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【神話事典|ニンギルス】シュメール(メソポタミア)神話第一の英雄神

ミスペディア

ニンギルスの基本情報

  • 名:ニンギルス
  • 出典:シュメール神話
  • 所有:随鳥イムドゥグド(後に怪鳥アンズーと同一視)、ライオンの頭を持つ鷲。右手にライオン頭の意匠の湾刀、もしくはメイスか杖で、銘はイガリム(又はイガリマ)。左手に鷲頭の意匠の湾刀、もしくはメイスか杖で、銘はシュルシャガナ。最も有名な武器は7つ頭の棍棒シャルウルで、「ラガシュ市の右腕」、「戦闘の洪水」などと呼ばれ、後に神格化された。左手にはシャルカズ。楽器ウシュムガルカラムマ(「(シュメール)国土のドラゴン」の意のリラ)を愛好。
  • 特徴:主な信仰地/ラガシュ(メソポタミア南部の都市国家)主な神殿/エ・メ・ニンヌ(「50のメの家」の意。ラガシュ最盛期のグデア王により建立された。後にエ・ニンヌ「50の家」と呼ばれるようになった) 50はニンギルス神の聖数。象徴は嵐とライオン。象徴とする惑星は土星。
  • 関連:エンリル(父 後に天神アヌと女神ガトゥムドゥの子とされる) バウ(又はババ)女神(配偶神 治癒神) ナンシェ女神(妹 河川や魚と鳥を司る。ラガシュのニナ市もしくはラガシュ市のシララン地区の守護女神 夢解きの神でもある) 二サバ(又は二ダバ)女神(妹 農耕、穀物、書記術の女神) イガリム(息子 武器の神格化) シュルシャガナ(息子 武器の神格化)

ニンギルスの概要

ニンギルスとは「ギルス市(ラガシュの一市区)の主人」を表し、都市国家ラガシュの守護神として崇拝された高名な都市神。

古く(初期王朝時代)はエンキ神とニンフルサグ女神の子とされ、最高神エンリルに仕える勇士とされていた。

時代が下り、ウル第三王朝の頃にはエンリルの子とされた。

さらに下ると天神アヌと女神ガトゥムドゥの子とも。

雨や嵐をも司る農業神であり、豊穣神でもあり、戦闘の神でもある。

「エンリル神の洪水」とも呼ばれ、エンリル神の意志の代行者として闘った。

後のアンズー神話、ルガル・エ神話の最初の主人公であり、歴史上初のヘラクレス型の英雄の祖の一人として、数多くの冒険の逸話がある。[注1]

しかし早い時期から同一視されたニンウルタ神に名を書き換えられて乗っ取られたかの印象がある。

戦の神、英雄神として人気が高く、幾多の王に崇められたニンギルスと同一視された神は多い。

ニップル市のニンウルタ(ニヌルタ)神はその代表格。

この神はシュメール時代から存在したが、バビロニア時代までにはニンギルス神の別名として、本来ニンギルス神が主人公であった『ルガル神話』の主役をさらい、『ニンウルタ神の功業』と副題を付けられた粘土板が多く出土している。

そのニンウルタの英雄の地位は、バビロニア時代に一旦バビロン市の主神マルドゥークに奪われた。

中期アッシリア時代以降、バビロニアと共にマルドゥーク神が没落すると、英雄神ニンウルタはアッシリアの王たちに熱狂的に信仰され、返り咲くことになる。

バビロニア北部のキシュの都市神ザババも初期王朝時代から存在する戦の神であったが、古バビロニア時代頃からニンギルス神と同一視されるようになった。

さらにエンリル神の子でララク市の都市神パピルサグも同じ頃にニンギルス神、ニンウルタ神と習合した。

パピルサグ神はヘレニズム期にはサソリの尾を持つ半人半馬の姿で表され、後のケンタウロスの原型と言われる。

名の意味は「射手」であり、メソポタミアの星座の一つ、射手座の元となった。

パピルサグ神と同一視されたニンギルス神が下半身サソリの姿で描かれることもあった。

ニンギルス神にはバウ女神との間に二人の息子と七人の娘がいる。

息子二人は、ニンウルタ神の息子ともされ、ザババ神の持つ湾刀の名ともされた。

農業神、豊穣神としてのイメージは時代が下るにつれて薄れて行き、荒ぶる天候神の属性が強調された戦士としての姿が多く描かれている。

都市国家間や周辺蛮族(シュメール人にとって)との抗争が激化するに従い、王たちに望まれる理想の戦神としての性格がクローズアップされていった。[1]

ニンギルスの説話

ニンギルスという名前(母神信仰の変容〜男神中心の世界へ)

本来ニンギルス(Nin-girsu)という名前は『ギルス市の女主人』を意味する。

「nin」という言葉は、女主人、女神、女王を表すシュメール語で、ニンフルサグ、ニンリル、ニンマフなど、多くの女神の名に使われている。

ニン・アンナ(Nin-anna )は「天の女主人」を意味するイナンナ女神の別名である。

荒ぶる戦の神である英雄神ニンギルスの前身が女神…とは想像しにくいものがあるだろう。

ニンギルスと同一視されるニンウルタをはじめ、冥界神ニンアズ、その息子で樹木神にして冥界神のニンギシュズィダなど「nin」を名前の一部に持つ男神は複数いる。

この謎は時代の流れとシュメール社会の変化が信仰に影響を与えた、その証拠とも言える。

それは数万年来、人類に芽生えた最古の信仰であった母神信仰が失われていく過程でもあった。

それはまた、王権成立と発展の歴史でもある。

その過程の解析抜きに謎解きはできない。

旧石器時代の考古学的証拠に確認される原初の女神は、新石器時代を経て青銅器時代の初めまで何万年もの長きに渡って、自然に対する人類の精神と文化を育んで来た。

集合的無意識の中の元型として今も深層に存在するグレートマザー…地母神である。

シュメール文明の黎明は前5300年頃の、先行する農耕文化ウバイド期(前6500年〜)の主役を引き継いだ頃とされる。

ウバイド人もシュメール人も未だ民族の系統もわかっていない謎の民族だ。

どちらの人々も平和的であり、豊穣をもたらす母神信仰のもと、速やかに融合し、文化を発展させていった。

その頃は都市も王も存在しなかった。

2000年の間に灌漑農業を拡大、神殿を中心に据えた緩やかだが共同体として高度に機能する集落を形成していった。

原初の母神をはじめとする強力な大地母神たちが人々を見守った。

それは周辺各地の様々な民族の女神たちの習合だった。

歴史時代以前のその時期、世の中は概ね平和だった。

民族同士の戦争は未だ無く、厳しい乾燥と砂嵐、真逆の洪水と頻繁に道筋を変える二つの大河という大自然の脅威に対して生き残り、さらに発展するという闘いに共同して当たっていた。

前3500年頃、都市文明が成立したウルク文化期は、青銅器時代の始まりとも重なる一大変革期だった。

この時期に完成していたシュメール最古のパンテオンは「nin:女主人」の名を持つ女神達に支配されていたという。

先史以来続く地母神と豊穣の女神信仰はその頃未だ健在だった。

全ての神殿と生産物は、その都市の名を持つ女神に先ず捧げられたものだった。

だが、運命共同体の平等と平和は過ぎ去っていた。

この時期まではおそらく未だニンギルス神はninパンテオンの女神だった。

青銅器時代は初めて人類が大規模戦闘を可能とする武器を得た時代であり、同時期にシュメールにおいては文字が発明された。

人類史上ターニングポイントとなる大革新と変容の時代でもあった。

男神が女神の地位に成り変わっていき、自然は畏怖すべき存在では無くなっていく。

都市神として男性のニンギルス神が確認されるのは続く初期王朝時代(前2900年〜)。

都市は国家となり、農耕技術、灌漑技術のさらなる向上による飛躍的食糧生産量の拡大が起こる。

そのおかげで多くの新しい技術技能を開発する余剰パワーがあった。

地球上に他に類を見ない最初の高度文明社会が成立する。

エンシ、ルガルと呼ばれる王[注1]の元、それまで神官と農民と職人しかいなかったメソポタミアに、歴史上初めて戦士階級が誕生した。

都市国家間の権力闘争、豊かさを狙う外敵との戦争が激しさを増す時代。

かつて女神であったニンギルスは青銅器時代半ばまでに男神となった。

それは、変身ではなく入れ替わりで、本来ギルスの主人であった女神は配偶神バウ女神として陰に退いたのだ。

このことは、前2400年頃にはバウ女神の祭祀の方が都市神ニンギルスを差し置いて盛大で、供物の量も遥かに多かったことからも読み取れる。

またニンギルスがライオンを従えた姿で描かれ、獅子頭の武器を持つことは女神であった時代の痕跡と言えるかもしれない。

猫科の動物は地母神と結びつきが深いからだ。

猫科の動物の鳴き声が雷鳴を連想させ、雷は雨を呼ぶことから農作と結びつけられ、実りをもたらす地母神の随獣とされた。

イナンナ女神がそうであるように、エジプトの獅子頭のセクメト、猫のバステットが女神なのも、スフィンクスが女性なのも、遠く北欧神話のフレイヤ女神が猫の牽く戦車に乗っているのも、地母神の出自と関連しているのだろう。

さらに男神で豊穣神の属性を持つものは、地母神と入れ替わったか、地母神の息子=聖婚の対偶神と言っていいだろう。

そして、豊穣神は農作物や植物との結びつきから、死と再生を司る。[注3]

時代が進みアッカド帝国からウル第三王朝にかけ、ニンギルス神の農業神・豊穣神の役割は重要度が下がり、バウ女神の役目に戻されていった感がある。

彼女は雨の神であるにもかかわらず、『シュメル神殿讃歌集』では「処女」、「すべての国の母」と詠われており、この矛盾する姿は地母神の特性そのものである。

もう一つの最大の矛盾と感じられる地母神の属性に「戦い」の要素がある。

グレートマザーは原初から「生命を与える愛に満ちた良い母」と「生命を奪い取る恐るべき母」の対立する二面性を持っていた。

太古、戦って生命の繁栄と豊穣を勝ち取った相手は大いなる自然であった。

やがて戦う相手が人間になり、国家となっていった時、母神信仰は力を失って行った。

シュメール最後の千年は闘争と権力の奪い合いに終始することになる。

奪い取るために殺戮するだけの戦いは戦士の属性だ。ニンギルス神に慈悲はない。

最高神エンリルの命じるままに都市を征服し、侵略者を殲滅する徹底的な破壊者である洪水と荒れ狂う嵐の神になった。

その姿が都市国家の王達の望む勇士、理想の王としてあるべき姿だったということだろう。[2]

『グデアの神殿讃歌』〜最古の文学作品

グデア王(在位:前2144年頃〜前2124年頃)は都市国家ラガシュの王である。

グデア王をシュメール諸王の中でもひときわ高名にした碑文の一つ、ラガシュの都市神ニンギルスの中心神殿たるエニンヌ(エ・メ・ニンヌ)神殿を建立した次第を記したのが『グデア王の神殿讃歌』である。

前2125年、一対のテラコッタシリンダー (粘土製円筒)に作られた神殿建設讃歌は、これまでに発見された最大の楔形円柱であり、2つのシリンダー(A、B)を合わせて表裏に五十四欄、千三百六十五行にも及ぶシュメール文学最初にして最長の物語が刻まれている。

時代はアッカド王朝滅亡直後、シュメールルネッサンスとも言われるウル第三王朝成立前夜。

山岳民族グティ人襲来で国土が乱れる中、グデア王統治下のラガシュはひっそりと繁栄していた。

妻の父、先代ウル・バウ王が親グティ政策をとっており、グデアもその路線を踏襲し、周辺諸国(シュメール人にとっては異民族)とも通商協定を結んで交易拡大を図ったことで、ラガシュにシュメール文化が花開くこととなった。

この混迷の時期にラガシュは最盛期を迎えた。

数多くの彫刻と共にこの地の文学作品が古典シュメール語の現存例の多くを占めるほどだ。(シュメール時代の発掘は中東・イラクに内戦と戦争が相次ぐこの50年はストップしている。)

シュメールの王に課せられる義務は、対外防衛・支配領域内の豊穣と平安を確たるものにする、2点に尽きた。

王たちはそうした責務を王碑文や浮き彫りなどに遺して自らの存在証明とした。

シリンダーA(円筒碑文A)には都市神ニンギルスのために神殿を建立する経緯が技巧を凝らして語られる。

ニンギルス神はグデアにエニンヌ神殿を建てさせようと、夢に現れ謎めいたお告げをする。

ところがグデアには、その夢の詳細がわからず、お告げを明確にするため夢解きを必要とした。

ニンギルス神の妹、シラランのナンシェ女神は神々の送る夢の夢解きも司る。

円舟[注4]を走らせ、道中ニンギルス神の神殿に詣でてから、王が姉とも母とも慕うナンシェ女神に祈願する。

グデアが見たのは天地のごとく巨大な男神が神の証の角冠を被り、アンズー鳥の腕、下半身は洪水という姿で、左右にライオンを侍らせて現れ、彼の神殿を建てよと命じた夢であった。

さらに夢には続きがあり、ナンシェは次のように解いた。

巨神がニンギルスであり、金のペンを持った書記の女神ニサバが「聖なる星」に従ってレイアウトするように指示、建築家の神ニンドゥバが見取り図を描いている。

建設作業にグデア自身が熱心に取り組み、終わるまではろくに眠ることもできない、と夢を解いた。

続いて女神は具体的な助言を与えたので、賢い王は早速私財を投げ打って偉業に取り掛かる。

ニンギルス神は祝福を与え、より詳細な構造の説明と指示を与える二つ目の夢を送る。

グデアは全ラガシュの人民に対し、心一つに協力し、悪事を働かぬようにと訓令する。

ラガシュの民の献身とメソポタミアを離れた遠方の地からも各種の材料が届き、遠くレバノンの杉も運ばれた。

その後神殿の性格を明らかにする形状や、内装や調度の詳細に至る第3の夢が送られる。

基礎の敷設、構造の構築が詳しく説明されて、シリンダーAは神殿を賞賛する賛美歌で締め括られる。

もう片方のシリンダーBでは、完成したエニンヌ神殿にニンギルス神一行を迎え入れる様子が記されている。

シュメールにおいて神殿とは人が神を祀る祭祀の場ではなく、神とその家族(二親等、核家族)と従神から構成される家政機関単位で住む、神の地上での生活の場なのだ。

耕地や家畜を有し、家産的経営体とみなされていた。

神殿には先ず真っ先に主人たるニンギルス神が入り、続いて配偶神バウ女神と二人の子ども、その後から神殿での職務を果たす従神たちが続いた。

従神の先頭は、最高神エンリルの勇士である主人を補佐する二人の将軍ルガルクルトゥブ「異国を粉砕する王」とクルシュナシェンアム「異国は彼の手にあっては燕のようである」(共に矛や棍棒などの武器の神格化)。

その後に供物を整える神、伝奏者たる神、理髪師、ロバの牧夫、山羊の牧夫、聖歌僧、琴楽士、女官、耕地検地人、川管理人、グエディンナ(ニンギルス神の愛する耕地)の管理人…と続き、最後に聖域を警護する神が入る。

ニンギルス神が彼の神殿に入ってから7日間、奴隷は手枷を外され、清められ、労働から解放され、男女ともその主人と肩を並べて歩くよう、臨時の奴隷解放が実施された。

神に仕える立場のシュメールの王達は、神殿建立によってこの世界に神々の秩序がもたらされ、豊穣と平安が約束されると信じて止まなかった。

とりわけ都市神の神殿建立に熱心だったのも、豊穣と平安の維持という王の責務を果たすことに他ならなかったからだ。

王碑文には軍事的勝利を記すことも多かった。

外敵から都市を防衛するというもう一つの責務が果たされた証だからである。

王の責務の一端は、円筒碑文に記されたニンギルス神の二将軍の役割によく表されている。

“エンリル神に敵意を抱く異国において洪水のごとく溢れさせるために、
英雄、戦いのシャルウル武器、異国に手を置く者、
エニンヌ(ニンギルス神殿)の力強き将軍、
反抗する地においては鷹であるルガルクルドゥブ神、
彼(ニンギルス)の将軍は、主たるニンギルス神のために本文を果たす。
天から疾風のごとく授かったミッティム矛、
異国に向かって叫ぶもの、戦いの嵐であるシャルウル、敵意ある血を打ち砕く武器、
主が、反抗する異国に激怒し、荒々しい声を発し、怒りをあらわにしたあとで、
主(ニンギルス神)の二番目の将軍であるクルシュナシェンアムは、
エンリルの子(ニンギルス神)のために、その本文を果たす。”[3]

脚注

注釈

[1]:英雄の元型として、半人半神の超人的力を持つ勇者が怪物退治など数多くの冒険を成し遂げる、というヘラクレス型の典型から言えば、ギルガメシュがピッタリハマっている。

順番から言えばヘラクレスがギルガメシュ型英雄の最適例と言うべきところだ。

ギルガメシュが実在のウルク王ビルガメシュ(前2600年頃存在と推定)から神格化されるにあたり、英雄神を土台に物語を構築したのではないかと考えられる。

彼が登場する叙事詩が必ずしも全て神話的では無く、エンメバラゲシなど考古学的に実在証明された王が登場するものも多い。

神格化は後世の創作とされる。

シュメール神話では、宇宙の秩序を乱す象徴の合成獣(キメラ)を退治する勇者こそが英雄であり、それは神々の王(むしろ軍事司令官)の条件でもある。

シュメール神話第一の英雄神はニンギルスであり、習合したニンウルタ、その地位をさらったマルドゥクである。

従って、怪物と闘う筋骨たくましい英雄の祖をニンギルスと仮定する。

[2]:シュメールの王は基本的に神に都市支配権を与えられた者、神の牧者として仕える者という立場であった。

  • シュメール各都市の支配者の称号として、最も古いエン(en :「主人」「領主」の意。エンリルのエンと同義語)はウルク朝まで使われた。都市成立期までは、民会と長老会を中心とした原始民主政、あるいは神権的共産共同社会において、内政的有事の際、最高祭司が王権を兼ねたものとされた。ウルク朝以降はエン祭司長の名称とされ王号ではなくなった。
  •  エンシ(ensi:実際のつづりは何故かPA ・TE・SI で「王」、「支配者」の意)はシュメール初期王朝後半から祭司王として登場し、「都市の王」として使われた。
  • ルガル(lugal:本来の意味は「大きい(gal)人(lu)」)は、地域を超えた権力を保持した「偉大な支配者」を意味した。初期王朝3期に確立し、この頃世襲の王が定着したのではないかという。

これらの称号は各都市の伝統によって違いがあり、都市支配を超えたシュメールの統合を示す王号ではなかった。

初期王朝最末期からアッカド王朝初期にかけては「国土の王(Lugal-kalam-ma)」「全土の王(LUGAL-KIS )」が成立。[1]

アッカド王朝第4代ナラムシン以降に「四方世界の王(lugal-an-ub-da-limmu-ba)」が出現。

ウル第三王朝以降、この王号が定着した。

他、シュメールでは前二千年紀のイシン・ラルサ時代以降「シュメールとアッカドの王」も使用された。

[3]:ニンアズやニンギシュズィダのように、豊穣神はほぼ冥界神とも重なる。

冥界神の多くがかつての地母神=豊穣神であり、ニンの名を残す男性冥界神は太古の大地母神としてパンテオンの上位に位置していた可能性がある。

初期シュメール文化では冥界は西方の日没する地、あるいは原野の彼方のどこかにある反世界だった。

前5300年以前にメソポタミア南部に定住したシュメール人に先んじて、ここには前6500年頃からウバイド文化の担い手がいた。

群を抜いて高度な文明を開花させたシュメール人だが、争いではなく融合によってウバイド文化を引き継いだ。

その過程で先住者の信仰する地母神を自らの神々として吸収していったらしい。

いつしか、古い豊穣の地母神たちは男神にとって変わられ、冥界に押しやられていった。

冥界が地底深く、地下海の深淵より下層に追いやられたように、かつて受け入れた外来の地母神も…シュメールパンテオンの地母神=豊穣神も天上どころか地上からも退けられたことになる。

太古、全ての命を受け入れた母神のおおらかさは男神中心の世界観からは失われていったようだ。

[4]:円舟、もしくは丸舟、籠舟(コラクル)は水上交通の発達したメソポタミア文明において数千年以上使われた船の一種。

ギリシャの史家ヘロドトスを大いに感動させたという。

柳の枝やナツメヤシの葉肋を編んで枠組みとし、獣皮を張り巡らせて瀝青(アスファルト)で防水処理した丸い舟。

直径2mほどで6人を乗せられた。櫂や竿を使って漕ぐ。

この形の船は古代より世界中で使われた。

出典

  • アン・ベアリング、ジュールズ・キャシュフォード『図説 世界女神大全1』原書房[2]
  • 杉 勇、尾崎享『シュメール神話集成』ちくま学芸文庫[3]

参考文献、URL

※ライター:紫堂 銀紗

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