今回は「Fate/Grand Order」の登場人物から、古代エジプトの王「ラムセス2世(オジマンディアス)」についてのお話です。
FGOでの描写においては、まず王としての威厳と尊大な態度が印象に残るキャラクターですが、実際歴史上の彼はそうした言動に恥じない、歴代のエジプト王の中でも類を見ないほどの実績を残しています。
そんな彼の輝かしい功績について迫ってみたいと思います。
古代エジプトで最も偉大な王

ラムセス2世、別名オジマンディアスという人物は、紀元前13世紀頃に存在した王朝、エジプト新王国第19王朝のファラオの一人でした。
ラムセスという名の意味は「ラーによって生まれた」というもの。
エジプトの王は神と同一視される存在だったため、エジプト神話の最高神でもある太陽神ラーの子という意味を持つ名をつけられたのです。
別名のオジマンディアスは王として即位した際の名前で、意味は「太陽神ラーの力強い真理によって選ばれた者」と、やはり太陽神ラーにまつわるものです。
諸説はありますが、彼は20代半ばで即位し、その後90歳前後で亡くなるまでの60年以上もの間エジプトの王をつとめたとされています。
古代エジプトの平均寿命は35歳程度であり、年齢は実にその倍以上と非常に長生きです。
身長も残されたミイラから180cmほどと判明していますが、これは当時の平均とされる160cm台を大きく上回っています。
このように当時としては非常に恵まれた肉体を持っていたため、王としてだけでなく戦士としても優れた人物であったようです。
実際にラムセス2世が統治していた時代のエジプトは近隣諸国との戦争で多くの勝利をおさめ、その勢力を大きく広げていきました。
また戦果のみでなく、多くの建築物を残すなど多様な功績を挙げており、これらから歴代エジプトの王の中でも最も偉大な王と言われています。
「カデシュの戦い」――世界最古の停戦協定

ラムセス2世は近隣の国々と数多くの戦争を経験していますが、その中でも有名なものが「カデシュの戦い」というものです。
これはエジプトとヒッタイトという国との戦いですが、世界初の停戦協定が結ばれたという歴史的な出来事があった戦いでもあります。
ラムセス2世が王となって数年目の頃、エジプトの勢力を広めるためヒッタイトの属国であったアムルという土地に侵攻した事からこの戦いは始まりました。
アムルでの戦いではまずエジプト軍が勝利してこの土地を手に入れましたが、ヒッタイトの王ムワタリ2世もこれに対抗するため、同盟国の協力を募ってアムル奪還に向かい、両軍は激突します。
この戦いはエジプト・ヒッタイト両国にとって消耗を強いられる長期戦となりました。
特に戦争の名前にもなっているカデシュという土地ではエジプト軍は偽の情報に騙されて待ち伏せ攻撃を受け、これが手痛い損害となってしまいます。
その後もエジプト側、ヒッタイト側双方から援軍がかけつけては一進一退の展開を続け、戦いは膠着状態におちいりました。
この状況を見かねたヒッタイトの王ムワタリ2世は停戦を申し出て、ラムセス2世はこれを受け入れました。
そして両軍撤退という形で長かった戦いは集結します。
停戦の証として、今後戦いを起こさない事を神々に誓う内容の文が記された粘土板が両者の間で交わされました。
この粘土版は世界最古の停戦協定文書としてユネスコ記憶遺産に登録されており、イスタンブール考古学博物館に今も展示されています。
建築王と呼ばれる王
彼は戦争によってエジプトの領土を広げていく一方で、戦勝記念などの記念碑を作ったり、また各地に神殿やオベリスクなどを建てたりと多くの建築物を作りました。
それらは数においても各々の大きさにおいても歴代の王の中で抜きんでており、歴史家には「建築王」と呼ばれることもあります。
古代において大きな建造物を作らせる事はそれだけ王の権力の大きさを示す事であり、また前述の通りエジプトの王は神と同一視されていたため、神殿は重要なものでした。
そのため、ラムセス2世は王としての自分の力を誇示してさらに国の力を強めるべく、積極的に壮大な建物の建造に取り組んでいました。
それらの遺跡は当時の彼の力を知る事ができるばかりでなく、現代において古代エジプトを知るための貴重な遺産となっています。
代表的なものをひとつ挙げると、「アブ・シンベル神殿」というものがあります。

この神殿は、ラムセス2世と同一視される太陽神ラー、後述する王妃ネフェルタリと同一視される女神ハトホルをまつる2つの神殿から構成されています。
ラムセス2世の残したものの中で最大の建築物であり、石像・壁画といった装飾の豪華さも目を見張るものですが、一つ凝った仕掛けがほどこされている事でも知られています。
その仕掛けがあるのは大神殿の一番奥、王と3人の神々を表す4体の像が設置された部屋。
一番奥というだけあって通常は外の光は入らないのですが、ごく限られた時期にだけ太陽の光(つまり太陽神ラーの力)がここまで差し込み、王の像と、冥界の神プタハを除いた2人の神の像の3つだけが照らされるようになっているのです。
この神秘的な現象が起こるのは年に2回だけ。
これを目にしようと、当日には多くの観光客がここに集まります。
ちなみに建造物というと、FGOにおいての彼は攻撃の演出でピラミッドのようなものを出しますが、エジプトでピラミッドが作られるようになるのはラムセス2世の時代よりもう少し後になってから。
この時代の王族の墓は「王家の谷」という神聖な谷の岩壁を堀り込んで作る岩窟墓というものが一般的であり、彼の墓もその形式でした。
FGOにおいても設定上はピラミッドそのものではなく、彼の建てた多くの神殿などの集合体とされています。
最愛の王妃ネフェルタリ

ラムセス2世という王を語るうえで欠かせないのが、第1王妃の「ネフェルタリ」という女性です。
彼は多くの妻や妾を持ち150人以上の子供がいた伝えられていますが、その妻の中で最も深く愛していたのがこのネフェルタリという女性でした。
ネフェルタリとは「美しい女性」を意味し、その名前に恥じない美しさと聡明さを兼ね備えた王妃であったと伝えられています。
若くして亡くなってしまったこの王妃ですが、ラムセス2世は彼女のために王妃のものとしてはとても大きく美しい墓を築き、その中に「彼女に匹敵する者は他にいない」「彼女のために太陽は輝く」といった内容の詩を刻み込みました。
この言葉は単にネフェルタリを称賛するだけではなく、自身が太陽神と同一視されていたため「自分の愛情は彼女のために輝く」ということも意味していると思われます。
また、この墓の入り口には王と王妃の像が刻まれているのですが、古代エジプトの慣例として王妃の像は王の半分程度の大きさにするはずのところを、ネフェルタリ王妃の像は王と同じ大きさに作られています。
こうした部分にも、ラムセス2世にとってこの王妃の存在がとても大きかったことが表れています。
先の項でラムセス2世は多くの遺跡を残していると書きましたが、この王妃の墓もその一つ。
特に内部の壁画は色合いまできれいに残っているほど非常に保存状態が良い貴重なもので、一時はその美しさを保持するため一般公開禁止にされていたこともありました。
現代にも残る古代王の浪漫
以上ように、ラムセス2世は多くの功績と遺跡を残した偉大な王でした。
彼の偉業は現代においても称賛されており、現地の人に古代の偉大な王は誰かとたずねれば、返ってくる答えはまずラムセス2世なのだそうです。
ラムセス2世が遺した建造物はどれも壮麗なものなので、書籍や写真を通じ是非ご自身の目で確かめられることをお勧めします。
特に最後に挙げたネフェルタリ王妃の墓は、色とりどりに描かれた王妃や神々の壁画がしっかりした状態で残っており、現代に残るエジプトの壁画の中でも特に鮮やかで美しいものの一つです。
古代王の残した足跡と浪漫を、是非とも感じて見てください。
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