因幡の白うさぎの正体は?神?使者?氏族?巫女?

皆さんは子供のころに絵本で「因幡の白うさぎ」の話を読んだことがあるでしょうか?

因幡は「いなば」と読み、現在の鳥取県の東部にあたります。

テレビの「まんが日本昔ばなし」でも放映されましたから、見た人もいるかもしれません。小学2年生の国語の教科書にも載っていますので、国語の授業で習った人もいるでしょう。

「因幡の白うさぎ」の話は、日本最古の書物である『古事記』におさめられているエピソードです。

隠岐の島の白うさぎが鰐ザメをだまして並ばせて、その背中を跳んで海を超え、因幡に渡ることに成功します。

しかし、だまされたと知ったサメに白うさぎは毛皮をむしられます。

その白うさぎが大国主命(オオクニヌシノミコト)に助けられる、というお話です。

さらに詳しく!因幡の白うさぎとは

因幡の白うさぎについて概略を述べましたが、詳細な部分も興味深いです。

隠岐の島の白うさぎは、海を越えて因幡の地へ行きたいと思っています。

そこで白うさぎはサメに、「自分たちとサメのどちらが多いか」と話しかけます。

白うさぎはサメの個体数を数えてあげるから並んで、と頼んだわけです。

そして白うさぎは数を数えると嘘を言って、サメの上を飛び跳ねながら、海を渡ったのです。白うさぎといいながら腹が黒いですね。

ここまで読んで、私は子供の頃に「何て賢いうさぎなんだ」と思ったものです。

しかし、最後のサメ1匹で、白うさぎはサメ達をだました事を告げてしまうのです。そのため白うさぎはサメに毛皮をむしられます。

これを読んで、私は「何て馬鹿なうさぎだ」と思いました。白うさぎはサメに「あなたたちは〇匹いますよ、わたしたち白うさぎよりたくさんいますよ」と言えば、サメは怒ることなく毛皮もむしられずにすんだはずだからです。

エピソードはさらに続きます。

毛皮をむしられた白うさぎのかたわらを、多くの神様が通ります。

神様たちは絶世の美人といわれる姫のもとへ、プロポーズしに出かけている途中でした。神様にしては俗人的ですね。

その神様たちは白うさぎに、「毛皮をむしられた皮膚に海水をすりつけて風にさらし、日光を浴びろ」と嘘のアドバイスをするのです。神様というより悪魔のようなアドバイスです。

その後に大国主命が通ります。大国主命は先ほどの神様たちの弟です。

そして大国主命は白うさぎに、「皮膚を真水で洗って、蒲(がま)の穂をすりつけるように」とアドバイスをするのです。

蒲の花粉は漢方の蒲黄(ホオウ)で、傷薬として現代医学でも使用されています。医学的にも根拠のある適切なアドバイスをしたのです。

その通りにしたおかげで良くなった白うさぎは大国主命に感謝します。

そして、大国主命が絶世の美人の姫と結婚することを予言するのです。

古事記と大国主命

因幡の白うさぎのエピソードは、古事記のどのあたりに出てくるのでしょうか。

まず古事記というのは西暦712年に編纂された日本最古の書物です。日本という国のはじまりから今の天皇に通じる話、様々な神さまのエピソードなどがおさめられています。

因幡の白うさぎのお話は、この古事記に登場する大国主命のエピソードの1つです。

古事記は上巻・中巻・下巻と別れますが、因幡の白うさぎのエピソードは上巻の中間くらいのところに書かれています。

ちなみにこのエピソードは古事記にはありますが、日本書紀にはありません。

さて、因幡の白うさぎのエピソードは大国主命の優しさを伝え、天皇の祖先としてふさわしい印象を与えます。

大国主命が白うさぎを治療する方法を教えたのは、医学の知識に明るいというメッセージにもなります。先述のとおり現代医学で止血や消炎の傷薬である蒲黄(ホオウ)を白うさぎに治療法として薦めたのですから、驚きです。

大国主命が「医療の神」と言われているのは、この因幡の白うさぎの話によるものです。

なお白うさぎの予言通り大国主命が結婚したため、大国主命は「縁結びの神」とも言われています。

因幡の白うさぎとは何ものか

それでは、因幡の白うさぎの正体は何でしょうか?

白兎神社や白兎海岸と名前が残るくらいですので、ただの小動物ではなく、特別な存在には違いありません。

実際に白兎神社では、因幡の白兎は神であったと伝えられています。

また、うさぎは真っ白いうさぎであったことから、神の使いであったのではないかという説もあります。

ちなみに白兎神社のホームページには、先代宮司の考察として、以下のような解釈があります。

白兎というのは、実は野に住む兎でなく、神話時代にこの地方を治め信望の高かった一族のことを言ったものです。

白兎と呼ばれたのは、兎の如くおだやかであったからだと言われています。

白兎一族は航海を業としていました。一族は、沿海をおびやかしていた「わに」と呼ばれていた海賊と淤岐之島付近で戦ったのです。

最後の一戦で負傷して苦しんでいる白兎の一族が、大国主命に助けられました。

後に大国主命と協力して「わに」を討伐してこの地方を治め、大国主命に八上比売を嫁とらせました。

そのため後世まで白兎神として崇敬される様になりました。

また、作家の阿刀田高氏も『楽しい古事記』で因幡の白うさぎは重要な使者として次のように解釈しています。

『読み 落とさ れ がち なのは、 この 後、 兎 は 兎 神 と なっ て いる。 そして オオアナムジ(※ライター注 大国主命) に対して、 「(中略) あなた こそ が ヤガミヒメ を めとる 人 です」 と、 予言 を し て いる こと だ。 ただ の 兎 では ない。』

『兎 は 隠岐 と 因幡 を 結ぶ 重要 な 使者 の よう な 役割 を 暗示 し て い た の かも しれ ない。』

『日本人と動物の歴史』の實吉達郎氏は『「因幡の白ウサギ」の驚くべき正体とは』で以下のように説明しています。

白うさぎは、実は人間の若者のことを指しているのでした。

実際の古事記の記述でも「我が衣服を剥ぎ‥‥‥」とあります。

白うさぎが皮をはがれて伏せっていたのはおかしいといいます。

そうではなく人間の若者が服をはがれて、恥じ入っていたと説明しています。

和邇と白兎の二つの氏族がその人員の数を競い合って、だましたり、ひどい目にあわせたりした。

それを第三の氏族が助けたということです 。

『本当は恐い! 日本むかし話』深層心理研究会 では、次のように話を書き換えていました。

白うさぎは、巫女つまり若い女性になっていました。

実際 に白うさぎは大国主命の結婚を予言するのですから、巫女であるという話も納得できますね。

因幡の白うさぎの教訓

因幡の白うさぎのエピソードで得られる教訓は何でしょうか?

  • 教訓1

他の人や他の生物に優しくすると、幸せが訪れる。善因善果、情けは人の為ならず、ですね。

  • 教訓2

人をだますと、自分も不幸な目にあう。悪因悪果、因果応報、自業自得、人を呪わば穴二つ、人を謀れば人に謀らる、ですね。

  • 教訓3

白うさぎは最後のサメの上で、言わなくてもよいことを言って身の破滅を招いたわけです。口は災いの元、雉も鳴かずば撃たれまい、ですね。

  • 教訓4

最後の最後まで気を緩めないようにしないと、失敗するという教訓かもしれません。
油断大敵、好事魔多し、勝って兜の緒を締めよ、ですね。

  • 教訓5

考えてみると、白うさぎが隠岐の島から因幡まで渡るなんて、うさぎ史上初の大偉業でしょう。

サメを並べて海を渡るという白うさぎの発想は、私には創造的イノベーションだと思いました。私は、壇ノ浦の戦いでの源義経の八艘飛びを連想しました。なせばなる、一念岩をも通す、ですね。

世界各国の因幡の白うさぎの類話

世界各国にある因幡の白うさぎに似た民話を紹介しましょう。

アフリカの民話に次のようなものがあるそうです。(『子どもに語る世界昔ばなし』桔梗泉、竹下景子 編 主婦と生活社より)

うさぎが湖を迂回するのが面倒になりました。
鰐に数を数えると騙して、湖を渡ります。
しかし、うさぎは鰐に尻尾を食いちぎられてしまい、そのために現在のうさぎの尻尾は短いのです。

インドネシアの民話に次のようなものがあるそうです。(『この一冊で 日本の歴史がわかる』小和田哲男著 三笠書房より)

うさぎでなく、小鹿が主人公です。
小鹿が洪水のために川を渡れなくなりました。
小鹿が鰐を騙して集めて、背を踏んで渡り、鰐をあざけるそうです。

シベリアの民話に次のようなものがあるそうです。(『世界昔話ハンドブック』稲田浩二編 三省堂 P67 P215より)

うさぎとサメではなく、狐とアザラシが登場します。
狐は悪さをして、海の島にアオサギに運ばれました。
狐はアザラシの数を数えると言って並ばせ、背を渡り陸に戻ります。
狐は人間の罠にかかって、皮をはがされます。
その後、狐は皮が生え、よみがえります。
因幡の白うさぎに通じるような話は、やはり他の国にもあるのですね。

因幡の白うさぎの正体

因幡の白うさぎの正体は何なのか。大きく4つの解釈があります。

  1. 使者
    1. 神の使者
    2. 隠岐の使者
  2. 白兎氏族の一員
  3. 巫女

私個人的には、3の白兎氏族の一員だろうと考えています。

もっとも古事記では白兎でなく素菟ですから、素菟氏族かもしれませんが、ここでは白兎氏族として話を進めていきます。

隠岐の島の白うさぎが日本本土の因幡に行こうと思ったのは、次のように説明できます。

隠岐の島を支配していた白兎氏族が因幡を支配下に治めようと考えました。

そのためには、隠岐の島と本土の間に海賊の和邇氏族がいますので、和邇氏族を倒さなければいけません。

白うさぎが鰐ザメにどちらが数が多いか比べようと言ったことも説明できます。

隠岐の白兎氏族と海賊の和邇氏族がそれぞれ氏族の人員の数を競い合い、勢力争いをしていたのです。

人員の数というのは兵士の数で、昔はその数で優劣が決まったのだと思います。

白兎氏族は和邇氏族をだまして進軍して、因幡近くまで渡海しました。

しかし、白兎氏族は最後にミスを犯しました。

戦果を過信した白兎氏族は、自らの作戦を誇り、和邇氏族をあざ笑ったのです。

白兎氏族は因幡近くで和邇氏族につかまり、衣服(鎧兜)をはがれ、傷を負いました。

大国主命の兄たちは白うさぎに嘘を教えて、苦しめました。

劣勢になった白兎氏族に対して、大国主命の兄たちは和邇氏族側につき、迫害したのだと思います。

しかし、大国主命は白兎氏族側につき、けがをした白兎の兵士を治療し助けました。

大国主命が医学の知識を与えたことは、白兎氏族の健康面で支援し、ひいては富国強兵に貢献したかもしれません。

白うさぎが大国主命の結婚を予言したというのはあまりにも唐突のようですが、これで納得ができます。

白うさぎが感謝して予言したからといって、実現しなければお礼の意味がありません。

感謝した白兎氏族が大国主命の結婚を強力に応援して、自らの力で実現させたのです。

つまり、白うさぎの予言は自己実現予言であり、白兎氏族の大国主命に対する忠誠の証であったと思うのです。

以上のように考えると、因幡の白うさぎの不自然な記述が解消されると思います。

なぜ、白うさぎとサメが人語を話せるのか?
→ 白うさぎもサメも人間であり、メタファーだから。

なぜ、隠岐の島の白うさぎが因幡に行こうと思ったのか?
→ 隠岐の島の白兎氏族が因幡に進出しようと思ったから。

なぜ、白うさぎとサメは自分たちの数を数えようとしたのか?
→ 白兎氏族と和邇氏族が勢力争いをしており、自らの兵の数を競っていたから。

なぜ、白うさぎはサメの背中を渡ることができたのか?
→ これは白兎氏族の騙し討ち作戦が成功したから。

なぜ、白うさぎは最後にサメにだましたことを告げたのか?
→ おそらく白兎氏族に騙し討ちの作戦で勝ちを過信した驕りがあったから。

なぜ、サメは白うさぎを牙で殺さず、毛皮をはいだのか?
(そもそも、どのようにして、サメが白うさぎの毛皮をはぐことができるのか?)
→ サメも白うさぎも人間のメタファーで、毛皮をはぐというのも、衣服(鎧兜)をはがし、傷を負わせたことのメタファーだから。

なぜ、大国主命の兄たちは、白うさぎを苦しめたのか?
→ 大国主命の兄たちは和邇氏族側についていたから。

なぜ、白うさぎが大国主命の結婚を予言することができたのか?
→ 白兎氏族が大国主命の恩に報いるために大国主命の結婚を応援したから。

 

以上、因幡の白うさぎのエピソードと、白うさぎの正体について考察しました。

たくさんの人が知っているエピソードですが、そのストーリーになった背景や白うさぎの正体について考えてみると新しい発見があり面白いです。

そのような考察が楽しめるのも、このエピソードが多くの人に親しまれている理由なのかもしれません。

参考文献
  • 『楽しい古事記』阿刀田高 著 角川書店
  • 『日本人と動物の歴史』實吉達郎 著 カンゼン
  • 『本当は恐い! 日本むかし話』深層心理研究会 編 竹書房文庫
  • 『世界昔話ハンドブック』稲田 浩二 著 三省堂
  • 『この一冊で 日本の歴史がわかる』小和田哲男 著 三笠書房
  • 『子どもに語る世界昔ばなし』桔梗泉 竹下景子 編 主婦と生活社
  • 『面白いほどよくわかる日本神話』ミスペディア編集部著
  • 白兎神社のホームページ
  • 出雲大社のホームページ

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