「イギリスという国は、イングランド・スコットランド・北アイルランド・ウェールズという四つの国の連合国である」という学校地理のおさらいから、今回は始めてみましょう。
イングランドは、日本でも「イギリス」というと最初に浮かぶ、シャーロック・ホームズやシェイクスピアやメリー・ポピンズの世界です。
ですが、他のスコットランドや北アイルランド、ウェールズについては、「どんな国なのかイメージが沸かない」という人が多いのではないでしょうか。
大雑把な区切りとして、これら三つの国は、「ケルト文化」と呼ばれる古代文化の影響が色濃く残っている土地となります。
日本のファンタジーでおなじみの妖精やゴブリンなどが、伝統として語り継がれ生きている土地と言えば、もっと親近感が沸くかもしれませんね!
今日はその中でも「ウェールズ」のお話。
特にウェールズ出身の作家、テリー・ジョーンズさんが出した、ゴブリンの本についての、お話です。
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ウェールズの作家、テリー・ジョーンズさんは、コメディアンにして歴史学者!

その本というのは、『The Goblin Companion: A Field Guide to Goblins(日本版の題名は、『いたずら妖精ゴブリンの仲間たち(東洋書林)』)
作家のテリー・ジョーンズさんが、イングランドのイラストレーター、ブライアン・フラウドさんとタッグを組んで作り上げた、最初から最後までゴブリンのお話に満ちた、楽しい本です。
このテリー・ジョーンズさん、れっきとした歴史学者で、中世イギリスに関する立派な研究論文も出している。
そのいっぽうで、イギリスのテレビ業界では有名なコメディアンでもあります。
日本でもカルトな人気を誇るコメディアングループ、『モンティパイソン』のメンバーの一人と言えば、わかる方もいるかもしれません。
もっとも、モンティパイソンのブラックな笑いを知っている人ほど、「メンバーの一人が実は歴史学者」と知るとびっくりするようですが。
ゴブリンの国ウェールズから届いた「現代人の解釈でデザインされたゴブリンたち」が格好いい!
この『The Goblin Companion: A Field Guide to Goblins』という本、表紙からしてキャッチーで可愛らしくて、書棚に飾っておくにはぴったりのアート本です!
日本語版は普通の単行本として装丁されてしまっていますが、本好きの方なら、イギリスで出版されたオリジナルをぜひ通販で買っていただきたい。
独特なフワフワとした弾力性のある表紙に、ゴブリンの顔が浮き出している、印象的なカバーです。

私もイギリスから取り寄せ、本棚に飾ってしまいました。
そして気がつけば、一歳の子供にいつのまにかクレヨンで落書きされており、ギャー!
……などという我が家の事情はともかく、中身の解説をしますと、この本は一種の「偽書」となっています。
作者のテリー・ジョーンズさんが、たまたま古文書を発見し、そこに書かれていた記述をもとにゴブリンの生態を明らかにしていくという、ニセモノの学術研究書の体裁をとっているわけです。
架空の生き物ゴブリンたちの生態と、彼らの架空の歴史を、とても楽しそうに書くテリー・ジョーンズさん。
いかにもウェールズ人な、おおらかなユーモアが次々に炸裂します。
なんといっても、ちょっと怖いけど可愛いゴブリンたちを描いているイラストがとてもよい!

この本ですが、もともとは1986年に制作された『ラビリンス 魔王の迷宮』というファンタジー映画のコンセプトデザインから生まれた本。
映画『ラビリンス 魔王の迷宮』も、家族で楽しむにはピッタリの、楽しいファンタジー映画となっておりますので、ぜひ、オススメします!
ウェールズを旅するならば、アーサー王のことと、妖精のことと、ゴブリンのことは調べて行こう!
ウェールズは観光にも力を入れている国ですので、イギリスに行った際には、ぜひ立ち寄っていただきたいもの。
皆さんがてっきり「イングランドのもの」だと思っているものの一部が、ウェールズの文化だったりするのです。
有名なところでは、アーサー王伝説でしょうか。
「イギリスの伝説」と言われているので、うっかりイングランド人の話と思っている方も多いのですが、アーサー王自身は、ウェールズの王様です。
古城も多く、自然も豊かで、そのうえ妖精伝説やゴブリン伝説に満ちている、となれば、ファンタジー好きの方には、ぜひ休暇に訪れてみるべき国ではないでしょうか。
ウェールズのゴブリンは日本民話でいう「キツネ・タヌキ」の役割
ところで、日本のファンタジー漫画やゲームでは「やられ役」の典型として扱われているゴブリンですが、ウェールズの民話では、どのような位置づけなのでしょうか?
たとえば以下のような物語が、ウェールズの伝承として伝わっています。
ある夜、荒野をさまよっていた旅人が、誰かがランプを持って歩いている影を見つける。
「やれやれ、他にも旅人がいたんだ。助かった!」と、喜んで、その旅人の影を追いかけていく。
ふいに、目の前が崖になる。
あぶなく、落ちるところだった!
なんとか地面につかまり、崖からの落下を免れた旅人。
「あれ? でも、だとするとさっきの、ランプを持った旅人の影は、崖に落ちることもなく、そのまま空中を歩いて行ったことになるな……。 ははあ、あれはゴブリンのいたずらだったんだな!」
という感じ。
でも、これってまさに日本の民話でいう、キツネやタヌキの扱いとそっくりではないですか!
似たような「摩訶不思議な出来事」が、日本ではなんでもかんでもキツネ・タヌキのいたずらである、とされ、ウェールズのほうではなんでもかんでもゴブリンのいたずらのせいにされている。
となると、ゴブリンというものへの親近感だけでなく、ウェールズの人々の伝統的な感受性にも、なんだか親近感が沸いてくるのでした。
また、このようなウェールズ民話を見る限り、ゴブリンというものは定まったカタチをもたないモノらしいので、今回紹介した本のように、アーティストが自由な空想力でデザインして構わないもののようです。
これからもいろんなアーティストの手で、いろんなデザインの「ゴブリン」が、いろんなメディアに登場して、世界中のファンタジーファンを楽しませてくれることでしょう。
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