『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』の中でもとりわけ有名な作品が、「アラジンと魔法のランプ」。
ディズニーのアニメにもなっているので、その影響で物語を覚えている方も多いかもしれません。
実写映画としても、ウィル・スミスがジニー役を演じて話題になったガイ・リッチー監督の作品がありましたね。
ところで、この物語に出てくる「ジン」とはナニモノなのかご存知でしょうか?
「ランプの妖精」などとも訳されますが、西欧圏でいう「妖精」とは全然違います。
日本でいう妖怪変化の類とも、また違うもののようです。
じつは「ジン」というのは、アラブ圏に古代より伝わるとても由来の古い超自然的存在。
その正体を探ると、かなり面白いことがわかってきます。
たとえば、
- イスラムの経典『コーラン』にも、「ジンについて」という一章がわざわざ設けられ、説明がされている!
- 現代イスラム圏にもホラー映画や心霊動画の類があるが、そこにおける「超常現象の原因」は、「ゴースト」とか「ポルターガイスト」ではなく、「ジン」である、とされる場合がある!
などなど。
特に後者については、ホラー系の噂話や動画の定番の「悪役」が、
- 日本では「幽霊」や「怨霊」
- アメリカでは「殺人鬼」
- スペインやイタリアでは「悪魔」
であることと比較すると、「ジンが現代社会で悪事を働いている」という説明パターンがあるというのは、比較文化という点でも、かなり面白い話ではないでしょうか?
そこで今回は三回のシリーズに分けて、「ジン」の正体と、有名な「アラジンと魔法のランプ」の来歴を探る旅に出てみましょう!
千夜一夜物語の中の「アラジンと魔法のランプ」の物語をおさらいしてみましょう!

まずは基本のおさらいとして、『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』に出てくるジンの描写を追いかけてみましょう。
参考としては、青空文庫でも手に入る、菊池寛の翻訳版を扱ってみたいと思います。
そのバージョンを基に「アラジンと魔法のランプ」のオハナシをおさらいしてみますと、以下のような構成になっています。
- 昔、中国にアラジンという若者がいた
- ある日、アフリカから悪い魔法使いが訪ねてきた
- 魔法使いはアラジンの伯父に化けて彼に近づき、魔法の指輪をプレゼントしてくれた。そしてアラジンを謎めいた洞窟に連れ出し、「その中に入って古びたランプを持ってこい」と要求した
- 実は魔法使いの目的はその洞窟に隠されている魔法のランプで、それを手に入れたいがために若いアラジンをそそのかし、取ってこさせようとしていたのだ
- アラジンは見事に洞窟の奥でランプを見つけるが、そのかわりに洞窟に閉じ込められてしまった。それを見た魔法使いは、あてが外れたと思って、ランプのことをあきらめてアフリカに帰ってしまう
- 閉じ込められたアラジンは途方にくれつつも、魔法使いにもらった指輪をこすってみる。すると指輪の中から「あなたの命令をなんでもききます」というジンが現れる。その力を借りて、アラジンは洞窟からの脱出に成功した
- 家に帰ったアラジンが持ち帰ったランプをこすってみると、「大きな真っ黒いおばけが、床からむくむくと出て」来た
- それがなんでも言うことを聞いてくれるジンと知ったアラジンは、食べ物を持ってこさせたり、宝物を持ってこさせたりして、たちまち大金持ちになった
- アラジンはランプのジンの力を借りて王国のお姫様にもお近づきになり、見事、王様にもお姫様の結婚相手として認められた
- 幸せの絶頂にあったアラジンのところに、アフリカの悪い魔法使いが戻ってくる。魔法使いはお姫様をだまして魔法のランプを奪い、お姫様を宮殿ごとアフリカの奥地へ飛ばしてしまう
- 戻ってきたアラジンは事情を知り、指輪のジンの力を借りてお姫様を救出し、魔法使いを撃退する
- 無事にお姫様と中国に戻ってきたところに、悪い魔法使いの「弟」が兄の復讐にやってくる
- またしてもアラジンとお姫様は騙されそうになるが、危ういところで敵の正体に気づき、今後はランプのジンの力を借りて、魔法使いの弟を撃退する
- そして今度こそ、幸せに暮らしましたとさ
千夜一夜物語の「アラジンの魔法のランプ」には、そもそもミステリーがある!
いかがでしたでしょうか?
ディズニーの映画を知っている人からすると、ランプの精の他に指輪の精がいたり、悪い魔法使いが兄弟だったりと、いろいろと細かい違いがあるのに気が付くのではないでしょうか。
そして最大の驚きは、「本来のアラジンは中国の物語という設定である!」ということではないでしょうか?
そもそも『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』は、9世紀ごろに、アッバース朝バグダッドで成立した説話集とされています。
当時から国際都市だったバグダッドには、インドや中国、ヨーロッパからの商人も多く入っていました。
おそらく彼らがお土産として口承で語ってくれた物語も流行し、中国やインドの説話もブレンドされたオハナシが入り乱れているのが、当時のバグダッドの口承文学の状況だったのでしょう。
それゆえアラジンにも中国の設定が紛れ込んでいるのだと考えれば、これこそアラビアンナイトが古代ユーラシア世界の「縮図」である証拠、と言いたくなりますね。
……と思いきや!
実は、「アラジンと魔法のランプ」には重大なミステリーがあります。
そもそも、9世紀に成立した「本来のアラビアンナイト」には、「アラジンと魔法のランプ」などというエピソードは入っていなかったのではないか、という疑惑がかけられているのです!
どういうことでしょうか?
次回の記事で、お話ししましょう!
コメントを残す