アンドロメダ王女の肌は何色に描くべき?メディアの結論

アンドロメダを助けたペルセウス
アンドロメダを助けたペルセウス(『Metamorphoses of Ovide』、Pierre Mignard)

波打ちぎわの岩に鎖で縛りつけられ、あわや海の怪獣に飲み込まれそうになっているお姫様!

そこにペガサスにまたがった勇者が現れ、見事、怪獣を撃破!

勇者はお姫様と結婚し、その子孫たちは大繁栄しましたとさ。

これが、ギリシャ神話の中でも特に有名な、勇者ペルセウスとアンドロメダ王女の物語。

「とらわれのお姫様を助ける勇者」という、古今東西のみんなが大好きなモチーフがシンプルに盛り込まれ、人気の高い物語となっています。

西欧の多くの画家たちも、アンドロメダ王女を題材に、「鎖で縛られて助けを待っている美女」というモチーフを描き続けてきました。

ペルセウスとアンドロメダ
ペルセウスとアンドロメダ

そこに描かれるアンドロメダ王女は、透き通るような肌の白人女性。。。

……と、実はここに重大な疑義が挟み込まれているのです!

「アンドロメダ王女が白人美女って、実は根拠のない思い込みじゃないの?」という。

これは、映画や漫画や絵本でアンドロメダ王女を描こうという人たちを悩ませる重大問題です。

扱いをひとつ間違えると、政治的な大論争になってしまいかねない。

日本では、このような問題で大論争が起こることはまだ少ないようです。

しかし、これからの時代は日本のメディアも、「キャラクターの描き方」に人種問題への配慮も必要になってくるでしょう。

というわけで今回は「キャラクターの人種を何に設定するか」が意外に繊細で難しいという事例のひとつとして、アンドロメダ王女の描き方について続いている大論争をご紹介しましょう。

この議論を追っていくと、

  • アメリカのハリウッドはこの論争の直撃を受けたが、うまいこと逃げている模様
  • 日本のメディアはこの論争に巻き込まれていないが、自然にうまく回避する描き方をとっている模様

ということも、見えてくると思います!

さて早速ですが、「アンドロメダ王女が白人なのはおかしい」と主張する人たちの根拠はなんでしょう?

以下が、彼らの言い分です。

疑義の根拠:『アンドロメダはエチオピアの王女』って書いてあるんだから、アフリカ系では?

ううむ、たしかに、これはかなり強力な疑義……。

「エチオピアの王女」という設定を、二千年あまりの間、西欧の画家たちはまったく考慮せずアンドロメダ王女を描いてきたことになりますね。

エチオピアの王家の娘だったら、どう考えても、アフリカ系でしょう?

ハル・ベリーさんみたいな黒人美女として描かないと、おかしくないか?というわけです。

ところが、強力に見えるこの疑義については、以下のような再反論も出ています。

再反論:「エチオピア」というのは具体的な国名と明記されていないから、「あのエチオピア」のことだとは限らない

アンドロメダを助けたペルセウス
アンドロメダを助けたペルセウス(『Metamorphoses of Ovide』、Pierre Mignard)

すごい論争になってきちゃいました……。

でも確かに「エチオピア」と聞くと、現代のあの国のことを思い出すのも短絡的なわけで。

それに古代ギリシャの時代には、アフリカ大陸にも白人系の人たちの王国はいくつかあったはずなので。

そういう王国のうちのひとつの王女なのだ、と仮定すれば、アンドロメダ王女は白人でもおかしくない。

だいたい古代では、いまでいうエジプト~イスラエル~シリアあたりは明確な国境もなく複雑に絡み合って、「オリエント世界」として発展していたので、そうとうな多民族状態になっていたはず。

きっとアンドロメダ王女もそういう多民族地域の中の一王国の王女だったのだ!というわけです。

ですが(当然)これには再々反論可能ですよね。

はい、予想通りの再々反論が、以下です。

再々反論:でも『エチオピアの王女』ってわざわざ強調されているんだから、やっぱりアフリカ系だと考えるほうが自然じゃないの?

まあ、たしかに、そうなりますよね。。。

それにこの「エチオピア」というコトバ自体に、重要な背景もあります。

いろいろと調べていくと、どうも古代ギリシャの人は、我々が「黒人さん」と呼んでいる人種のことを、まとめて「エチオピア人」と呼んでいた形跡がある。

具体的な国名じゃなく、愛称としての「エチオピア人」。

ネイティブアメリカンの人を、インド人じゃないのに「インディアン」と愛称で呼んでいたようなものです。

となると、やはりアンドロメダ王女はアフリカ系で描くべきなんじゃないか……?となってくる。

ここまでの議論で、皆さんはどうお考えになりましたか?

ライターである私の感想としては、「どちらも決定打に欠ける以上、もう描く人の好みに任せちゃえばよくね?」なのですが(!?)。

しかし政治問題や社会問題にも細かく配慮をしなければいけない、アメリカのハリウッド映画のクリエイター達には、これは大変な難問に見えているのではないでしょうか。

『タイタンの戦い』でハリウッドが示した、うまい回避策!?

ペルセウスとアンドロメダ
ペルセウスとアンドロメダ(『Perseus and Andromeda』、Peter Paul Rubens)

こりゃしばらくアンドロメダ王女が登場する映画やアニメは、アメリカからは出てこないかな、と思いきや。

なんと2010年、『タイタンの戦い』で、ハリウッドが真正面から「ペルセウスとアンドロメダの物語」をスペクタクル巨編で描いてきました。

え? どうするの?

黒人層からの不満が出ることを覚悟で、伝統通り白人美女に描くの?

それとも、いよいよ、ハル・ベリーさんあたりの黒人女優を起用して、新しいアンドロメダ像にチャレンジするの?

注目が集まる中、ハリウッドがアンドロメダ王女役に起用したのが、アレクサ・ダヴァロス。

アレクサ・ダヴァロス
アレクサ・ダヴァロス(Wikipediaより

……南欧褐色系に逃げた!!

でも、考えてみると、これはうまい回避策ですね。

「どうせ白人か黒人か誰にもわからないのだったら、ちょうど中間、いわゆる地中海美人にしちゃえばいいんじゃね? だって地中海で鎖に縛られるんだから」!

ギリシャ神話の背景ともマッチして、これなら納得。

「アレクサ・ダヴァロスさんはユダヤ系の血筋だからマイノリティにも配慮しているんだぞ」とも言い切れる。

とはいえ、「え、でも、人種的にはけっきょく白人では……?」というツッコミは入るだろう、というわけで……。

アンドロメダ王女をめぐる論争は、まだ今後も継続しそうです。

余談ながら、男優でいうキアヌ・リーヴスさんとか、女優でいうナタリー・ポートマンさんとかのような「いろいろな血が入っていて、人種の特定が難しい、やや褐色肌の人」の需要が、こういう場合のために今後、ますます高まるのではないでしょうか?

まとめ:無理に論争に加わらなくてもいいけど、知っておいたほうがよい

ペルセウスとアンドロメダ
ペルセウスとアンドロメダ(『Perseus and Andromeda』、Titian)

「しょせんはファンタジー」と思っていても、人種問題が絡むと、意外な論争に巻き込まれることもある、というひとつの事例のご紹介でした。

なお私の経験からも言えることですが、こういう論争はデリケートなので、

「無理に『自分はこう思う』とグイグイ参加しなくていい」

「でも、論争があることは、知っておいたほうがいい」

というスタンスが、東アジア人としては、いちばん礼儀正しい距離の取り方ではないでしょうか。

その点、日本のメディアでは、マンガキャラクターは人種も国籍も特定できない描き方ができるので(肌の色だけでなく髪や目の色も、実際の人種と関係なくデザインとしていろいろ選べる!)その点ではトクなのかもしれませんね。

こうやって「無国籍なキャラクター」の描き方を続けていれば、とりあえずは無難なのではないか、と思うのでした。

……と、突然思い出しました!

パズドラのアンドロメダは、「褐色健康少女」なデザインにされています。

褐色肌ということは、ひょっとして、クリエイターの皆様が、上記の論争があることを知っていて、配慮した?!だとすれば、なんと上手な解決!

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