【日本神話】鬼滅の刃に登場する鬼の正体とは

不動利益縁起絵巻(部分)
『不動利益縁起絵巻』(部分)

累計1億5000万部(2023年3月時点)を超える世界的ベストセラーとなった漫画「鬼滅の刃」。映画化された「鬼滅の刃 無限列車編」が日本歴代興業収入第1位となるなど社会現象となりました。

心優しい主人公が、鬼になってしまった妹を人間に戻すため、鬼殺隊の隊士となり仲間と共に元凶である人物に迫っていく物語です。単純な勧善懲悪のストーリーではなく、元は普通の人間だった鬼を切ない存在として描いているところが大きな魅力となっています。

これだけ人気のある漫画ですから十分完成された作品なのですが、この物語にさらに隠されたメッセージがあるとしたらどうでしょう。

鬼滅の刃に登場する鬼は伝染病の暗喩ではないかという説が一部のファンの間で囁かれているのです。

今回はそんな「鬼=伝染病説」について解説していこうと思います。

鬼は伝染病の暗喩だった?

鬼滅の刃の「鬼=伝染病説」の根拠を紹介していこうと思います。

まず鬼滅の刃に登場する鬼は生殖行為をせず、生きた人間を媒介して増えること。そして殺菌効果のある日光を嫌う事です。

これはゾンビ映画にもよくある設定ですが、そもそもゾンビの概念は、人間にも感染する狂犬病がモデルになっていると言われています。

また作中でも特に強い鬼は、過去に世界的なパンデミックを引き起こした伝染病を暗喩しているように思えるのです。

ラスボスを除いて最も強い鬼である「黒死牟」は名前のとおり黒死病(ペスト)。二番手とされる「童魔」は微細な血の氷を空気中にまき散らす技を使い、吸い込んだ敵の肺を壊死させます。このため肺結核を暗喩していると言われます。

他にも特に人気のある猗窩座(あかざ)という鬼は麻疹(あかもがさ)を、遊郭で花魁に化けている「梅」という鬼は梅毒を暗示していると言われます。

また病名は明らかになっていませんが、鬼殺隊の長である産屋敷耀哉も重篤な病気にかかって死期が迫っている様子が描かれています。

このように直接的、間接的に関わらず病を連想させる要素の多い作品となっているのです。

鬼と疫病神

では少し視野を広げて鬼と伝染病の関係を、歴史を紐解きながら見ていきましょう。

日本では古来、病気は怨霊や悪鬼、もののけなどと表現される思念体のような存在によってもたらされると信じられていました。

そして平安時代になると、病気をもたらす「疫鬼(えきき)」の概念が中国から入ってきて貴族階級を中心に広く普及し、これが日本風にアレンジされ「疫病神」となりました。

ちなみに鬼滅の刃の作中の鬼の元凶である鬼舞辻無残というキャラクターも平安時代の貴族の産まれです。

中国では疫鬼を追い払うために追儺という行事が行われていました。この追儺も日本にもたらされ宮中行事として継承され、今では節分とも呼ばれるようになり一般的な行事となっています。

つまり我々が節分に鬼と呼んで追い出そうとしているのは疫鬼であり疫病神、つまりは伝染病なのです。

鎌倉時代に描かれた「春日権現験記絵」には、弱った病人の家を覗きこんでいる赤鬼の姿が描かれています。まさに我々がイメージする鬼の姿をした生物が、まるで死神のように描かれているのです。

鬼=疫病神 だということが現実味を帯びてきたのではないでしょうか。

ではここで疫病神としての鬼が描かれた作品をもう一つ見てみましょう。

同じく鎌倉時代に作られた物語絵巻「不動利益縁起絵巻」には、安倍晴明と対峙する疫病神の姿が描かれています。こちらの疫病神は筋骨隆々な鬼の姿とは少し違い、小柄で珍妙な生物が行儀よく座っている様子が描かれています。

不動利益縁起絵巻(部分)
『不動利益縁起絵巻』(部分)

よく見るとあまり馴染みのないエキゾチックなデザインで描かれているのも特徴です。当時日本では、病気は外国からやってくるものと考えられていたため、その影響かもしれません。

しかもこの場面、安倍晴明が疫病神を祓おうとしているシーンです。殺されるかもしれない状況で、なんとも呑気で憎めない雰囲気です。

鬼滅の刃で描かれる、単純に悪者と決めつけることのできないどこか憐憫を誘う鬼のイメージというのは日本人にとって普遍的なものなのかもしれません。

日本人と疫病の歴史

最後に伝染病と日本人の関係についてもう少し紹介します。

日本の歴史上、確認できる最古のパンデミックは、崇神天皇の時代(3~4世紀)に発生したと言われています。古事記、日本書紀の両方に言及があり、当時の日本人口の半数近くが亡くなったと記されています。

日本書紀には、崇神天皇が疫病を治めようと様々な祭祀を行った様子が詳細に記されています。そして最後に神託を受ける様子が以下のように記されています。

『崇神天皇の枕元に大物主大神が現れて、「私を祭神とした祭りを行えば、疫病は治まるであろう」とお告げをします。その通りに大物主大神を祀らせたところ、お告げの通り疫病はやみました。』

こうして創建されたのが、日本最古の神社とされる奈良県桜井市の大神神社です。日本で最初の神社は疫病を鎮めるために創建されたのでした。

また、崇神天皇は複数の強力な神を宮中で祀っていることが災いしていると考え、天照大神を宮中の外に遷して祀り、これが伊勢神宮の創建に繋がっていきます。

一説によれば神武の東征も、疫病の流行から逃れて大陸から渡ってきた渡来人により玉突き式に東方へ押し出された集団の大移動ではないかと言われます。

このように日本史と疫病は切っても切れない関係です。「七つまでは神のうち」と言い、ただただ子供が死なずに成長していくことに感謝し、それが七五三の行事となりました。

病気で死ぬのも当然のことという諦観が、疫病神をどこか憎めない存在のように想像させたのかも知れません。

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