな姿をしているということ、この程度となっています。
その後ダーレスを始め様々な作家の手によって設定が書き加えられ、現在では「水を象徴する旧支配者で、風のハスターと対立関係にある」とされています。
なお、水を統べる旧支配者のような扱いを受けることもありますが、そのような力を示す描写はまったくありません。
Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah’nagl fhtagn
「死せるクトゥルフ、ルルイエ(ル・リエー)の館にて、夢見るままに待ちいたり」
(英語:In his house at R’lyeh, dead Cthulhu waits dreaming.)
上記は、この小説に登場する呪文です。
クトゥルフ神話の代名詞になっている呪文ですが、これに対する詩句が登場していることはあまり知られていません。
「永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ
果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めならば」
(That is not dead which can eternal lie.
And with strange aeons even death may die.)
これは1921年に発表されたラブクラフトの「無名都市」に登場していたものを、後発のクトゥルフの呼び声に引用として登場させたものです。
そしてその引用元はかの「ネクロノミコン」です。

この連句はファンがラブクラフトの死に沿える言葉としても有名で、彼は死んでしまったのではなく、長い眠りについているだけなんだというファン心理を表しているとも言えます。
しかし、ラブクラフトの精神がいまも根強く生きていることを考えると、クトゥルフ神話そのものを指した言葉なのかとも思えてきます。
実のところ、この連句の方が重要なキーワードとなっているのですが、「意味はわからないけど凄い呪文」という強い印象を受けるため、この呪文がクトゥルフ神話を代表する扱いになってしまっています。
クトゥルフ神話の原典がここに
本作品には「旧支配者」「邪教」「ネクロノミコン」の三要素を取り入れ、「故人が残した書類の中から見つかった手記」という但し書きを添えて発表されました。
要所要所で実在の地名を織り込んでいたこともあって、本作を読んだ読者にこれが実話だと思わせる演出も行われていたのです。
隅々まで力を入れた本作は宇宙的恐怖の集大成であり、世界中の読者をその世界に引き込むだけの魔力を持った傑作でもあります。
独特の言い回しに翻訳の精度が重なるため少々難解な小説ではありますが、クトゥルフ神話を語るには避けて通ることができない作品です。
クトゥルフ神話にご興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。
コメントを残す