クトゥルフ神話には、最も有名な施設として「ミスカトニック大学」が存在します。
複数の小説に登場し、この大学に在籍している関係者も多数作中に登場してきますが、大学の全貌をご存じの方は少ないのではないでしょうか。
このページでは、そんな「ミスカトニック大学」の詳細についてご案内をさせていただきます。
Contents
原案者ラブクラフトによる設定
1797年マサチューセッツ州アーカムに設立された総合大学、それがミスカトニック大学です。
名前はアーカムに流れる同名の川から付けられており、アメリカではハーバード大学に並ぶ名門校として知られています。(あくまで設定の話です)
学内には図書館、病院、大学院などがあり、中でも図書館は貴重な物を多数収蔵していることから、世界中の注目を浴びている施設となっています。
大学図書館は魔道書「ネクロノミコン」のラテン語版、旧支配者について綴られた「無名祭祀書」、大魔導師エイボンが残した「エイボンの書」などが含まれています。

危険かつ貴重な書物を所有していますが、管理は厳重で基本的に一般公開はされていません。
ただし部外者であっても、目的を告げて図書館長の許可が降りれば、学内での閲覧は可能です。
ミスカトニック大学は、このような禁書となるような書物がたくさん集められています。
そのため、脅威に立ち向かうための知識や技術を学べる場所だと思われがちですが、残念ながらこの大学はあくまで普通の学校です。
学べる講座も古代史、物理学、動物学、地質学などで、魔法や宇宙的脅威に関する講義はおこなっていません。
しかし、大学関係者には宇宙的脅威に関わることとなった人物が多いため、同大学は「神秘的な何かを秘めたところ」と思われてしまっています。
次の項から、そのような脅威に関わった学内関係者をご紹介しますね。
大学関係者
ヘンリー・アーミテイジ
アーミテイジ教授は、ミスカトニック大学の図書館長です。
2つの大学で博士の学位を持ち、ミスカトニック大学文学修士の学位も持つ高名な人物。
「ネクロノミコン盗難未遂事件」に遭遇したことから、70歳を超える高齢にも拘わらず、謎の人物が残した日記と大学にある魔道書を元にして呪文を会得します。
そして、外なる神「ヨグ=ソトース」と旧支配者の復活計画を阻止するという、人間でありながら宇宙的脅威を打ち倒した数少ない人物の1人です。

(出典:ダンウィッチの怪)
ハーバート・ウェスト
ハーバート・ウェストは、ミスカトニック大学医学部に在籍していたマッドサイエンティストです。
在学時から死体の蘇生に興味を持ち、生物実験を繰り返していたため学内でも嫌われていました。
彼は大学での実験禁止処分にもめげず、薬品を用いて人間の蘇生を行い続けます。
しかし、どれも知性を持たない凶暴な生き物になるだけで実験は失敗を続けていました。
第一次大戦後、ボストンの墓地近くで実験を繰り返していたところ、それまでに彼が復活させた死体たちが押し寄せ、八つ裂きにされてどこかへ連れ去られてしまいます。
彼が消え去った場所には何の痕跡もなく、警察には失踪事件として処理されたのでした。
(出典:死体蘇生者ハーバート・ウェスト)
ウィリアム・ダイアー
ダイアー教授は、ミスカトニック大学の地質学教授です。
1930年に南極探検隊の隊長を勤め、狂気の山脈を越え、ネクロノミコンに記載されていた「古のもの」の化石を発見します。
さらに「凍てつく荒野のカダス」と思われる山脈にある都市で、「ショゴス」と遭遇。
辛くも逃げ出した教授は、この事実を告げて以降、南極探検計画の中止を訴えました。
(出典:狂気の山脈にて)
ナサニエル・ウィンゲイト・ピースリー
政治経済学のピースリー教授は、世にも稀な体験の持ち主です。
1908年の講義中に失神し、再び倒れる5年の間はまったく別人のようになっていたのです。
そして二度目に倒れた後で元に戻ったのですが、その間の記憶がなく、自分が別の生き物となって見たことのない都市で暮らしている夢を見るようになりました。
奇妙に思った教授はそれを調べ続けていくうちに、それが「大いなる種族」という未知の生命体による精神交換だったことを突き止めたのです。
(出典:時間からの影)
アセナス・ウェイト
クトゥルフ神話の登場人物でも非常に珍しい女子大生、それがアセナス・ウェイトです。
彼女はキングスポートのホール大学で学んでいましたが、後にミスカトニック大学に入学しました。
出身はマサチューセッツ州エセックスのインスマスで、当地の名門ウェイト家のお嬢様です。

大学では「魔女」と呼ばれ、右手の仕草だけで犬を遠吠えさせることができるのです。
さらに本人が言うには嵐を起こすこともできるとか。
23歳とは思えないほど魔術に関する知識を持っており、そこに惹かれた詩人エドワード・ダービイと結婚しました。
(出典:戸口にあらわれたもの)
以上が、ミスカトニック大学でも有名な人物たちとなります。
次にこれらの人物が関わり、大学で起きた2つの事件の概要をお話します。
ネクロノミコン盗難未遂事件(ダンウィッチの怪)
不法侵入
ミスカトニック大学図書館長ヘンリー・アーミテイジ教授が在籍されていた1928年、厳重に保管されている魔道書「ネクロノミコン」を盗み出そうとする賊が大学に侵入しました。
これが、「ネクロノミコン盗難未遂事件」です。
幸い図書館に設置された盗難警報機の作動と、学内で飼われている番犬によって賊の目論みは阻止されました。
しかしその賊は人間ではなく、死体も監察医が到着する前に白い塊へ変化してしまったため、市民に事件が伝えられることはありませんでした。
なお、賊が上げた断末魔の悲鳴はアーカム市内に響き渡り、市民の半数が目を覚ましたといわれています。
真相を告げられなかった彼らは、しばらく悪夢に悩まされることになったようです。
図書館長の判断
この賊の名前は「ウィルバー・ウェイストリ」といい、ミスカトニック大学のあるアーカムから北西にある丘陵地帯の村「ダンウィッチ」の住人でした。
ウェイストリは突然ミスカトニック大学へ盗みに来たわけではなく、一度だけ面識のあったアーミテイジ教授に貸出を要請していました。
しかし、教授はウェイストリの「人とは思えない様子」と、閲覧していたページに書かれている内容を思い出します。
そして、冒涜的な外宇宙に関するもの情報を与えてはいけないと判断し、拒否したのです。
事件はそれから半年ほど経った8月に起きました。
犯人の正体
閲覧に来た時のウェイストリは身長2.4メートルの長身でしたが、盗みに来た時はさらに大きくなり3メートル近くになっていました。
それが番犬に襲われ、図書館側の読書室で二つ折りになって倒れているところを発見されたのです。
発見当時は読書室には悪臭が充満し、ウェイストリと思われる物体は膿と粘液にまみれていました。
「思われる」というのは、その大きさのせいだけではありません。
人間どころか地球上にいる生物とは言いがたい形状をしていながら、アーミテイジ教授が出会った人物と同じ顔をしていたからです。
それは明らかに、地球上の生き物ではありませんでした。
この死体はアーミテイジ教授の他数名が確認しただけで、現場へ駆けつけた警官や監察医は見ていません。
よってこの事件は報道に伝えられず、闇へ葬られたのです。
医学部長の遺体消失事件(死体蘇生者ハーバート・ウェスト)
アーカムを襲った疫病
1900年頃、アーカムを襲った疫病「腸チフス」は瞬く間に市内に広がり、ミスカトニック大学もほぼ閉鎖の状態が続いていました。
医学部に所属する医師は全員この伝染病と戦っており、特に医学部長アラン・ハルゼイ氏は、他の医師が見放した患者にも積極的に医療奉仕を行っていたのです。
その状況が一ヵ月も続く中、アーカムの人々は献身的な医学部長を英雄として讃えていました。
しかし本人は疲れきった身体をなんとか動かし、恐るべき病魔と戦うことに専念していたため、その名声に気づくことはありませんでした。
そして病魔が猛威を振るった8月の14日、ハルゼイ医学部長は帰らぬ人となってしまったのです。
医学部長とハーバート・ウェスト
ハルゼイ氏の葬儀はアーカム上げての葬儀となり、大学関係者は全員がふさぎ込んでいました。
しかし、以前より死体蘇生の実験を繰り返し、ハルゼイ氏から実験中止を命令されていたハーバート・ウェストだけは氏を敵と呼んでいました。
そして葬儀後に、蘇生理論を披露して関係者を不快にさせていたのです。
疫病の後に来たもの
葬儀の翌日、疫病以上の恐怖がアーカムを襲います。
名状しがたい何者かが夜中に町を行き交い、人々を惨殺して回ったのです。
死体は引き裂かれ、とても人間がやったとは思えないほど無残な状況でした。
これが連夜に渡って行われ、犠牲者は17人を数えました。
事件発生から3日目の夜、ミスカトニック大学の近くで怪物は捕まりました。
捕獲時に2人が犠牲となり、銃でも致命傷を与えられなかったその怪物は、信じられないことに人間の外見をしていたのです。
そしてその顔を見た捜索隊全員が一番驚愕したのは、それが3日前に埋葬された町の英雄アラン・ハルゼイ医学部長とまったく同じ顔だったことです。
ウェストの失踪
この事件の直後、死体蘇生理論を説いてまわり、ハルゼイ氏を敵とみなしていたハーバート・ウェストが姿を消しました。
怪物は本当にハルゼイ氏だったのか、ウェストが提唱していた死体蘇生が原因だったのかは明確になっていませんが、なんらかの関連があったと見られ捜査が行われました。
しかし、15年以上経ってもウェストは見つからず、真相は不明のままとなっています。
以上の2作品が、ミスカトニック大学を舞台にしたラブクラフトの代表作になります。
それぞれ大学部分だけを抜き出してまとめてみました。
このように、ミスカトニック大学自体は普通の学校なのですが、よく怪異が起こる場所として認知されるのです。
では次に、ミスカトニック大学のモデルについてお話しましょう。
現実のミスカトニック大学
ミスカトニック大学は、H・P・ラブクラフトが創りだした架空の学校です。
そのモデルとなったのは、ハーバード、ブラウンなどのアイビリーグと呼ばれるアメリカ名門連盟に所属する大学です。
もちろんミスカトニック大学そのものは架空の大学ですが、クトゥルフ神話のファンの手によってウェブサイトが立ち上げられているため、「本当に実在している」と錯覚しそうになります。
ネットの検索結果で出てくる複数のサイトは、すべてファンサイトなのです。
その中には有料で卒業証書を発行してくれるサイトもありますが、本当の大学ではありませんのでお間違えのないようにしてください。
また、ミスカトニック大学に関する細かなデータ類はTRPGで設定されているものが多いです。
これらは、その版権元であるケイオシアム社がゲーム用に創作しているものです。
ホラーファン憧れの大学
ご紹介したように、ミスカトニック大学はラブクラフト小説における重要な施設であり、怪異が集まってしまう場所として何度も登場します。
またラブクラフト以外でもこの大学を取り上げた作品は多く、現代においても魔術の集まる中心的な場所として扱われるものが多いです。
もはや普通の大学ではなくなってきているように思えますが……逆にそのミステリアスな印象が、よりクトゥルフ神話を魅力的なものにしていると感じます。
世界のホラーファンが憧れるミスカトニック大学、実在するのなら1度は行ってみたい所ですね。
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