【神話事典】ウトゥ

ミスペディア

ウトゥの基本情報

  • 名:シュメール語名「ウトゥ、ウツ」、アッカド語名「シャマシュ」
  • 出典:シュメール神話(メソポタミア神話)
  • 所有:棒(rod)と輪(ring)のシンボル、戦車ブネネ、鋸刃の剣、メイス
  • 特徴:メインシンボルは太陽円盤。象徴する数字は20、肩から太陽光線を発する
  • 関連:イナンナ(双子の妹)、ナンナ(父 天空神アヌ、またはエンリルとする説も)、ニンガル(母)、エレシュキガル(姉)、シェリダ(アッカド名:アヤ、配偶神)、キトゥ(娘 真実を司る公正の女神)、ミシャル(息子 法と正義の神)

ウトゥの概要

ウトゥは太陽神であり、正義・道徳・真実の神である。

ごく初期からシュメールで崇められており、メソポタミア文化を通して3000年以上も崇拝されていた。

シュメールでは長い髭を生やした長い腕の老人の姿とされる。

彼は毎日夜明けに天のドアから出て、彼の戦車ブネネ(彼の息子と呼ばれることも。旧バビロニア時代には正義の神として崇められた)で空を横切って駆け抜けた。

その日起こった全ての出来事を見た後、毎晩極西のドアを通って「天の内部」に戻ると考えられた。

彼は「神聖な正義の執行者であり、苦しんでいる人々を助ける」と信じられていた。

ウトゥの説話

正義を司る太陽神

太陽神ウトゥは東の地平線から昇って全天を移動し、夜通し地下界を旅するとされた。

天を横切る時は世界で起こったことを全て見通し、地下界にあっては死者の裁判官も務めた。

隠された悪行も正義の神としての彼の目から逃れることはできない。

シュメール人にとってウトゥは、暗闇と、暗闇が太古から象徴する邪悪なもの全てを駆逐するものであった。

“その翼で癒す“(原典表記より)太陽として病魔を追い散らし、支配者には正義を要求し、虐げられた人々を擁護した。

虐げられ、苦痛に苦しむ人を助けるその特質は、後に有名なハンムラビ法典の序文の中や、その法典碑の彫刻に明記されている。

彫刻の中のハンムラビ王(在位紀元前1792〜1750年)は太陽神シャマシュの前にうやうやしく立ち、彼の使命とする正義の象徴(棒と輪のシンボル)を受け取っている。[注1][1]

シュメールの『洪水伝説』とウトゥ

シュメール神話創成期のメソポタミア南部下流域では、大小取り混ぜて洪水が頻発していた。

一つの都市に二度の壊滅的洪水の跡が見つかっているし、大規模な洪水を起こした後ティグリス・ユーフラテス両河川とも経路を変えてしまったため、その時々で被害を受ける地域が異なった。

予測不能で無慈悲な自然の猛威の前に無力な人々は、全ては神々の決めたことと諦観を持って語り継ぎ、それが神話に反映されたのだろう。[注2]

「シュメール王朝表」にシュルッパク市のウバルトゥトゥ王、その子ジウスドゥラ王の治世(都市連合国家だったシュメールでは、権勢を誇る都市に王権が移された)に大洪水が起きたと記す粘土板が見つかっている。

それはシュメール語版『洪水伝説』として知られる神話になった。

文明最初の大洪水神話の冒頭部分は失われ、神々がなぜ洪水を起こそうとしたのかは不明だが、前半部でアン神、エンリル神、エンキ神、ニンフルサグ女神が人間を創造し、動植物も創られた経緯が語られる。

人間の働きにより5つの都市が建造され、それぞれが神々に割り当てられる。

英雄神ウトゥも第四の街シッパルを与えられる。

神に代わって都市を統治するために王権が天より下された。

全ては神々のために。

その後で、何故かアン神とエンリル神の名の下に神々の総意として、人間を一掃するために大洪水を送る決定がなされる。

決して覆せない誓いの後で、都市に住まう神々は人間を哀れんで悲痛の嘆きをあげるばかり。

地の神々のリーダーで常に人間に慈悲深いエンキは、自分の良心に従う。

時の王シュルッバクのジウスドゥラは神々に従順かつ敬虔な神官でもあった。

エンキは正体を隠し、壁越しに神々の計画を独り言ち(壁に独り言をぶちまける体で)巨大な破壊を生き延びるための助言を与える。

ジウスドゥラの建造した巨船は七日七晩暴れ過ぎた洪水を生き延びるが、大風に吹き散らされて知る由も無い。

そこで太陽神ウトゥが天空に登り、天地に光を放った。

それに気付いたジウスドゥラは密閉された壁を切り開く。

すかさずウトゥが巨船の奥深くまで光を差し込む。

王はウトゥの前にひれ伏し、手ずから牝牛と羊を生贄に捧げた。

大地の生命を一掃し損ねたエンリルが怒る描写は失われているが、ジウスドゥラとその妻に不死を与えて神々の列に加え、太陽の昇る土地、楽園ディルムンに彼らを住まわせるのだった。

最後の部分も破損しているが、形式としてアンとエンリルを讃え、エンキとウトゥに多大な感謝の讃歌を謳い寿いだはずである。

後代の同工異曲の大洪水伝説、『アトラ(ム)・ハーシス』『ギルガメッシュ叙事詩』を紐解けば…。[2]

ドゥムジとウトゥ

豊穣と牧羊の神ドゥムジはエンキの長子であり、イナンナ女神の夫である。

年頃のイナンナははじめ、豊かな農夫であるエンキムドゥに心を決めていた。

しかし兄ウトゥの根気強い勧めと当のエンキムドゥがドゥムジとの友情を優先して身を引いたこともあり、牧羊神ドゥムジを選ぶ。

イナンナの夫の地位を得て、晴れて彼は豊穣神となった。([3]『ドゥムジとエンキムドゥ』)

豊穣神となったが故に、ドゥムジは死すべき定めを受け入れねばならなくなった。

豊かな実りの季節の後には必ず冬が訪れる。

多くの神話において冬の到来と春の訪れは、豊穣神の死と再生を持って語られた。

『イナンナ女神の冥界下り』、『ドゥムジの夢』の中で、妻の死を嘆くこともなく美しく着飾って玉座に座るドゥムジは、イナンナの身代わりに冥界行きを命ぜられる。

涙を流し、蒼白の面持ちで(下記参考文献からの引用)

(ドゥムジは)ウトゥへ、天に向けて手を上げた。

「ああ、ウトゥよ、あなたは私の義兄で、私はあなたの義弟です。

私はあなたのお母さんの家に脂を運ぶ者です。

私はニンガル様の家にミルクを運ぶ者です。

私の手を蛇の手に(変えてください)。

私の足を蛇の足に(変えてください)。

私のガルラ霊たちから私は逃れたいのです。私をつかまえさせないで下さい」”

 

「ああ、ウトゥよ、あなたの友人の私を、若者である私をあなたは識っておいでだ。

あなたの妹を妻にもらいました私を。

(略)

ああ、ウトゥよ、あなたは正義の判事です。どうか私を(連れ去らせ)ないで下さい!」

ウトゥは彼の涙を受け入れ、彼の望み通り姿を変えた。

にも関わらず、あえなく捕らえられてしまうのだが…

最愛の双子の妹の身代わりである義弟の方を助けようとするあたり、公正をもってなるウトゥのドゥムジに対する愛情は並々ならぬものがある。([注2][4]『イナンナの冥界下り』)

ギルガメシュとウトゥ

シュメール王名表の初期のウルク王は「ウトゥの息子」と記載されていた。

彼は幾人かの王に特別の加護を与えてきた。

実在のウルク王ビルガメシュをモデルとする半神王(3分の2が神で3分の1が人間)ギルガメシュは、神話ではやはり半神とされる英雄ルガルバンダ王と牧畜と灌漑(又は知恵と夢解き)の女神ニンスンの子として誕生する。

誕生祝いとして神々が雄々しさや立派な体躯を与え、ウトゥは見目麗しさを与えて祝福した。

以降、ギルガメシュの守護者、個人神としてその死後までも手厚く庇護するのである。[注3][4]

脚注

 注釈

  •  [1]:紀元前1760年ごろバビロニアにて建立。1902年スーサにてフランスの調査隊により発掘。同年4月、シェイル神父の全訳で解明、その歴史的発見から大反響を呼んだ。モーゼの十戒以前に人類史上初の法文が書かれた大石碑。パリ・ルーブル美術館でブロンズで復刻された小型版を見ることができる。
  •  [2]9000〜6500年前、地球は温暖な気候最適期(ヒプシ・サーマル)であり、各地で農村型農耕文化が芽生えていた。現在のメソポタミア低地は年間降水量400mmの乾燥地帯である。シュメール人が都市国家を作り発展させていた時代ー約6300年前から4000年前ーの間の気候は寒冷であり、チグリス・ユーフラテス両河の上流、トルコ東部の山岳地帯、アナトリア高原は降雪量が多かった。その雪解け水による洪水が頻発していたことは地質調査で判明している。毎年のように氾濫し豊作をもたらしたナイル川と比して、高低差が大きく全長も半分しかない両河下流域ははるかに過酷な状況にあったのである。
  • どうやら彼は畑の作物よりはミルクやバター、クリームを好んだようである。旧約聖書『創世記』第4章でユダヤの神ヤハウェがアダムとイヴの息子たち、カインの収穫物よりアベルの肥えた羊の初子を良しとせられた下りが想起される。この説話は遊牧民(アベル)と農耕民(カイン)の間にあった争い、遊牧民の農耕民に対する優越性を正当化すると解釈する向きもある。ウトゥの牧者ひいきが神が牧者(羊飼い)に例えられる根底になったかもしれない。これもメソポタミア文明からの影響と言えるだろう。(参考
  • 古代メソポタミアでは、男児には誕生と同時に(個人を守護する)「個人神」があてがわれた。(月本(1996)pp.194,197,注p.18)

出典

  •  [2][3][4]杉 勇、尾崎亨 訳『シュメール神話集成』ちくま学芸文庫

 参考文献、URL

※ライター:紫堂 銀紗

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