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【Fate/GO原典解説】イシュタル――メソポタミアの愛と力の女神

ミスペディア

ゲーム「Fate/Grand Order」の登場人物紹介を行っているこのシリーズ。

今回は女神「イシュタル」です。

アニメ「Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア」でも、舞台となるメソポタミアに伝わる女神として登場する彼女。

自由奔放な性格と豪快な戦いぶりが印象的な彼女の、神話における姿について今回は迫ってみたいと思います。

イシュタルの生まれ

『花瓶に描かれたイナンナ』(ルーヴル美術館 )
『花瓶に描かれたイナンナ』(ルーヴル美術館 原典

イシュタルはメソポタミア神話の天空神アヌあるいは月神シンと、女神ニンガルの間に生まれた女神とされています。

「イシュタル」という名前は古代メソポタミアのアッカド王朝時代における名称。

それ以前、ギルガメッシュ王などが生きた時代とされるシュメール時代には、「イナンナ」という名前で呼ばれていました。

両手に鎚矛を持ち、背中に翼の生えたイナンナ

【神話事典】イナンナ

イナンナは「天の女主人」を意味し、その名の通り、メソポタミア神話世界でも特に権威の強い神の一柱となっています。

彼女がつかさどるものは「豊穣と愛」、そして「戦い」と両極のものです。

最も古くから持っていた権能は豊穣の神としてのもので、豊作祈願のために国王とイシュタルの儀礼的な婚礼を上げる儀式なども行われていたそうです。

また愛の神として多産をもたらすと共に、彼女にまつわる恋愛物語の多さでも知られています。

一方で、戦いの女神としては勝敗の予兆をつかさどるものとされ、国家の守り神として歴代の王権に祀られてきました。

この面でのイシュタルは武装した姿で描かれる事が多く、実際神話の中では彼女自身がそれらをふるって凄まじい戦いぶりを見せる姿も少なくありません。

豊穣神の慈悲深さ、愛の神の奔放さ、戦いの神としての苛烈さ。

多くの性質を持つイシュタルは、その性格も多面的で気ままなものです。

欲しいと思った物は必ず手に入れなければ気が済まない野心家で、その割に飽きてしまったら弄んで捨てるような仕打ちも躊躇しない。

その一方で、自分を信仰するものには慈悲をもって接する優しさも持っていました。

そのような捉えようのなさが、イシュタルという女神の性質といえます。

愛の女神としてのイシュタル

華やかな衣装を身につけるイシュタル(原典)
華やかな衣装を身につけるイシュタル(原典

イシュタルは恋に生きる女神でもありました。

その恋愛遍歴は相当なものです。

まず、彼女の夫はFGOにも(なぜか羊の姿で)登場した牧神ドゥムジ。

彼は「ドゥムジとエンキムドゥ」という神話の中でイシュタルと婚姻した牧夫です。

この結婚は牧夫とイシュタル神が結ばれる事で地上に実りをもたらす意味もあり、豊穣神としての彼女の側面でもあります。

と、正式な夫はいるのですが、欲しいものは必ず手に入れる性分のイシュタル。

その性格は男性に対しても遺憾なく発揮されていました。

気に入った相手には臆せず声をかけていくスタイルで、彼女の恋人(愛人)だったとされる男性の数は100人以上に及ぶと言われます。

愛の女神の寵愛、という言い方をすれば聞こえはいいですが、彼女に目をつけられた男の運命は、多くは悲惨なものでした。

プライドの高い彼女の誘いを断ったりすれば即座に報復にあい、従ったとしても、一度飽きてしまえば動物に変えてしまうなど酷い仕打ちをする事も少なくありません。

自由な恋愛というにもちょっと度の過ぎた気ままさです。

「ギルガメッシュ叙事詩」の中でも、ギルガメッシュ王に同じ調子で求愛し、このような彼女の行いを知っていた王から無下に断られてしまう話があるのは、「ギルガメッシュ」の記事で触れた通りです。

王冠と剣

【Fate/GO原典解説】ギルガメッシュ――古代メソポタミアの叙事詩に伝わる王

霊峰エビフ山の制圧

戦いの女神としてのイシュタルの逸話で、最も荒々しいもののひとつがエビフ山にまつわるものです。

FGO本編およびアニメ「絶対魔獣戦線バビロニア」において、エビフ山は彼女の神殿のような場所として登場しましたが、この山はかつてイシュタルが武力で攻め落とした土地でした。

もともとエビフ山という場所は、メソポタミア世界では貴重な実り豊かな土地でした。

同時に霊的な力も強く、神々にも一目おかれる霊峰として知られていました。

イシュタルはそれを見て、逆にこれを自分の力で我がものに出来れば、自分の権威を示し栄誉を得られると考えました。

天空神アヌからも「あの山の力に抗うのは愚か者のすることだ」と忠告されましたが、その言葉でイシュタルは逆に奮起してしまいます。

彼女は全身を神秘の力を持つ衣や宝飾品で飾り、強力な神の武器を揃え、霊山の力に対抗するための手段を入念に整えて臨みました。

そしてエビフ山に攻め込んだイシュタルですが、霊山というだけはあり、そこに住む獣だけでなく火山や毒霧といった自然現象が彼女を迎え撃ちます。

しかし最高の装備をもって挑んだイシュタルは、それにも勝る大嵐を起こし、霊山の獣も木々も焼き払ってしまいました。

最後には霊山の心臓部でもあった山頂を制し、彼女はエビフ山を手に入れました。

Fateにおける彼女の宝具(必殺技)である「山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)」の名前も、この霊山を燃やし尽くして自分の物にした逸話を由来としています。

イシュタルの冥界下り

「バーニーの浮彫」(夜の女王)として知られる浮彫。リリス、イナンナ、イシュタル、またはエレシュキガルのいずれかの可能性がある(テラコッタ製、紀元前1800年~紀元前1750年頃、イラク南部出土)
「バーニーの浮彫」(夜の女王)として知られる浮彫。リリス、イナンナ、イシュタル、またはエレシュキガルのいずれかの可能性がある(テラコッタ製、紀元前1800年~紀元前1750年頃、イラク南部出土、原典

エビフ山での勝利と対照に、彼女が手痛い敗北を味わったのが冥界の女神エレキシュガルとの勝負、「イシュタルの冥界下り」という物語です。

冥界をも我が手にすべく、エレキシュガルのもとへ向かおうとしたイシュタル。

それを待ち受けていたのは冥界を護る7つの門でした。

門を通るには、代償として装身具をひとつずつ置いていくという掟がありました。

イシュタルといえど、冥界においてその決まりに逆らう事はできず、言われるままに装備を一つずつ手放し手進んでいきます。

そのため1つの門をくぐる度にイシュタルの力は減っていき、冥界の主であるエレキシュガルのもとに辿り着く頃にはほとんど力を失ってしまいました。

弱り切った彼女は、エレキシュガルの「死の眼差し」という力であっさりと死んでしまいます。

自由奔放なイシュタルも、冥界のルールの元では完全な敗北を喫してしまいました。

しかし彼女は豊穣の女神。

このまま彼女が居なくなってしまえば、地上から恵みがなくなってしまいます。

困った信者達や彼女の使いの神は上位の神に救いを求め、それにエア神が応えました。

エア神の与えた「生命の水」と「生命の草」の力でイシュタルはなんとか生還を果たします。

蘇る事が出来たイシュタルですが、もう一つ、冥界から出るには身代わりを立てなければならないという問題がありました。

自ら身代わりを申し出る者もいましたが、流石に自分の復活のため尽力してきた人を犠牲にするのはイシュタルにもはばかられました。

そんな中、一人彼女の死を悼むどころか清々としていたのが、日頃彼女の奔放さに辟易していた夫の牧神ドゥムジ。

報復とばかりにイシュタルは彼を身代わりに立て、ようやく地上に戻る事となりました。

余談ながらその後ドゥムジは姉に助けを求め、1年を半分ずつ交代で冥界での務めを果たす事になりました。

これがメソポタミア世界における季節の巡りの由来(ドゥムジも実りの神であるため、彼の居ない秋・冬は実りが少なくなる)とされています。

まとめ

女神イシュタルについて、Fateにまつわるエピソードを中心にお話してきましたがいかがでしたでしょうか。

破天荒な逸話も多い女神ではありますが、その分その実力は確かなものです。

また愛を司るという性質と多くの恋愛物語から、女性の自由恋愛の象徴として、特に神聖娼婦(神職としての娼婦)たちに信仰されていたと言われます。

メソポタミア神話の中では、彼女の美しさ、強さ、偉大さを讃える詩が数多く残っています。

苛烈な面も持つ一方で、長くに渡って多くの信仰を集め、守り神として讃えられてきた神がイシュタルという女神でした。

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