【北欧神話】死の国の女王・地獄の女神:ヘルとは?

ヘルとガルム(1889年、Johannes Gehrts)
Johannes Gehrtsによって描かれたヘルとガルム(1889年)

現代でいう「地獄」とよばれる死の国を支配する女神、ヘル。

「藁(わら)の死」と呼ばれる死に方をした民は、ヘルが統治するニブルヘイムへ送られました。

地獄(HELL)の語源になった彼女はいったいどんな神だったのでしょうか?

天寿で死ぬと地獄行き!? 古代北欧人の「死」の価値観

ヘルとガルム(1889年、Johannes Gehrts)
Johannes Gehrtsによって描かれたヘルとガルム(1889年)

「死」について、現代では想像もつかない価値観が古代の北欧には存在していました。

戦争が多い時代背景もあり、ヴァイキングをはじめとする当時の人々にとって、一番名誉ある死といえば「戦死」でした。

一方で、天寿を全うしたり、病気で亡くなったりする死に方は「藁の死」と呼ばれ忌み嫌われていました。

医療技術の発達により、平均寿命がどんどん伸びている現代日本にとっては想像もできない考え方ですね。

名誉ある勇敢な「戦死」を遂げた者は、戦乙女ヴァルキリーによって選定され、天界にある宮殿「ヴァルハラ」におくられます。

「ワルキューレの騎行」(1909年、ジョン・チャールズ・ドールマン)
「ワルキューレ(ヴァルキリー)の騎行」(1909年、ジョン・チャールズ・ドールマン)

そこで手厚いもてなしと、終末戦争ラグナロクへ向けた戦いの修行を受けます。

一方で、血を流さず床の上で息を引き取り「藁の死」を遂げた者は、暗く寒い道を辿ってヘルの館を目指します。

道中、ものすごい姿をした番人の骸骨に血税を支払い、鉄の森を通り抜け、体中が血に塗れた獰猛な番犬ガルムの睨む横を通り過ぎて、ようやくヘルの館まで到着します。

危険で長い旅路を迎えるので、昔の北欧の人々は「ヘル靴」と呼ばれる靴を亡くなった人の足に履かせました。

また、死の国までの旅が少しでも楽にたどり着けるように祈りながら、屍と一緒に馬や車を焼いたそうです。

やっとの思いでヘルの館に到着しても、死人が一息つくことは許されません。

罪がある者とない者の選別が行われ、「罪がある者」は冷たい毒が流れているなぎさを渡るように命じられます。

しかし、水の流れが早いため、何度も転び、その度に毒水が口の中に入って苦しむーーこれが永遠に繰り返される苦しみを味わいます。

やがて、体力が尽きた者から熱々に煮えた大釜に流されていき、骨だけになった後、地底深くで世界樹ユグドラシルの根をかじり続ける邪蛇ニーズヘッグに食べられてしまいます。

ユグドラシルの根を噛むニーズヘッグ(AM 738 4toより)
ユグドラシルの根を噛むニーズヘッグ(AM 738 4toより)

こんな目にあってしまう位なら、生きている間に罪は犯したくないものですね。

なお、罪がないからといって地獄で幸福に住めることは決してありません。

先述のような苦行は受けないだけで、幸せも無ければ楽しみもなく、死の女神の元で、ただただ「何も無い」生活が待っているだけだったそうです。

女神がどうして地獄に? ヘルが冥府に住まう理由

Loki finds Gullveig's Heart(John Bauer, 1911)
ロキ (Loki finds Gullveig’s Heart, John Bauer, 1911)

ヘルはアースガルドにおいて様々な悪事を働いた悪神ロキと、同じく悪の権化と称されたアングルボザという巨人の間に生まれました。

それを知ったオーディンは彼女を邪悪な子どもとしてニブルヘイムの奥底に追放し、後々の災いを防ごうとしたのです。

ヘルは生まれた時から半分が肌色で半分が青白い姿をしています。

また、北欧神話の中で唯一描かれていた「死者を生き返らせる権限」を持っており、人間はもちろんのこと、不老不死ではなかった北欧神話の神々さえも藁の死をもって命を終えるとヘルの元へ向かうとされていました。

まとめ

死人を支配しながらも、彼女は暗く寒い奥地へ追いやった神々に復讐する機会を伺いました。

そして、来る日に地上へ上がるための船を造る為に、死人の爪を集めるように使者に命じていたそうです。

しかしながら、北欧神話の中で神々に対して具体的な攻撃エピソードはなく、死を迎え館へ訪れた者へ公平に裁きを下していたようです。

現代では考えられない「死」に対する考え方の中で、ヘルは毅然と死者を待ち受けていました。

藁の死を遂げた者は人も神も、彼女の前では全てが平等であったといえるでしょう。

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