巴御前や大い子など|昔話に登場する女子力=物理な美女たち

巴御前(『英勇一百伝』, 歌川国芳)
巴御前(『英勇一百伝』, 歌川国芳)

綺麗な女性が力強く戦う映画やマンガ、アニメなどは、枚挙に暇がありません。

見た目に華やかな強いヒロインは、屈強なヒーローにはない魅力を持っています。

一見華奢な女の子の意外な強さは、「ギャップ萌え」にもつながるでしょう。

このような女性像は、何も現代人ばかりが楽しんでいたわけではないようです。

『今昔物語集』の怪力美女

『今昔物語集』は、平安時代末期に作られたと言われる説話集です。

作者は明らかになっていないようですが、おそらく男性であったろうと言われています。

この作品には、次のようなエピソードが載せられています。

その昔、甲斐の国に大井の光遠という、力の強い相撲取りがいました。

この光遠には、27、28歳ほどの、しとやかで美しい妹がいました。

ある時、人に追われた男がこの妹の住む離れに逃げ込み、彼女を人質にとって立てこもりました。

大変と慌てた人が、兄の光遠に知らせに行きましたが、予想に反して光遠は、大して心配する様子でもありません。

「何で心配しないんだ?」と、その人が離れに戻ってみると、逃げ込んだ男は妹を抱えて、抜き身の刀を突きつけていました。

彼女は片手で口を隠し、もう片手で男が刀を持っている腕を、そっと押さえているといった具合。

どう見ても美女のピンチ、緊迫した場面です。

ところが、ふと彼女が口元に当てていた手を動かし、そこに置いてあった矢柄(やがら。矢のうち、矢じりと羽根を除いた部分)をもてあそび始めました。

まだ矢になっていない矢柄を、板張りの床に指で押し付けています。

と、もろい枯れ枝でも砕くように、矢柄がミシミシと砕けてしまったのです。

これには見ている方もびっくり。

「なるほど、これなら確かに心配いらないな」と、知らせにいった男は納得しました。

一方彼女を人質にとっていた男もこの様子に気づき、これはまずいと人質を放って逃げ出しました。

この後、押し入った男は人々に捕まり、光遠のところへ連れていかれました。

「次は自分の腕でも折られるかと思って、怖くなって逃げました。すみません」

と泣く男を見て、光遠は怒るどころかあざ笑い、

「妹を人質にとって無事だったとは運のいい奴だ」

などと言ったとか。

まったく、とんでもない力持ちの女性がいたものです。

遠く平安時代にも、このエピソードを読んでワクワクした人がいたことでしょう。

めも 相撲取りの、トレーナーにまでなった人も

『日本の昔話』には、相撲取りのトレーナーにまでなった怪力女性がいた

民俗学の重鎮、柳田国男の『日本の昔話』にも、「大い子の握り飯」というタイトルで、強すぎる女性の話が収録されています。

近江の石橋の里というところに、「大い子」という大変力の強い女性が住んでいました。

ある日、佐伯氏長という力士が石橋の里を通った時、若い美人が頭に水桶を載せて、川から戻ってくるのを見かけました。

きれいな女の子にいたずら心を起こした氏長は、後ろから近づいて、桶を押さえている手の、脇の下をくすぐろうとしました。

すると彼女は片手を降ろし、氏長の手を脇の下に挟んでしまったのです。抜こうとしても、どうしても抜けません。

この女性こそが大い子だったわけです。とうとう手が抜けないまま、氏長は彼女の家まで引っ張られてきてしまいました。

ようやく手を離してくれた大い子に、氏長は「実は自分は力士で、試合のために京へ向かうところだ」と明かします。

すると大い子は、
「世の中にはどんな強い人がいるかわかりませんから、私の家で修行していった方がいいでしょう」と言いました。

いっそ貴女が出たらどうでしょう、と言いたいところですが、この時代、女性が土俵に上がることはできなかったのでしょうね。

幸い、試合までにはまだかなり日数がありました。

そこで氏長は大い子の家で修行をしていくことにしたわけですが、ここでの特訓内容がなんと「大い子の作った握り飯を食べる」というもの。

何しろ大い子の作ったおむすびが、とにかく硬い!

力士の氏長ですら、始めの一週間はそれを食い割ることができませんでした。

それでも二週間目には何とか食い割れるようになり、三週間目にやっとムシャムシャ食べられるようになったとか。

「それだけ楽に食べられるなら大丈夫」と、大い子も太鼓判を押し、氏長は意気揚々と京へ向かったそうです。

きれいで強くて、しかも面倒見のいい大い子さん。

うっかり惚れてしまいそうな女性ではないでしょうか。

しかしこんな女性と結婚したら、夫婦ゲンカをするのが恐ろしいですね…。

強い美女にはグッとくるものがある!

この他にも強い美女といえば、『平家物語』の「木曽の最期」に登場する巴御前などが思い浮かぶでしょう。

巴御前(『英勇一百伝』, 歌川国芳)
巴御前(『英勇一百伝』, 歌川国芳)

ギリシア神話の戦いの神様も、アテナという女神ですね。

彼女もやはり、美しい女性の姿で表されています。

『アテーナーの誕生』
『アテーナーの誕生』 (ルネ=アントワーヌ・ウアス作、1688年より前、ヴェルサイユ宮殿所蔵)

現代に比べ、女性の権利が限定されていたであろう時代にも、受け身に回る女性ばかりでなく、このような頼もしいヒロインが登場するお話が語られていたようです。

強くて美しい女性の姿に魅力を感じてしまうのは、昔の人も同じだったのかもしれません。

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