歴代の天皇家には、≪三種の神器≫というものが伝えられています。
- あめのむらくものつるぎ(天叢雲剣)
- やさかにのまがたま(八尺瓊勾玉)
- やたのかがみ(八咫鏡)
の3アイテムのことを指します。
これらは日本神話の中に登場するアイテムですが、キチンと今日の日本にも伝えられているもの。
他の国では、神話に出てくる神器が現代まで伝わっている、なんてことはあり得ませんよね?
たとえばギリシア神話に出てくる「金羊毛」とか「アリアドネの糸」がいまだに国家によって保存されている、などということは想像するだにナンセンスです。
神話の時代から続いてきた天皇家を掲げている日本だからこそ、あり得る話といえるでしょう!
現代でも、皇位継承の儀式の際にはこの三種の神器の継承式も執り行われるそうです。
ただし皇位継承の時に使われるものはあくまでレプリカであり、「実物」とされているものについては、それぞれが熱田神宮・皇室・伊勢神宮に分散して保管されているため、一同に会することは現実にはないようになっているとか。
それぞれが「うかつに見てはいけない秘宝」扱いで、皇室の方々ですら実物を自由に見ることはできないそうです。
そのように謎の多い三種の神器ですが、そのうちのひとつ、「あめのむらくものつるぎ」は、別名「くさなぎのつるぎ」とも呼ばれ、ゲームやアニメの重要装備として登場することがよくあります。
だいたい「最強の武器」の次かその次くらいのグレードの、ハイレベルな装備として登場するようです。
……ということは、ゲームやアニメで出てくる強力武器と同じ名前のものが、熱田神宮にも保管されている、ということになりますよね?
これはファンタジーファンの心をくすぐる話題、といえるのではないでしょうか。
もっとも、残念ながら熱田神宮に「ある」といわれているものも、日本史上の因縁があり、神話時代からの継承物とは「ベツモノ」となっています。
では、本物の「あめのむらくものつるぎ」はどこにあるのか?
以下で、詳しいお話をしましょう。
そもそも日本神話の中で描かれている「あめのむらくものつるぎ」とは?
この「あめのむらくものつるぎ」、日本神話の記述によると、かのスサノオノミコトが、ヤマタノオロチを退治したときに、その体内(しっぽ)から出てきたもの、と伝えられています。

なんでヤマタノオロチの体内に名刀が隠されていたのか?
ゲームの世界ならば、中ボス級のモンスターを倒したら、確率で隠しアイテムが出てくることはよくありますが、古事記の編集者たちがそんなRPGゲームの伝統を先取りしていたわけでもあるまい。
ただ私もヤマタノオロチ伝説の地である、島根県の出雲市が好きで、何度か観光旅行で訪れたことがあります。
だいたいいつも、小雨か、カスミがかかった天気で、しっとりと湿気が多い上に(いい意味で)空が神秘的な白色なのが印象的な土地でした。
雨雲がよく似合う出雲の山中に棲んでいた怪物であるヤマタノオロチが、退治されて変形したものが「あめのむらくも」と名付けられた剣だというのは、ご当地に行ってみるとなんとも「しっくりくる」話に思えたのは確かです。
この剣はその後、スナノオノミコトからアマテラスオオミカミに渡り、アマテラスオオミカミから、天皇家へと降ったとされています。
かのヤマトタケルが東征の際に携行したともされ、そのときは「くさなぎのつるぎ」の名前のほうで登場しています。
どこまでが「くさなぎのつるぎ」で、どこからが「あめのむらくものつるぎ」なのか、それとも古代の時代に複数あった伝説の名刀が、古事記や日本書紀の中ではひとつの剣と混同されて書かれているのか、とにかく、謎の多いアイテムです。
三種の神器喪失事件が源平合戦時代に発生!
「ということは、現代の熱田神宮に納められているという剣も、ヤマタノオロチの体から取り出されたもの、ということなのだろうか!?」
「熱田神宮に保管されている、あめのむらくものつるぎの成分を科学的に解析したら、ヤマタノオロチの存在証明ができるのではないか!?」
などと早とちりしてはいけません。
残念ながら、この「あめのむらくものつるぎ」は日本史上で、紛失した経緯が明記されているアイテムなのです。
その事件は、かの源平合戦の際。
有名な壇ノ浦の戦いで敗北した平氏は、三種の神器を船から海中に沈めてしまった、とされています。
源平合戦は源氏と平氏の覇権争いですが、政治的には皇位継承をめぐる対立から始まったものなので、負けた平氏は敵方に皇位を継承させてたまるかと、三種の神器を遺棄しようとしたわけですね。
このあと、壇ノ浦を捜索したことで、「やさかにのまがたま」「やたのかがみ」の2つは発見されたのですが、あめのむらくものつるぎは、見つけることができませんでした。
そこで別途の名刀を天皇家に納めさせ、それを新しい「あめのむらくものつるぎ」とするようになった、とされています。
つまり、残念ながら現在伝わっている三種の神器のうちの「あめのむらくものつるぎ」については、少なくとも12世紀頃に作り直されたバージョンということですね。
しかし神秘性ということではその結果でよいのかも!
しかしよく考えたら「あめのむらくものつるぎ」なるアイテムが、「いまでも熱田神宮にある」と言われるよりも、「山口県の海中に千年間も眠っていて、そこから日本を守っている」と言われたほうが、なんだかシックリくる、というのも確か。
そのほうが、なんだか夢も広がりますからね!
「あめのむらくものつるぎ」にはこのまま海中にいてもらって、「伝説」と「現実」のあわいをゆらぐ存在として語り継がれていくべきものなのかもしれません。
でもそのいっぽうで、壇ノ浦の海底を調査船がさらっていたら、千年以上昔に作られたと思われる刀が落ちているのが見つかった、
なんていうニュースがある日流れたら、それはそれで、とても面白いな、とも、どこかで夢見てしまうのでした。
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