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アンの基本情報
- 名:シュメール名「アン」、アッカド名(セム語)「アヌ」
- 出典:シュメール神話
- 所有:雄牛の角を持つ王冠、王笏、司令官の杖
- 関連:ウラシュ(配偶神)、ナンム(配偶神)、キ(配偶神)、エンキ(息子)、エンリル(息子)、ニンフルサグ(娘)
アンの概要
アンはシュメール/アッカド系神話において、最も高貴で古い神々の一人。
アヌンナキ(神々の集団、地上に降りたアヌの子の意)の父として多くの神々の祖であり、秩序と統治の根源である。
エンリルに取って代わられるまではアンが最高神であり、天空と星の神として後代長く崇拝された [1]。
古い時代に最初に人型で表された神でもある。
アンの説話
天地の呼応
シュメール初期王朝時代(前2350年ごろ)のギルス(ラガシュ)出土文書の中で、秩序生成以前の世界と神々および地上世界の起源を語る神話の序文が見出される。
この中にアンの記載がある。
下記がその一部引用である。
()を使用した表記や原典欠損部分も、参考書籍の原文のまま引用しております。
元々粘土板の資料からの直訳だと思われますが、意訳や欠損部分の類推を交えて翻訳しているため、読み辛い部分があることをご留意ください。
主(en)なる(天空神)アンが若者として立った。
天地(アン・キ)が互いに呼びあった。
その時代、エンキもヌンキもいなかった。
エンリルはいなかった。
ニンリルはいなかった。
ーーーーー(原典欠損部分)ーーーー
(まだ)泥土であったとき、植物(?ul)が泥土であったとき、昼は輝かず、新月は昇らなかった[1]。
創成以前
ウル第三王朝時代のニップル出土の粘土板にも、天地生成以前の世界を記述した部分にアンの名が見られる。
以下参考書籍からの引用となる。
主なるアンが天を照らしたが、大地は暗黒であり、地下の世界(kur)は見えなかった。
(略)
アンは天の住まい(?da-ga-an)にて輝きを放っていた(?)。
彼が立つ場所(天?)は草原に達しなかった。
(略)
天の神々も地の神々も腰を上げなかった[2]。
樹木と葦
『樹木と葦』はシュメール語の討論文学の代表作である。
その神話的序文にもアンが登場する。
シュメール文学の一ジャンル。
原則として対立する二者がどちらがより優れているかを言葉の上の決闘で決めようとする対話劇のような文学。
冒頭、両者(人、擬人化した動植物や器具、季節まで)の由来が創造神話として語られる。
最後は神により判定が下され、めでたしめでたしで終わる。
平らな大地が現れ、その姿は……のように緑になった。
(略)
高き天なるアンはひろい大地と交わり、英雄なる樹木と葦の種をその胎に注入した。
立派な牝牛なる美しい大地はアンの良き種を受け取った[3]
(略)
エヌマ・アヌ・エンリル序
『エヌマ・アヌ・エンリル 』とは古代メソポタミアでまとめられたと言われる最古の占星術文献のことである。
シュメール・アッカド時代以降、シュメール語は次第にエジプトのヒエログリフのように王侯の教養、宗教での詠唱に使われるものとなっていく。
それはアッカド語(セム語系)が主流になっても続いており、アッカド語の文献にシュメール時代の文章が写されて併記されるようになる。
が、バビロニア、アッシリア…と時代が下るにつれ宗教・政治の用語としての用途は残っても、粘土板からシュメール語表記はじょじょに消えていった。
その中でこの『エヌマ・アヌ・エンリル 』は、アッカド語だけでなくシュメール語も併記された資料として貴重なものである。
以下、その序文からシュメール語とアッカド語それぞれで、アンに関する記述を紹介する。
- シュメール語部分
偉大な神々、アン、エンリル、エンキがその確かな協議と大地の偉大な計画をもって、月神を(天の)運行船と定め、 月の盈欠によって月(暦)をあみだし、天地のしるしと定め 天の運行船を輝かせたとき、それは天の真ん中に現れ出た。
- アッカド語部分(アッカドではアンではなくアヌとなる)
次に、偉大な神々、アヌ、エンリル、エアがその協議によって天地の(確かな)計画を定め、神々の手に月の創造と月の更新を託し、人間の観察対象としたとき、彼ら(神々)は太陽を(天の)門の真中に見、天地の間に確乎と耀かせた[4]。
脚注
注釈
- [1]:メソポタミア神話時代を越えて崇拝の対象となって行く件はバビロニア神話におけるアヌの項で詳述する。
出典
- [1]~[4]月本昭男『古代メソポタミアの神話と儀礼』岩波書店
参考文献、参考URL:
- ジョン・グレイ『オリエント神話』青土社礼、岩波書店
- 月本昭男『古代メソポタミアの神話と儀』
- 池上正太『オリエントの神々』新紀元社
- 杉勇、尾崎亨(原典)訳『シュメール神話集成』ちくま学芸文庫
- ウィキペディア
※ライター:紫堂 銀紗
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