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神話の舞台を現代ギリシャに訪ねる:イオニア海に浮かぶレフカダ島

入り江に打ち上げられた難破船(Badgernet撮影)
入り江に打ち上げられた難破船(Badgernet撮影、原典

以前の記事に書いた通り、本稿のライターは子供の頃にギリシャ滞在経験があり、その思い出に絡めた現代ギリシャの紹介を何回かに分けて行ってきました。

今回はこれまたギリシャ神話の舞台として名高いイオニア海の島嶼地方を取り上げ、その代表としてレフカダ島を紹介しましょう!

というのも、このレフカダ島は日本との深いゆかりがある島なのです。

有名な「耳なし芳一」「むじな」「雪女」の作者である小泉八雲の出身地が、実はギリシャだということに、まず驚く方も多いはずです!

イタリアとギリシャの間に広がるイオニア海の名前の由来は、神話に登場する女性イーオー

イーオーとゼウス(『ユピテルとイオ』、コレッジョ画)
イーオーとゼウス(『ユピテルとイオ』、コレッジョ画、原典

イオニア海というのは、イタリアの東側、ギリシャの西側に広がる海のこと。

イタリアとギリシャの間の海、と考えていただいて構いません。

実際、この地域は中世から近世にかけてヴェネチア共和国の支配下にあり、イオニア海の島々はちょうど「イタリア式とギリシャ式とのあいの子」のような文化を作り上げています。

このイオニア海という名前自体が、ギリシャ神話に由来しています。

物語の主人公は、悲劇のヒロイン(と言っていいと思います)イーオー。

イーオーの出自や物語の展開については諸パターンがあるのですが、有名なものに従うと、

  • もともとはヘラ(ゼウスの奥さん、嫉妬深さで有名)に仕える女神官だった
  • 美人だった
  • ゼウスとヘラの双方に面識のある美女という、いかにも危険なポジションで生活していた
  • で、案の定ゼウスに手を出された
  • で、案の定ヘラが怒った
  • イーオー本人は力づくでゼウスに手籠めにされたわけなので完全に被害者だが、ヘラの怒りから守るために、ゼウスによって牝牛に変えられた(!)
  • 牛に替えられたところで結局ヘラに見つかって、どこまでも追ってくる執拗なアブを送り込まれた(!)
  • アブに追われながら世界の各地を放浪した。その時、牝牛になったイーオーがギリシャから飛び込んで泳いで逃げた海が、イオニア海と呼ばれるようになった
  • その後、プロメテウスに出会ったり、エジプトに行ったり、いろいろなことがあったが、最後には牝牛から元の姿に戻ることができたらしい(ただし結末にも諸パターンあり)

概して、ゼウスが手を出した女性の物語というのは犯罪的なまでに女性側に残酷な受難劇ばかりですが、イーオーの話はそれらの中でも超弩級の理不尽さではないでしょうか!?

女性陣だけでなく、このゼウスの「責任感のなさ」は、男性陣にも気分悪い展開と思います。

ヘラから隠すために牛に変えるってのも飛躍があるし、そのうえ肝心のヘラにイーオーが見つかった後は、もう忘れちゃっているのか、特に助けに入らない。

牝牛にされたイーオー(右)とヘラ、ゼウス(『Jupiter and Io』、ジョヴァンニ・アンブロージョ・フィジーノ画
牝牛にされたイーオー(右)とヘラ、ゼウス(『Jupiter and Io』、ジョヴァンニ・アンブロージョ・フィジーノ画、原典

牛になった旧恋人が奥さんにアブを送り込まれてのたうち苦しんでいるのに、責任者の男はどこかまた別のところへフラフラ遊びに行ったものと推測されます。

それをいいことにイーオーをいじめぬくヘラの陰湿さも納得いかないもの。

イーオーが現代女性ならば「いい加減にしなさいよアンタたち!なにが全知全能の夫婦よ、ふざけんなよ!」くらいは言ってやる権利はあるところです(あるいは、牛に変えられていたせいで文句を言いたくても発話不能な状態になっていたのかもしれませんが)。

この手の不幸な女性の話、ギリシャ神話に出てきた際には、最後に「これだけひどい目にあいつつ耐え忍んだ女性はアキレウスやオデッセウス級の有名人の先祖になりました」というようなオチがつくのが定石ですが、イーオーがエジプトで生んだ子はエパポス。

「え?誰?」

という低い知名度の息子さん。

というか、私もはっきりいって「イーオーの息子」という以外に、このエパポスという人のことはよく知りません。

イオニア海の島々はギリシャ有数の観光地ばかり!

入り江に打ち上げられた難破船(Badgernet撮影)
入り江に打ち上げられた難破船(Badgernet撮影、原典

というわけで、残酷女工物語も真っ青な運命を文句も言わず(?)耐え忍んだイーオーのことを偲びに、ぜひ、イオニア海へ出かけてみるのはいかがでしょう!

コルフ島、ケファロニア島などの、世界的に有名なリゾート地が続々と名を連ねております。

有名なもののひとつが、ザキントス島。

シップレックビーチという通称で呼ばれる、断崖絶壁に囲まれたビーチに難破船がぽつんと残されているという圧巻の写真撮影ポイントがあります。

ザキントス島の名前を知らない人でも、「美しいビーチに難破船がぽつんと残っている」不思議な写真は、さんざんカレンダーや写真集や、そしてウインドウズの待ち受け画面(!)で引用されているので、どこかで見たことがあるのではないでしょうか?

ちなみに、スタジオジブリのアニメ映画『紅の豚』のオープニングで、主人公が隠れ家として潜んでいるビーチが、このザキントス島の景色をモデルに描かれているといわれています。

イオニア海のリゾートの中でややマイナーなレフカダ島は日本―ギリシャ交流史の隠れた土壌!

イオニア海に浮かぶ島々はどれもヨーロッパのセレブご用達の、敷居の高いリゾートですが、日本人観光客ならばその中ではちょっとマイナーなレフカダ島を、あえて滞在先に選んでみるなんてのも、よいかもしれません。

というのもこのレフカダ島、「耳なし芳一」「むじな」「雪女」で有名な、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの出生地なのです!

小泉八雲(1889年頃)
小泉八雲(1889年頃)(原典

「え? ラフカディオ・ハーンって、アイルランド人じゃなかったの?」と思った方も多いかもしれません。

彼は複雑な血筋で、父親がアイルランド系、母親がギリシャ系でした。

もっと詳しく言うと、お父様がギリシャに赴任していた最中に付き合っていたギリシャ人女性との間にできた子がラフカディオ・ハーンです。

その後父に引き取られてアイルランド(当時はイギリスの一部)に帰国してしまったため、彼は母親のことを想いつつも、ほとんど会うことはできなくなってしまいました。

彼の本名は、パトリック・ラフカディオ・ハーン。

名前の「パトリック」はアイルランド人らしい名前であり、父系を意識したものとなっていますが、ミドルネームのラフカディオは、まさに「レフカダ島」の地名からつけられた、ギリシャ系を意識した名前。

彼が作家として大成した後に、パトリックではなくラフカディオのほうをペンネームに使ったというのは、彼がどこかで「母と一緒に住んだ国、ギリシャ」に強い憧れをもっていたからだ、とも言われています。

ラフカディオ・ハーンといえばアイルランド流の妖精物語と日本の怪談を合体させたようなロマンチックなホラーを得意としていますが、彼の原風景のひとつには、ギリシャのイオニア海の風景も混じっていたのではないかと推測すると、また作品の見方も違ってくるのではないでしょうか。

小泉八雲ゆかりの地、島根県松江市と、このレフカダ島との間には交流があり、レフカダ島にいくとラフカディオ・ハーンの記念碑や記念館がちゃんと建てられているそうです。

リゾートビーチでゆったりとするついでに、ラフカディオ・ハーンに思いをはせながらレフカダの町を歩き、日本とギリシャの意外なところでの接点に心を弾ませる旅などというのも、よいのではないでしょうか?!

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