ロマンあふれる神話・伝承を電子書籍で。Amazon Kindleで販売中

ロボヤクザアニメじゃない!「鉄血のオルフェンズ」に隠された北欧神話的要素

テュールの腕を喰いちぎるフェンリル(ヨン・バウエル, 1911年)
テュールの腕を喰いちぎるフェンリル(ヨン・バウエル, 1911年)

ハードでシビアな戦闘描写が話題となっている「機動戦士ガンダム・鉄血のオルフェンズ」は、「戦闘ロボアニメの皮を被った仁義なき戦いだ」とか「ヤクザが主役のロボットアニメだ」(ただし褒め言葉)などと言われています。

第二期OPの冒頭の歌詞が「カチコミたい」と聞こえてしまうのがトドメを刺していますが、その設定はかなり緻密であり、過去のガンダム作品だけではなく古典に対しても深いオマージュに基づいた「引用」が数多く見られます。

今回はその中から、北欧神話関係のものを拾ってみましょう。

なお、「機動戦士ガンダム・鉄血のオルフェンズ」の一部ネタバレ要素を含んでいますのでご注意ください。

「鉄血のオルフェンズ」の敵組織(?)の名前は北欧神話由来

まずはわかりやすいところから。

第一期で主人公が属する「鉄華団」と主に対立するのは地球圏の規模に拡大した憲兵隊というか特高警察のような「ギャラルホルン」という組織です。

この「ギャラルホルン」、北欧神話においては「ラグナロク」の始まりを告げる角笛として知られています。

ギャラルホルンの持ち主であるヘイムダルは、アースガルドとその下の世界を繋ぐ虹でできたビフロストの橋のたもとにいて、巨人たちが神の世界に侵攻してこないかどうかを見張っています。

写本「SÁM 66」に描かれたヘイムダル
写本「SÁM 66」に描かれたヘイムダル

運命のその日、虹の橋を焼き払いながら登ってくる巨人たちを見たヘイムダルは、力の限りギャラルホルンを吹き鳴らすのです。

なお、鉄血のオルフェンズ第二期においては、ギャラルホルンは鉄華団と手を結んでしまいます(信用はしていない)ので、はっきりと敵組織と言えないような状態になっています。

ギャラルホルンの以前の持ち主

ギャラルホルンは最初からヘイムダルの持ち物だったわけではありません。

この角笛を持っていたのはミーミルでした。

アース神族はかつてヴァン神族と戦争をしており、やがて相互に人質を交換して戦いを終わらせました。

この時、アース神族からヴァン神族に遣わされたのがヘーニルとミーミルです。

ヴァン神族側からは、フレイとフレイアなどがやってきています。

ヴァン神族はヘーニルを自分たちのリーダーにしようとしたのですが、ヘーニルはあまり優秀ではなく、ヴァン神族を失望させました。

怒ったヴァン神族たちは、直接ヘーニルにそれをぶつけるのではなく、なぜかミーミルに当たります。

ミーミルは不幸なことに首を斬られてしまい、その首はアースガルドに送り返されます。

アースガルドの主オーディンは賢者であったミーミルを惜しみ、その首を薬草で包んで腐敗しないようにし、自分の助言者としました。

恐らくは首になった後に「ミーミルの泉」の番人とされたようです。

この泉の水を飲むと大いなる知恵が手に入ると言われており、オーディンはミーミルに自分の片目と引き換えにこの水を飲ませるようにと求めます。

この時ミーミルの泉の水をすくい、飲むのに使用したのがギャラルホルンだというのです。

そういえば「薬漬け」のキャラが…

オルフェンズの第一期には、負傷を繰り返した結果両腕と下半身を失ってしまい、モビルスーツの生体部品にされてしまう不幸な兵士・アインが登場します。

これは首以外を失ったがオーディンにより蘇生させられ、その相談役とされたミーミルと微妙に被るようにも思われます。

なお、ミーミルには光の神バルドルを唯一倒すことができる剣を持っていた、という伝説もあります(北欧神話のメインストーリーとされている「巫女の予言」や「ギュルヴィたぶらかし」ではバルドルを倒すのはミストルティンですが)。

バルドルは「デンマーク人の事績」という名の文献ではバルデルスと呼ばれています。

なんとなく「バルバトス」に似ているような気がしないでもありません。

アインは最終的に主人公ミカヅキの長ドス一突きで沈黙させられますが、第一期のラスボス扱いです。

北欧神話にちなんだ紋章だらけのセブンスターズ

「ギャラルホルン」は北欧神話に出てくるアイテムそのものの名前が使われているので、かなりわかりやすいでしょう。

しかし、オルフェンズにはもっとさりげない形で、北欧神話にちなんだモチーフが使われているのです。

「セブンスターズ」はギャラルホルンを指導する七つの有力な家系のことです。

まあ貴族のようなものでしょう。

第一期ではガンダムシリーズ伝統の金髪仮面になるマクギリスのファリド家、ちょっときざっぽい坊っちゃんな青髪(つまりビジュアルから金髪仮面に謀殺されることが確定しているガルマ・ザビ的ポジション)キャラであるガエリオのボードウィン家、この二人と幼なじみであったというカルタのイシュー家の三つが出てきます。

この三つの家名そのものは、北欧神話とあまり深い繋がりがあるわけではありません。

第二期になると、これらの一族がそれぞれ独自の家紋を持っていることが明らかになりますが、その家紋がすべて北欧神話関連だったのです。

第二期第一話で、このセブンスターズが会議をしているシーンがありますが、それぞれの当主が座っている席の上部に紋章が掲げてあります。

それによれば、マクギリスのファリド家の紋章はフェンリルでした。

テュールの腕を喰いちぎるフェンリル(ヨン・バウエル, 1911年)
テュールの腕を喰いちぎるフェンリル(ヨン・バウエル, 1911年)

第一期のうちにカルタが死んでしまったので、イシュー家の席は空席でしたが、紋章はユグドラシルに巣食うリス・ラタトスクであったことが確認されます。

リスの絵の下に蛇が描かれていますが、これはラタトスクが挑発を続けていたニーズヘッグを図案に取り入れたものでしょう。

ユグドラシルの根を噛むニーズヘッグ(AM 738 4toより)
ユグドラシルの根を噛むニーズヘッグ(AM 738 4toより)

ガエリオが所属していたボードウィン家の紋章は、六脚の馬であり、このことからオーディンの乗馬であったスレイプニルだとわかります。

それ以外では、ほぼモブ扱いでファルク家というのが出てきますが、こちらは樹に絡みついた蛇の紋章です。

ラタトスクのところでも出たニーズヘッグでしょう。

こちらもまだ現状ではモブ扱いですが、バクラザン家の家紋はヴィゾーヴニルであろうと思われます。

ユグドラシルの頂きに座すヴィゾフニル(AM 738 4toより)
ユグドラシルの頂きに座すヴィゾフニル(AM 738 4toより)

これはユグドラシルの頂点に棲む雄鶏で、輝く身体を持っています。

ユグドラシルには他にも大鷲フレースヴェルグなどの鳥類が棲んでいるとされます。

またラグナロクの際には「光り輝く雄鶏」グリムカンビが戦いのときを告げるとされています。

しかしこのいずれもがヴィゾーヴニルと混同されています。

第二期からほぼレギュラーとして登場するようになった髭のおじさま・ラスタルのエリオン家の紋章は絡みつく巨大な蛇で、ヨルムンガンドだと思われます。

トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)
トールとヨルムンガンドの戦い(Emil Doepler,1905年)

同じく第二期からレギュラーとなったイオクのクジャン家の紋章は二羽の鴉でした。

これはオーディンのペットとなっているフギンとムニンでしょう。

ぱっと画像が出されるだけで何の説明もないので、北欧神話についての知識がないと見落としてしまうと思われますが、全部しっかり由来が存在しました。

紋章から仮面の男の正体がわかってしまう?

第一期においては、マクギリスが仮面キャラになっていたのですが、第二期にはまた別の仮面が登場しています。

どうやらマクギリスに対してなんらかの含みを持ったキャラであるらしいのですが、その正体は第五話放映時点ではわかっていません。

しかし、北欧神話の知識があるとその正体がある程度わかってしまうのです。

この新しい仮面の男、名前をヴィダールといいます。

ヴィダールは北欧神話の神ヴィーザルの英語読みです。

ヴィーザルはオーディンの息子で、ラグナロクの際にフェンリルに呑まれてしまったオーディンの仇をすかさず取った神だとされています。

フェンリルは先に述べたように、マクギリスのファリド家の紋章となっています。

このあたりで、どうやら仮面の男の正体が何リオなのかわかるような気がします。

さらに言えば、ガエリオの属していたボードウィン家の紋章は、オーディンに近い存在(乗騎)であるスレイプニルです。

上記から仇を討つ息子へとシフトしていくのは、自然な感じもします。

なお、ヴィダールの正体については、声優さんが同じなのでそっち方面からガエリオではないかと思った視聴者も多かったようです。

ヴィーザルの仇の討ち方は、ある文献では顎を踏みつけ口を引き裂いたとされており、また別の文献では剣を心臓に突き刺したとされています。

このあたりが、ヴィダールとマクギリスの決戦(あればの話ですが)にどの程度反映されるのかも楽しみなところです。

なお、北欧神話関係からさらに読み解けば、オーディンから見てスレイプニルとほぼ同等の近さにあるフギンとムニンを紋章とするイオクが、どこまでマクギリスと絡んでくるか、というのも見どころになるのではないかと思われます。

「鉄血のオルフェンズ」の主役ガンダムはソロモン72柱の悪魔

主役メカであるガンダムバルバトスの「バルバトス」は北欧神話由来ではありません。

これはアニメ化もされた漫画「マギ」でも有名になった「ソロモン72柱」の悪魔の一人です。

序列は第八位に位置する公爵だとされています。

ちなみにすぐ上の第七位は不動明と合体してデビルマンになった「アモン」になります。

実はソロモン72柱の悪魔の名前がガンダムタイプのモビルスーツにつけられたのはこれが初めてではありません。

「ガンダムX」の時に「ガンダムアシュタロン」と「ガンダムヴァサーゴ」が登場します。

「アシュタロン」は序列二十九位の公爵アスタロトの別名ですし、「ヴァサーゴ」は序列三位の君主ウァサゴのことです。

ただオルフェンスの場合単純に名前を拝借しただけではなく、細かいところでもソロモン72柱からの引用である点が強調されています。

第一期第二話の冒頭に出てくるバルバトスのコンソールパネルに、「BARBATOS」の機体名とともに出現するのはバルバトスの紋章ですし、その下に表示される機種コード「ASW-G-08」の「08」も、バルバトスの悪魔界での序列にちなんだものになっています。

なお、バルバトスは序列こそ八位ですが、その率いる軍団の数は300と、ソロモン72柱の中でも最多です。

「鉄血のオルフェンズ」では設定上ガンダムタイプは72機存在したとされていますが、今後出てくるガンダムタイプよりも、バルバトスの方が潜在能力的には強力だという示唆が、ここでなされているように思われます。

パルテノン神殿

「聖闘士星矢」はギリシア神話が元ネタだった!その1

The Giant or The Colossus(アセンシオ・フリア,1808年)

これで巨人マスター!北欧神話で読み解く「進撃の巨人」を徹底解説!

この記事をシェア

ロマンあふれる神話・伝承を電子書籍で

ゲームや漫画、映画などエンタメ好きにも読んで欲しい編集部厳選の神話・伝承をAmazon kindleで格安販売中

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です