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北欧神話の終末エピソード「ラグナロク」とは?

トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)
トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)

「ラグナロク」または「神々の黄昏」と呼ばれる北欧神話のエピソードは、ファンタジー世界ではあまりにも有名です。

しかし、単語だけが一人歩きしてしまい、その具体的な内容については知らない、という人が大部分なのはないでしょうか。

ここでは、「ラグナロク」がどのような形で現代に伝えられたのかと、その具体的内容についてご説明します。

ラグナロクの元ネタは非常に難解な予言詩だった

ラグナロクについては、『王の写本』と呼ばれる古エッダ(北欧神話について語られた歌謡集)に記載されています。

正確にはこの中の『巫女の予言』という一節にラグナロクの記述があり、スノッリ・ストゥルルソン著の『新エッダ』にもこれが引用されています。

『エッダ』の表紙
『エッダ(スノッリのエッダ)』の表紙。18世紀アイスランドの写本『ÍB 299 4to』(アイスランド国立大学図書館(英語版)所蔵より)

元々は口承で伝えられた詩が先にあり、『巫女の予言』も『スノッリのエッダ』もそれを(多少の編集を加えながら)筆記していったものであろうと考えられています。

巫女の予言は、「ヴァルヴァと呼ばれる巫女が主神オーディンに語った予言」という形で綴られます。

巫女(ヴォルヴァ)が予言を語る姿
巫女(ヴォルヴァ)が予言を語る姿。1893年にスウェーデンで出版された Fredrik Sander 版『詩のエッダ』の挿絵より。

内容は状況説明の前置きがなく、いきなり予言で始まります。

また、北欧神話の他のエピソードも説明なしに多数引用されています。

さらに固有名詞などが間接的な表現になる(トールの名を直接呼ばず、「オーディンの息子」などと呼ぶなど)ため、ただ文章を読むだけではその意味するところはほとんどわかりません。

ただし、「ここまではよろしいか。次は何を知りたいか」などといったいかにも予言の言葉らしいフレーズが随所で繰り返されるので、その迫力だけは確実に伝わってきます。

北欧神話の神々と巨人たちの最終決戦

ラグナロク。神々の戦いの様子
ラグナロク。神々の戦いの様子(Johannes Gehrts作、原典

北欧神話の神々は、アース神族・ヴァン神族・ヨトゥンの3種類に分類されます。

ヨトゥンは通常、日本語で「巨人」と訳されます。

そのため、神々よりは格下の存在のように思われますが、じつは北欧神話では神と同格の存在です。

性格がギリシア神話に登場する荒々しい神「ティターン」に近いため、「巨神」と訳した方が正確かも知れません。

アース神族とヴァン神族はかつて争っていましたが、後に講和し同化しつつありました。

しかしヨトゥンとの間には緊張状態が続いており、これが破れたとき「ラグナロク」に至るのです。

これもギリシア神話における「ティターンとの戦い(ティタノマキア)」と構図は同じです。

オリュンポス神とティタノマキア(Fall of the Titans.)
オリュンポス神とティタノマキア(Fall of the Titans.)

ただし神が敗れてしまうという点では、「ギガントとの戦い(ギガントマキア)」の方が近いと言えるでしょう。(ギガントとの戦いでは、オリンポスの神々は人間ヘラクレスの力を借りてようやく勝ちを得ていますので、事実上負け戦だったのです。)

「神々が二派に分かれて最終決戦を行う」というパターンは、インド・ヨーロッパ語族の神話の中にいくつも見出されます。

典型的なのがゾロアスター教に取り込まれたアフラ・マズダとアングラ・マイニュの戦いです。

このエピソードは、聖書の黙示録にも影響を与えたと言われています。

ラグナロクは、インド・ヨーロッパ神話の古い要素を受けついだだけでなく、後からその枝分かれエピソードだった黙示録の影響も受けたのではないかと言われています。

そして訪れる「神々の黄昏・ラグナロク」

ラグナロク
ラグナロク(Johannes Gehrts作、原典

「ラグナロク」においては、それまで北欧神話の主役を務めていた神々が次々と死んでいきます。

フレイは炎の巨人スルトに敗れ、トールは大蛇ヨルムンガンドを殺した後、九歩後ろに下がって倒れます。

トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)
トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)

主神オーディンは魔狼フェンリルに飲み込まれてしまいます。

主な神々でひとり残ったヘイムダルはロキと相打ちになり、最後にスルトが「光り輝く剣」を投げて、世界樹ユグドラシルを焼きつくしてしまいます。

オーディンとフェンリル、フレイとスルトの戦い(Emil Doepler,1905年)
オーディンとフェンリル、フレイとスルトの戦い(Emil Doepler,1905年)

これでアース神族・ヴァン神族は全滅したわけではなく、オーディンの息子ヴィーザルは父が飲み込まれた直後にフェンリルを引き裂いて仇を討ち、トールの息子モージやマグニも生き残ります。

また、ラグナロクのきっかけとなった事件で殺されたオーディンの息子バルドルが復活し、新しい神々の主となる、とされています。

ラグナロクが終わり、新しい世界が始まる
ラグナロクが終わり、新しい世界が始まる(『An eagle and a waterfall』、Emil Doepler作、原典

ただしこれは、キリスト教の影響を受けて作り変えられた話であろうという説もあり、生存者のいない「全滅エンド」が本来の形だったと主張する学者もいます。

バルドルの地位はラグナロク以外の北欧神話では概して低く、中には半神ではあるが人間であったとするものもあります。

他の「父の仇を討った」神々も、仇討以外のエピソードに乏しく、仇討用に作られたキャラクターである疑いが濃厚です。

ラグナロクはその当時の情勢・時代を反映して生まれた

北欧の神々を信仰していたヴァイキングたちが活動した時代は、「中世の温暖期」と呼ばれグリーンランドが文字通り「緑の島」だった時期だとされます。

彼らはその温暖期が長くは続かず、また以前と同じような冬の時代がやってくると考え、ラグナロクという世界が滅びる神話を創造していったのかも知れません。

また、ラグナロクが伝承から書物へ記録されるようになった時代は、キリスト教が普及し旧来のゲルマンの信仰が排斥され、消えていく時代でもありました。

このようなことも、陰鬱で破滅的な独特の雰囲気を持つ神話の形成に影響したと考えられます。

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