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【Fate/GO原典解説】ギルガメッシュ――古代メソポタミアの叙事詩に伝わる王

王冠と剣

ゲーム「Fate/Grand Order」の登場人物紹介を行っているこのシリーズ。

今回は古代の王「ギルガメッシュ」です。

世界四大文明に数えられる最古の文明の一つ、メソポタミア文明。

その歴代の王の中でも特に偉大な王と伝えられているのがギルガメッシュ王です。

アニメ「Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア」においては舞台が彼の治世の時代であり、王として国をまとめ、また主人公に助言する姿が印象的な重要人物となっています。

そんな彼の出典は『ギルガメッシュ叙事詩』と呼ばれる、彼を主人公とした長大な物語。

今回はこの物語についてひも解いていきたいと思います。

『ギルガメッシュ叙事詩』とは

ギルガメシュ叙事詩の一部が刻まれた粘土板
『ギルガメシュ叙事詩』の一部が刻まれた粘土板(原典

ギルガメッシュについて語る前に、まず出典となる『ギルガメッシュ叙事詩』について簡単に触れておきましょう。

この叙事詩は、古代メソポタミア文明(現代のイラク近辺)において記された作品で、世界最古の物語作品といわれるものの一つ。

紀元前2500年頃、メソポタミアのシュメール時代に栄えた都市国家ウルクの統治者の一人であり、英雄的な王であったとされるギルガメッシュを主人公とした物語です。

冒頭には「すべてを見たる人、すべてを知りたる人」から始まる、ウルクに周壁を築き守った事、女神イシュタルの神域を作り上げた事などの王の功績を讃える詩があります。

その書き出しを取って「すべてを見たる人(もしくは別訳の「深淵を覗き見た人」)」という題で呼ばれる事もあります。

「ウルクの王ギルガメッシュ」という人物自体は、シュメールの王朝の記録にその名があり、おそらく実在したとみられています。

が、この叙事詩は王を神格化し、数々の伝承や創作、神々と絡めたエピソードなどをまとめて一つの物語にしており、記録というよりは伝説・神話の性質が強い内容になっています。

一連の物語が成立したのは王の生きた時代から数百年ほど後、紀元前1800年頃とみられています。

その後も長い間、時代と地域を超えて写本や翻訳が作られ続けていたようで、新しいものは紀元前200年頃の版も発見されています。

実に1500年以上もの間、古代の人々の間で受け継がれていた作品という事になります。

そのため言語や細部の違う多くの版がありますが、紀元前1300年頃に作られたものが「標準版」とされ、現代ギルガメッシュ叙事詩として知られる物語はこれを基準としています。

現代でギルガメッシュ叙事詩の研究が始められたのは1870年代のこと。

メソポタミアの文明跡から発掘された粘土板の解読作業の中で、物語の一部らしきものが見つかった事が最初でした。

以降、叙事詩の粘土板の発掘・翻訳作業は時間をかけて少しずつ進められていきました。

現在ではその大筋の内容は解明されていますが、いくらか欠落した部分があり、完全に全容が分かっている訳ではありません。

近年になってその欠けた部分の一つが発見されエピソードが追加されるなど、今も研究は続けられています。

若き日のギルガメッシュ王

それでは叙事詩について知っていただいた所で、その中に描かれたギルガメッシュの歩みについて追って見ましょう。

ギルガメッシュは都市国家ウルクの王ルガルバンダのもとに生まれた王子です。

であると同時に、メソポタミア神話の女神ニンスンを母とし、主神エンリル・天空神アヌ・水神エアと、さまざまな神々から力を授かった半人半神の子でもありました。

生まれ持った神の祝福により、美しさや雄々しさ、知性など高い資質を兼ね備える、偉大な王となるべくして生まれた存在だった訳です。

しかしその高すぎる資質が彼を驕り高ぶった性格にさせてしまいました。

傲慢かつ強欲で、民の事も考えず思うがままにふるまう暴君となってしまったギルガメッシュ。

とりわけ女性に目がなく、国中の女性に王の特権を使って手をつけてしまうという悪行ぶりでした。

その横暴さに耐えきれなくなった人々は神に助けを求めます。

神々は願いを聞き入れ、ギルガメッシュをこらしめるためエルキドゥ(エンキドゥとも)を作り、地上に遣わせました。

ギルガメッシュとエンキドゥと思われるレリーフ。フンババ(中央)と戦っている
ギルガメッシュとエンキドゥと思われるレリーフ。フンババ(中央)という怪物と戦っている(原典

当然ながら当初は敵対していたギルガメッシュ王とエルキドゥですが、彼らは戦いの末に理解し合い、逆に唯一無二の親友となります。

その後の二人は常に共にあり、ウルクのため数々の苦難や冒険を力を合わせて乗り越えていきます。

ギルガメッシュが暴君であった理由の一つに、王であり、また有能であるが故に対等な者がいない孤独というものがありました。

エルキドゥという対等な友人の存在は非常に大きく、傲慢だったギルガメッシュの性格も彼と絆を結ぶにつれて徐々に変化していき、本来あるべきだった賢明な王の姿となっていきます。

神々の思惑とは少々違う形ではありましたが、ギルガメッシュを王としてあるべき姿にした友エルキドゥ。

しかし二人の力は次第に神々にも脅威とみなされるようになり、それを阻止するためエルキドゥを神罰によって死なせる事を決定します。

神の力によって病にかかった友にギルガメッシュはなすすべもなく、看取る事しかできませんでした。

この事はギルガメッシュの心に大きな影を落とし、最後にして最大の冒険に向かわせます。

不死を求める旅

エルキドゥの死。

それはギルガメッシュの心に大切な友を失う悲しみと共に「どうあっても人は死ぬ」という現実を突きつけるものでもありました。

半神である自分と互角の力を持つエルキドゥですら死は免れない。

それは何も恐れる物などなかったギルガメッシュにも、否が応にも死の恐怖を植え付けることになりました。

恐怖から逃れるため、彼は「不死」の探求を始めます。

彼が探したのは「ジウスドゥラ」という人物。

シュメールの神話には、この人物が大洪水を生き延びて不死となったと伝えられています。(「ノアの洪水」の元ネタと考えられている神話です)

大洪水(ジョン・マーティン画)
大洪水(ジョン・マーティン画、原典

ギルガメッシュは不死者である彼に会って手がかりを得ようと旅に出ました。

ギルガメッシュの進む道は、彼の冒険の中でも一際過酷なものでした。

ジウスドゥラの居場所は神に近い領域であり、本来人間が立ち入るには困難な場所であったからです。

苦難を乗り越えながら進む道の最中、立ち寄った酒場には「シドゥリ」という女神が居ました。

女神は酒場の主人としてギルガメッシュを迎えつつも、彼の求める不死について「人の死は定めなのだから、その日その日をよりよく生きるべき」と諭しました。

しかし彼は聞き入れず、旅を続けます。

更に道を進んだ末、彼は目的のジウスドゥラとその妻の居場所に辿り着きました。

しかし、ジウスドゥラの言葉もまた「人間が永遠に生きる事は出来ない」と、改めて現実を突きつけるだけでした。

自分たちの不死は神が起こした大洪水に関わった者として例外的に与えられたものであり、本来不死は人が得られるものではないと彼は言います。

尚も諦めないギルガメッシュに彼は「大洪水のあった6日6晩を寝ずに過ごしてみろ」という試練を課します。

しかしギルガメッシュはこれに失敗してしまいました。

流石に失意に沈んだギルガメッシュでしたが、そんな彼の姿を憐れんだジウスドゥラの妻が夫を説得してくれたため、不死の秘宝について聞く事ができました。

それは「死の海」の底にある「不死の草」。

苦難の末ようやく掴んだ手がかり。

ギルガメッシュは必死の思いでこの草を探し出し、とうとう不死への希望を手にする事が出来ました。

しかしその後、祖国へ帰る道中のこと。

念願叶った気のゆるみがあったのか、立ち寄った水場で、彼は大切な不死の草を脇に置いて水浴びをしてしまいました。

その一瞬の隙に不死の草は蛇に食べられてしまいます。(このために蛇は不死=脱皮する性質を手に入れたとされています)

こうして、長く厳しい旅の果てにやっと得られた成果も失い、ギルガメッシュは不死を断念して祖国ウルクに帰還した、という所で、静かに物語は終わります。

(余談になりますが、FGOをプレイしている方には聞き覚えのある名前がいくつかあったと思います。FGO作中でギルガメッシュ王に仕えていた女性シドゥリ、そして主人公の道行きを見守る人物ジウスドゥラの名は、ギルガメッシュ叙事詩から立ち位置を変えて引用されたものです。)

叙事詩が伝えるもの

祖国に帰った彼のその後について、物語の中で詳しくは描かれません。

ただ先に挙げた冒頭の詩の通り、その後もウルクを栄えさせた偉大な王であったことは確かです。

この叙事詩は、ギルガメッシュという人物について神話や伝承を織り交ぜた伝記のような形を取っていますが、物語としても強いメッセージ性が感じられます。

一つは親友エルキドゥの存在。

暴君であった王が友人を得る事で変化し人間的に成長した、という友情の大切さを説く部分。

もう一つは後半の不死の探求について。

何度も苦難が立ちふさがり、否定されても諦めずに探求を続けて尚、ギルガメッシュは不死を得られないまま物語が終わる事。

彼が旅の道中に出会った人々の言葉は繰り返し「人であれば死は誰にも逃れられないもの」と訴えます。

女神シドゥリの「日々をよりよく生きるべき」という言葉は特に教訓的です。

不死を得られなかったことについて、ギルガメッシュがどう思ったか描かれてはいません。

しかし不死を断念した後も再び王として国をよく治め続けた事は、彼が死の運命を受け入れて日々を生きたのだと受け取れます。

このような強いメッセージ性・教訓性も、古代において長い間受け継がれてきた理由なのかもしれません。

現代でも親しまれる古代の物語

古代の王ギルガメッシュと、彼を伝える叙事詩についてお話ししてきましたがいかがでしたでしょうか。

友情の大切さ、そして死と向き合い精一杯生きる事。

現代にも通じる普遍的な教訓を冒険物語に織り込んだこの作品が、文明の始まりの時代に既に書かれ人々に親しまれていたというのが、何よりもの浪漫に思えます。

人間にとって大切な事、面白いものは古代も今も変わらないのかもしれません。

『ギルガメッシュ叙事詩』はFateシリーズのギルガメッシュ役をつとめる関智一さんをナビゲーターとした朗読版が出た事でも話題を呼びました。

Fateファンでこのギルガメッシュの原典に触れてみたくなった方には、叙事詩全編を「ギルガメッシュの声」で楽しめるこの作品がおすすめです。

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