ロマンあふれる神話・伝承を電子書籍で。

神話の舞台を現代ギリシャに訪ねる:世界中で「勝手に神格化」された英雄アレクサンドロス大王、そのゆかりの都市テッサロニキのことを知ってほしい!

イッソスの戦い、左がアレクサンドロス、右がダレイオス3世
イッソスの戦い、左がアレクサンドロス、右がダレイオス3世

子供の頃にギリシャに滞在していた本稿のライターが、その頃のなつかしい思い出に絡めて、現代ギリシャの見どころを紹介するこのシリーズ。

今回は「テッサロニキのことを知ってほしい!」をキーワードにしたいと思います。

ギリシャというのはアテネだけではないんだぞ、ということと、古代ギリシャの神話伝説で面白いのは、オリンポスの神々が出てくる「あの」ギリシャ神話だけではない、というお話となります!

ギリシャ第二の都会にして、カルチャーの発信地としてはアテネ以上!?それがテッサロニキ!

テッサロニキ
テッサロニキ

ギリシャというと、皆さんはまず首都のアテネを思い浮かべるのではないでしょうか。

「テッサロニキ」という町の名前については、むしろ知っている人のほうが少ないと思います。

ですがこのテッサロニキという北部の都市、経済規模ではアテネに次ぐ大都市。

ギリシャのさまざまな会社の本社や、有名大学のキャンパスが集まっています。

ギリシャの学生さんが大学進学にともなって集まる街ということで、若者向けの音楽フェスやイベントがよく行われている土地でもあります。

若者カルチャーの発信地としては、保守的なアテネよりもむしろ面白い試みをしているところと言えるかもしれません。

また風土についても、アテネの周りはハゲ山が多く乾燥した土地という印象なのですが、テッサロニキのほうは森林の緑に囲まれていて、いかにも「東ヨーロッパ!」という風景になります(ユーゴスラビアとか、あちらのほうにやや近くなってきますので)。

テッサロニキを訪れれば、アテネとはまた違った「現代ギリシャ」の一面を知ることができるでしょう!

なんといってもここはアレクサンドロス大王の威光を偲べる街!

オスマン支配下のテッサロニキ
オスマン支配下のテッサロニキ

アテネとはまた違った気候と文化の街とはいえ、やはりここもまたギリシャ。

いまでも、地下鉄工事をしようとしただけで、古代の彫刻やら調度品やらが出てきて、考古学の調査のためにしばしば工事は休止するそうです。

近年はとうとう地下鉄工事中に古代大神殿の跡まで出てきたとか!

掘れば掘るほど、また新しい世界遺産級の発見が出てくるかもしれません!

地下鉄工事の担当者の方々は、本当にたいへんだと思いますが…。

遺跡が多いのは、それもそのはず。

テッサロニキは紀元前の時代から繁栄していた、この地方の要衝。

そして、このテッサロニキという町がある地方は、「マケドニア地方」という名前です。

マケドニア、というと、世界史に詳しい方はピンときたでしょうか?

そうです、インド大遠征で有名なアレクサンドロス大王が統治していたマケドニア王国は、この地方に存在した古代国家なのです!

テッサロニキ自体は、アレクサンドロス大王よりも後の時代にマケドニアの中心になった街のため、アレクサンドロス大王自身が生まれ育った場所はもう少し離れたペラというところにあるのですが、そこへもテッサロニキ出発の半日バスツアーで見学にいけます。

圧巻は、アレクサンドロス大王のお父さん、フィリッポス二世の墳墓がある、ヴェルギナ。

黄金の冠や、黄金の骨箱(日本で言えば、こつつぼ?)など、豪華絢爛な副葬品が続々と見つかったところです。

フィリッポス2世のものとされる墳墓
フィリッポス2世のものとされる墳墓

 

フィリッポス2世の納骨箱とされる黄金の箱
フィリッポス2世の納骨箱とされる黄金の箱

テッサロニキという街自体が、まだまだ日本人観光客もなかなかいかない「通好み」な都市です。

しかし、その周りにあるこうした「バスを使わないといけない」秘境の遺跡まで訪れれば、真のギリシャ通、あるいは、真の「アレクサンドロス大王ファン」と言えるでしょう!

アレクサンドロス大王をめぐる世界規模の都市伝説、「アレクサンダー・ロマンス」とは?

アリストテレスの講義を受けるアレクサンドロス
アリストテレスの講義を受けるアレクサンドロス

それにしても、このアレクサンドロス大王。

32歳になるまでのとても若いうちに、インドまで遠征してしまい、わずか数年で世界史上空前の大帝国を築きました。

この若者の人間離れしたスケールの大きさは、古代の世界をそうとう鳴動させたようです。

その後の世界各地に「アレクサンダー・ロマンス」と呼ばれる、「この地にアレクサンダー大王がやってきたとき、こういうことをやった、ああいうことを言った」という民間伝承が大量発生したのでした。

日本でも、あらゆる都道府県に「空海ゆかりの土地」「弁慶ゆかりの土地」がありますが、それとどこか似ているかもしれません。

「こんなところにはアレクサンドロス大王は来てないよ!」といくら考古学者が説明しても、「いや、私の村にはアレクサンドロス大王が来た時に遺したこういうものが伝わっていてだな」という民間伝承のしぶとさを崩せない。

たとえば、

  • イランには、アレクサンドロス大王をモデルとしたとしか思えない「イスカンダル」という偉大な王の物語が伝わっている
  • 東南アジアには、「アレクサンドロス大王はインドで子供をもうけており、その女の子はのちに中国までを征服する偉大な英雄となった」という伝説がある
  • なんとイスラム教の聖典コーランにも、「世界の果てを探求しようとしたもの、ズルカルナイン」という謎の人物についての記述がちょろっと出てくる。これもアレクサンドロス大王のことを言っているものと推測される
  • 「アレクサンドロス」は「イスカンダル」になり、やがて「いだでん(韋駄天)」と名前を変え、仏教の神様として、中国から日本にまで伝わった(これは学界からは完全に否定されているのにいまだに根強い、世界規模の都市伝説!)

などなど。

生物が実る「もの言う木」に至ったイスカンダル。フェルドウスィーの『シャー・ナーメ』より(14世紀前半、イルハン朝)
生物が実る「もの言う木」に至ったイスカンダル。フェルドウスィーの『シャー・ナーメ』より(14世紀前半、イルハン朝)

どれもこれも、もの凄い伝説化ばかり。

当の本人、アレクサンドロス大王も、さぞやお墓の中で苦笑していることでしょう。

……と言うところなのですが、肝心のこのアレクサンドロス大王自身のお墓というのが、これまた「どこかにあるぞ」と言われながら、けっきょく今日まで見つかっていない、伝説のひとつ。

お父さんの墳墓まで出てきているのに、肝心の「大王ご本人」の墓の痕跡がどこにもないとは、これまたいったい!?

こんなこともまた、彼の神秘化に力を貸しているようです!

まとめ:最後に声を大にして、アレクサンドロス大王はギリシャの人です!

イッソスの戦い、左がアレクサンドロス、右がダレイオス3世
イッソスの戦い、左がアレクサンドロス、右がダレイオス3世

やはりアレクサンドロス大王は、格好いいですし、神秘に溢れていますね。

トンデモな伝説化が世界各地で止まらなかったというのも頷けるスケールの大きさです。

ところで、ギリシャに滞在した経験から言わせてもらいたいことですが、アレクサンドロス大王は現代ギリシャ人に人気の英雄ですので、『アレクサンドロス大王ってすごいですよね! 私、大好きなんです!』というと、けっこう喜ばれます。

というのも、日本人に限らず、ゼウスやアテナやアポロンといった神々のことは、みんな「ギリシャのもの」と知っていても、アレクサンドロス大王が、今でいうギリシャの一角にいた人物であるというのは、意外に知らない人が多いからです。

ギリシャ人:「アテネもいいけど。北のテッサロニキにも行ってみなよ。アレクサンドロス大王関連の遺跡がたくさんあるぞ」

観光客:「え?アレクサンドロス大王ってギリシャ人だったの?」

この会話が発生するたびに、ギリシャ人は激怒するか、悲しそうに眉を伏せます。

どうして認知度がイマイチなのかというと、おそらく「アレクサンドロス大王というのはマケドニア王国の王様である」という説明が、大混乱を生んでいるからでしょうね。

マケドニアという古代国家があった場所は、現代ギリシャの一部になっています。

よって現代の国境線でいえば、マケドニアは「古代ギリシャ文明の中の一王国=ギリシャ人の王国」となるわけです。

ところがこのマケドニア地方、ユーゴスラビアが領土問題を主張してきたりと、外国ともめやすいところ。

そのうえ、北部に「マケドニア共和国」なる、紛らわしい名前の別の国ができたりして、ギリシャ人たちも困惑中。

特に「マケドニア共和国」とは、どちらがほんもののマケドニアかをめぐって、紛争寸前の大ゲンカをしています。

この件については私はすっかりギリシャの味方で、なぜギリシャの北に「マケドニア共和国」と名乗る国があるのか私も不思議で仕方ありませんが、ともかくアレクサンドロス大王の生まれた街や遺跡があるのは、「ギリシャの中のマケドニア地方、とくにテッサロニキ周辺」となります!

国境問題や地名争奪問題にまで発展している「アレクサンドロス」の影響力、テッサロニキをぜひ訪れてみて、その威光を偲んでみるのはいかがでしょう?

ましてや「アレクサンドロスのファンなので、テッサロニキに来ました」なんていう観光客がいたら、きっと歓迎されると思います!

この記事をシェア

ロマンあふれる神話・伝承を電子書籍で

ゲームや漫画、映画などエンタメ好きにも読んで欲しい編集部厳選の神話・伝承をAmazon kindleで販売中

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です