神話の舞台・現代ギリシャ:トルコ領エフェソスの巨大図書館遺跡

かつてギリシャに滞在していたライターが、当時の思い出に絡めつつ現代ギリシャのオススメ観光スポットを紹介するこの連作記事。

今回は少しギリシャを離れて、その対岸トルコの領土内にあるエフェソスという土地を見てみましょう。

現在はトルコ領土だが、是非ギリシャ文明の観光ルートにエフェソスを加えてほしいこれだけの理由!

「トルコにある世界遺産なのに、ギリシャを紹介する連作の一記事に入れちゃうの?」と違和感を持つ方もいるかもしれません。

ですが、これには理由があります。

まずこのエフェソスは、古代にはギリシャ文明の要衝であり、ギリシャ人たちが住んでいた都市であったこと。

現在の国境線でいえばトルコの中に入っていますが、古代の地図では「ギリシャ文明圏」の重要拠点だったということになります。

ヘラクレイトスといったギリシャ哲学や文学の巨人たちにも、このエフェソスの出身者が多かったりします。

そういうわけで、トルコ観光の途中に立ち寄るよりは、ギリシャの古代遺跡を巡る旅のハイライトに加えていただいたほうが、観光ルートとしての「おさまり」としてはオススメ、ということが言えるのです。

もうひとつ、このエフェソスという場所は、ギリシャ側から船で行くこともできる観光地です。

ロードス島などのギリシャの島々をめぐる観光船に乗って、エーゲ海文明の遺跡をいろいろと観光してから、同じ船でエフェソスに立ち寄るというルートこそ、ギリシャ文明を心から堪能できる旅ルートと言えるのではないでしょうか!

船で島めぐりをしながらのエフェソス訪問など、よほどたっぷりな旅程の時間を取らないと、なかなか難しいルートではありますが。

私自身も船でエフェソスを訪問したことがありますが、私のような本好きには、特にたまらない魅力のある遺跡でした。

というのも、ここには全世界の読書好きを驚嘆させる「古代図書館の建物跡」が、かなり良好な状態で残っているのです!

古代都市の生活臭がそのまま残っている!世界遺産エフェソスとはこんな場所!

エフェソスの「アルテミス神殿」
エフェソスの「アルテミス神殿」(原典

世界遺産にも登録されているエフェソスの遺跡というのは、古代の街並みがほとんどそのまま遺跡として遺っている場所、となります。

道路や建物の跡が、かなり良好に残っているので、ここを歩くだけで古代人たちの生活を想像できます。

ただの道路や建物だけでなく、他の古代遺跡とはレベルが違う細かさのものまで遺っているのがこちらの面白さです。

たとえば娼婦館。

売春宿として使われた建物が遺っているというだけなら、「それはたしかに凄いけど、娼婦館跡くらいなら世界の他の国の遺跡にもぼちぼちあるのでは?」と思うかもしれません。

しかしエフェソスの場合、重要なのは、「娼婦館はコチラ!」という道案内マークが道路に刻まれたままになっていること!

館の方向を示す足型のマークが遺っているのです。

世界最古レベルの「道路広告」というところです。

案内先が売春宿、というところが、「人間ってやつは昔から」とやや気持ちの萎えるところもありますが。

他に面白いのが、公衆トイレがそのまま遺っていることでしょうか。

座って用を足すための穴が、並んでキレイにあいている場所があるのです。

「こんなにあけっぴろげな場所で?!」と思うかもしれませんが、どうやら古代の世界では、「公衆トイレというのはそこに座って用を足しながら、隣の人と世間話をする社交の場」として扱われていたらしいです。

現代のトイレの感覚とはずいぶん違う開放感あふれる作りになっていますね。

娼婦館だのトイレだのといった、あまりに生活臭が強い場所が遺っているところがエフェソスの面白さですが、そんなに不潔な印象がしないのも、古代地中海世界のおおらかな雰囲気ゆえでしょうか。

読書好きにとってのハイライトはこれ!古代図書館跡!

そして少年時代の私を驚嘆させたのが古代図書館跡となります。

このエフェソスにあるケルスス図書館は、古代世界で12万冊という蔵書数を誇っていたという大図書館。

現在遺っているのは建物の正面を復元したもので、当時そのままの建物は崩壊したままです。

しかしその正面の威容を見ただけで、なるほど12万冊くらいの蔵書をほこっていたさぞかし雄大な建物だったのだろうと、当時の栄華に思いを馳せることができます。

本が好きな人には、とりわけたまらない感動があるはずです。

エフェソスのセルシウス図書館の跡地
エフェソスのセルシウス図書館の跡地(原典

「こんな古代都市に大図書館があったなんて不思議」と思うかもしれませんが、実は古代ギリシャは、紀元前5世紀の頃には「1ドラクマ(労働者の一日の日当くらいという説)で一冊の本が買える書店」なるものが既にアテネに存在していたと伝えられるほど、「書物がポピュラーな古代文明」でした。

その要衝の都市に一大図書館があったとしても不思議ではありません。

ただ、当時の「本」というのは、パピルスや羊皮紙に丁寧に書かれた「てづくり」の巻物や冊子だったはず。

それが12万冊も収められている館内の書庫はどういう風景だったのかと、想像するだけで楽しいですね。

この図書館に遺っているレリーフには、「この図書館は寄付によってできたもので、建造にいくら、蔵書の購入にいくら、司書への給料にいくらが割り当てられた」という意味の言葉が刻まれています。

しかし残念なことに、この文字はあちこちが欠落しているために、肝心の「給料がいくら」のところが判読できないそうです。

もしこれが完全な形で遺っていれば、娼婦館への広告、公衆トイレに続いて、図書館員の給料の額まで今日に伝えてくれる「さらに生活臭たっぷり古代遺跡」となったはずだったのですが!

はたして古代図書館の司書というのは、割のいい職業だったのか、そうでもない低賃金だったのか?

それを知る絶好の機会が失われたままというのは、本好きとしては、なんとも残念!

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