今回は「Fate/Grand Order」の登場人物「望月千代女(もちづきちよめ)」についてのお話です。
「未亡人でくノ一で巫女」と漫画のような設定だとFGOの作中でも言われていますが、彼女は実際に戦国時代において忍者の流派の一つ「甲賀流」の家系の人として名を残している女性であり、武田信玄のもとで巫女のまとめ役を務めていた実在の人物です。
そんな彼女と、彼女の部下である「武田の歩き巫女」と呼ばれた巫女であり忍者であったとされる集団についてご紹介します。
「望月千代女」という女性について
望月千代女の出身は「甲賀望月氏」。
これは「甲賀五十三家」と呼ばれる甲賀流の家系の中でも有力な家系の一つです。
彼女の時代よりは少し後の時代の話ですが、真田幸村に仕えていたとされる「真田十勇士」にも同じ家系出身の忍者、望月六郎という人物が登場することからも、望月家が有名な事がうかがえます。
ちなみに望月家の家紋は「九曜紋」といって、1つの大きな円を8つの小さな円で囲んだものです。
これはFGOのキャラクターデザインでも帽子の模様として取り入れられています。
彼女は自分と同じく望月家の一族であり、武田信玄の甥でもあった武田家の家臣、望月盛時の妻でした。
しかし夫の盛時は、武田信玄と上杉謙信の軍が激しくぶつかり合った「川中島の戦い」という戦の中で命を落としてしまいます。
若くして未亡人となってしまった千代女ですが、その後も夫に代わって武田信玄のもとに仕え続けました。
そんな彼女に武田信玄が与えていた役割が、巫女を取りまとめる巫女頭という役割です。
といっても、忍者の家系である彼女の仕事がただの神職者という訳ではありません。
「武田の歩き巫女」とも呼ばれるこの巫女たちは、武田軍において諜報活動で活躍した忍者であったと言われています。
「歩き巫女」とは?
武田軍の巫女たちがどのような活動をしていたかお伝えするには、まず当時存在した「歩き巫女」という職業について知っていただく必要があります。
巫女という仕事は一般的には一つの決まった神社にとどまり、そこに祀られている神に仕えて働くという形式です。
しかし歩き巫女は特定の神社の中で働くのではなく、全国を旅しながら行く先々の土地で巫女の仕事を執り行うといったスタイルで活動していました。
この背景には、小さな村や集落では近くに神社がない場所も多く、神事を行いたくてもそれをやってくれる巫女や神主もいない、といった事情を抱えた土地が多かった事があります。
そうした要望に応えるように、巫女の方から各地へ出歩いていく歩き巫女という職が生まれたのです。
彼女たちの役割は巫女としての仕事に限らず、旅芸人や遊女のような仕事もあわせて行ったり、また人々の相談役になったりもしていました。
そうしたさまざまな仕事を通じて人々に広く親しまれ、精神的な寄りどころにもなっていた存在が歩き巫女たちだったのです。
くノ一集団「武田歩き巫女」
さて、歩き巫女の仕事について一度振り返ってみましょう。
- 各地を自由に行き来できる存在である。
- 多くの町や村で人々と触れ合い、相談役を引き受けたりと自然に話を聞き出す事ができる
- 神職者であるため信頼をおかれやすく、何かあっても疑われにくい
こういう書き方をすると、「一般の人々から広く情報収集するのに適した職業である」という事がわかると思います。
こうした点に目をつけ、武田信玄は「歩き巫女に扮した諜報員」、つまり忍者としての巫女集団を結成し、望月千代女にその巫女頭を命じたのでした。
「武田の歩き巫女」の育成は徹底していました。
まずは候補となる子供を集める事から始まります。
戦国時代では親を亡くして孤児となった子供は珍しくありませんでしたが、その中から特に見た目の可愛らしい女の子を選び、歩き巫女の見習いとしました。
そうして集めた少女たちにまず歩き巫女としてふるまえるよう巫女の仕事を教え、その上で忍者(諜報員)として必要な技術も仕込みます。
こうして「若くてきれいな巫女さん」という外見とは裏腹な、プロの諜報員としての歩き巫女を作り上げていったのです。
その美しさと巫女としての献身的なふるまいで人々の信頼を得た歩き巫女たちは、さまざまな土地を巡りながら、その裏で各地の人々の噂から情報を集める忍者として武田軍に貢献したと言われています。
こうした歩き巫女たちの頭領をつとめたという逸話が、FGOの巫女ありで忍者である望月千代女のキャラクターに生かされている訳です。
諜報員としての「忍者」
望月千代女と武田の歩き巫女についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
いわゆる「忍者」と言われて思い浮かぶような、闇に紛れて戦うようなイメージとは随分と異なるものであったかもしれません。
そういった華々しい活躍とは違いますが、彼女たちのような草の根の情報収集も忍者として重要な仕事の一つです。
人々の中にまぎれ込んで正体を知られず諜報活動をこなしていたという意味では、彼女たちも「影に生きる忍の者」らしい浪漫あふれる存在と言えるでしょう。
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