古代ブリトン人の伝説上の大英雄:キング・アーサー

アーサー王
  • 種別:アーサーの一族
  • アーサーとの関係:本人

主としてイギリスに伝わる伝説の大英雄。ただし、現在に伝わる物語ではその魅力が大幅に減らされているのが悩みの種。

伝説の英雄「アーサー」

古代のブリトン人の伝説上の王。

その存在は「ベイドン山の戦い」に結びつけられているため、6世紀初頭のことであったとされている。

半分史実上の人物であったアルトリウスが、伝説の英雄王アーサーに変わったのは、9世紀の人物であるネンニウスが著した「ブリトン人の歴史」という本においてである。

この本は、ネンニウスが「ブリトン人は自分たちの歴史について書き残すことがなかった」ということを嘆いて作ったものである。

ベイドン山の戦いの勝利者とほぼ同時代人であったと思われるギルダスは、本来当時の為政者の行為を非難するために「ブリテンの滅亡について」を書いていた。

このため、非難される為政者のほとんどは「匿名」状態になっていたのだ。

ネンニウスは、彼の時代以前に有名になっていた「アーサー」という英雄の名前と、ベイドン山の勝利者を結びつけ、はっきりとした記録に残した初期の人物のひとりであった。

文献記録としては、「カンブリア年代記」の方が少々早い。

しかし、アーサーの事績についての記事量において、「ブリトン人の歴史」は、「カンブリア年代記」を圧倒しているのだ。

ネンニウス以前のアーサーは、ケルト人の間で伝えられていた英雄である。

こちらはというと「アーサー」という名前と「偉大な王」であるというおおざっぱなイメージだけが伝えられ、どこで何をした人物なのか、という歴史的具体性を欠いていた。

ネンニウスの仕事により、「アーサー」の人物像を具体的に想像することができるようになったのである。

とはいえ、ネンニウスの段階においても、アーサーは王ではなく、一介の傭兵隊長のような立場だと描写されている。

このアーサーが、ブリトン人だけではなく、ローマまでも征服して世界帝国の主とされるようになったのは、さらに後の話になるのだ。

九偉人の一人としてのアーサー王のタペストリー(1385年頃)
九偉人の一人としてのアーサー王のタペストリー(1385年頃)

英雄王としてのアーサーの姿が、ひととおりの完成を見たのは13世紀の人物・ジェフリ・オブ・モンマスによって書かれた「ブリテン列王史」においてだ。

この本は建前上「史書」の体裁を取っているが、そのかなりの部分はジェフリの創作によって占められている。

現在、我々が知るアーサー王物語のエピソードの骨子は、このジェフリによって作られた。

ジェフリは「アーサー」のキャラクターを想像するにおいて、すでにヨーロッパの他の国で英雄王として崇拝されていたアレクサンダーやシャルルマーニュを念頭においていたらしい。

つまり、彼の出身地であるウェールズにおいて、アレクサンダーやシャルルマーニューに匹敵する民族的英雄として、アーサー像を造形していったのだ。

この結果、シャルルマーニュのパラディンたちをモデルにして創作されていくのだが、それは同時に英雄王としてのアーサーの価値をおとしめることになってしまった。

というのは、各種の冒険に巻き込まれ、武勲を現すのは部下の円卓の騎士の役割となり、アーサーは本拠地キャメロットで無為の日々を過ごすだけとなってしまったからだ。

この傾向は伝承の中心がフランスに移り、フランス人好み(つまりはシャルルマーニュ伝説直系ということ)の騎士物語を追加されることによって加速される。

最終的にフランス系の説話を取り込んで大成されたマロリーの「アーサー王の死」においては、後半部の事実上の主人公はランスロットとその息子(分身)のガラハッドになってしまっている。

アーサーは物語の主人公としての座ばかりか、自分の妻さえランスロットに奪われる始末である。

ちなみに、モンマスの書においてはランスロットの役割はほとんどゼロになっている。

アーサーがモードレッドに反乱を起こされるのは、ローマ遠征の最中であって、グィネヴィアを巡って対立した事実上のフランス王ランスロットとの戦いの最中ではなかったのだ。

アーサーは、伝説発祥以来、ウェールズなどのケルト系文化圏で伝承が守られていた間は、名実ともに「英雄王」として君臨していた。

だが、中世騎士道の要素や、キリスト教の要素が流れ込むに従い、他の聖盃の騎士や、中世騎士道の典型とされるランスロットなどにどんどんお株を奪われてしまうことになる。

その結果、「騎士王」と讃えられれば讃えられるほど、自分の居城から外に出ず、毎日引きこもって暮らして魅力がなくなるという、皮肉な人生を歩むことになってしまった。

アーサー本人はひょっとすると「騎士でもなく、王でもない元の自分に戻りたい」と密かに考えているのかも知れない。

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