このお話はトマス・マロリー著、ウィリアム・キャクストン編の「アーサー王の死」に準拠してアーサー王伝説をまとめたものです。
ストーリーの筋そのものは、オリジナルのテキストに忠実です。
ですから資料としても使えます。
ただし、オリジナルテキストのあちこちに散見される奇異に見える行動・記述に対して、この文章の著者はツッコミを入れていますので、そこは本気で受け取らないでください。
Contents
アーサーの誕生
ブリトン人の王、ユーサーは自分に反抗的なティンタジェル公と戦っていた。
ある日、敵情視察と和平交渉の土台作りのために、ティンタジェル公の奥方・イグレーヌがユーサーの城を訪れる。
ユーサーは、イグレーヌが持ちかけた和平に関する話よりも、イグレーヌそのものの美貌にぼうっとなる。
どうやら理性よりも野性のヒトであったらしいユーサーは、イグレーヌに「レッツ・不倫」と迫りまくるが、貞淑なイグレーヌは不埒なユーサーのやらないか話を毅然として拒絶し、ティンタジェルの城に帰る。
しかし、熟れ熟れの人妻の姿が忘れられないユーサーは、顧問魔術師のマーリンを呼んで、どうやったら彼女をモノにできるかどうか相談したのである。
「願いを叶えて差し上げますが、ひとつだけ条件がございます」
夢魔と人間の女の間に生まれたという魔術師は、こう語ってにやりと笑った。
「なんでもいいぞ。あの人妻とあんなことやこんなことができるなら」
すでにもう辛抱たまらん状態になっているユーサーは即答した。
そこでマーリンは、まずティンタジェル公のスケジュールを調べあげ、彼が前線視察のために城を留守にする日を突き止めた。
その上で、マーリンは魔法を使ってユーサーの姿をティンタジェル公そっくりに変えてしまい、イグレーヌの元へと送り込んだのである。
ユーサーはそのままイグレーヌと一晩を過ごし、イグレーヌを妊娠させる。
都合のよいことに、前線視察中にティンタジェル公が流れ矢に当たって死んでしまったので、ユーサーはティンタジェルの領地をイグレーヌごとすべて自分のモノにしてしまった。
色欲優先で、人妻を奪うために亭主を謀略で殺すなど、天下無敵の暴君ぶりである。
実はイグレーヌは、ユーサーに見初められた時すでに3人の子持ちだった。
しかも長女モルゴースはもう「お年頃」といっていいぐらいの年齢になっていたのである。
平均寿命の短かった当時の常識からすれば、イグレーヌはすでに「超熟女」であった。
「しかしわしゃ熟女がええんじゃ」
そういったかどうかわからないが、ユーサーはイグレーヌと結婚すると同時にモルゴースと次女エレインを嫁に出してしまい、末娘モルガンを修道院にたたき込んでしまった。
連れ子に邪魔されずに淫欲に浸りまくる気満々である。
「……で、わたしへの報酬なのですが」
上半身裸になって、かっぽんかっぽんと腕を鳴らしていたユーサーに、マーリンが語りかける。
「何じゃ、わしゃこれから凄まじく忙しくなるんじゃが」
「イグレーヌ様のお腹の中に、すでに王のお子が宿っております。無事お子がお生まれになりましたら、わたしに引き取らせていただきたいのですが」
「おおええぞ。生まれたら邪魔になるのは必定なので、どうしようかと思ったところだ。そちが引き取ってくれるなら何よりじゃ」
……かっぽんかっぽん。
というわけで、イグレーヌはやがて玉のような男の子を産む。
これがアーサーである。マーリンは約束どおりにその子を預かった。
だが、彼は自分でその子を育てることなく、ユーサーの家臣であるエクトール卿に押しつけたのである。
で、マーリンはどうしたかというと、ユーサーの宮廷から姿をくらまし、若い(外見は)愛人である湖の貴婦人・ヴィヴィアンとちちくりあっていたらしいのだ。
「予言にあったから、わしはあの王とあの公妃を結びつけて子をなさせたのじゃが、あの王の趣味だけは理解できん。どうしてあんな年増がいいんだか……」
不老不死に近く、その気になればいつまでも若い外見を保つことができる魔法使いには、ユーサーの熟女趣味はどうしても理解できなかったのである。
王者の剣
さてユーサーであるが、それから程なくあっけなく死んでしまった。
死因は詳細に伝えられていないが、どうせろくでもないことであったに違いない。
腹○死の可能性も、あながち否定できない。
ユーサーが死ぬと、ブリトン人の国は麻のごとく乱れた。
どう見ても暴君です、ありがとうございましたなユーサーが無理矢理支配していたのだから、死後こうなるのは当たり前といえばそれまでであったが。
ブリトン人の国は、13年も王不在のまま内乱が続いた。
実はこの内乱、マーリンが幼児のアーサーを連れ出して「これこそが亡き大殿の忘れ形見でございますぞ」とやれば収まったはずなのだが、マーリンは敢えてそれをしなかった。
その理由は、たぶんヴィヴィアンとXXXするのに忙しかった程度のことではないかと思われるが、彼が豊臣秀吉よりも前の時代の人物で、秀吉が信長の嫡孫三法師を擁立して天下の権を握った、という故事を知らなかったせいでもあるだろう。
アーサーが15になった時、「そろそろこれではいかんな」と思ったマーリンは、ウェストミンスターの聖堂に、石に刺した剣を放置する。
ついでにその側に看板を立て、「この剣を抜いたものこそブリトン人の王である」と大書した。
多くの王位を狙う者たちがこれを引き抜こうとしたが、うまくいかない。
石ごと剣を持ち上げ「はい、地面からは抜きました」という一休さんのようなとんち野郎さえも出てこなかったのである。
そのうちロンドンで武道大会が開催されることになった。
かめだとかはめだとか叫びながら衝撃波を撃ち合うあれではなく、槍持った騎馬武者が正面衝突し、落ちた方が負けという競技の大会である。
これにエクトール卿の実子・ケイが参加した。
アーサーは、このケイの従者という形で、会場へとやってきたのである。
「む」
会場へと向かう道の途中で、ケイが何事かに気づいた。
「どうしました? 兄上」
アーサーは自分の出生について、養父エクトールから何も聞いていなかった。
だからケイのことを実の兄だと思っていたのである。
「剣を忘れた」
「……剣? いらないでしょう。だって槍さえあれば武道大会には出られますから」
「いや、必要だ」
「あんなもの飾りですよ(以下略)」
「いやいや、必要だといったら必要だ。ぐだぐだ言わんと持ってこい。アーサーのくせに生意気だぞ」
兄にそういわれては仕方なく、アーサーは剣を取りに宿舎に戻ろうとした。
が、その途中で石に刺さった剣を見つけ
「あ、ちょうどいいや」
と気楽に抜いて、ケイのところに持っていった。
しばらく後、聖堂にやってきた人たちは、くだんの剣が抜けているのを見て仰天する。
やがてケイとアーサーも、聖堂付近の騒ぎを聞きつけてやってくる。
さらに遅れてやってきたエクトールが、ケイの持った剣が石に刺さっていたアレであることに気づき、我が子に尋ねた。
「ケイ、それは石に刺さっていた剣のようだが、お前が抜いたのか?」
その頃、どうやらこの剣を抜いた人がブリトン人の王になれるらしい、ということに気づいたケイは、父に答えた。
「はい、わたしですが?」
「本当にお前か?」
息子の答えは疑わしい、と思ったちょいコワオヤジのエクトール卿が、どアップで息子を問いただす。
「う、あ、ち、違います。実は、そこにいるアーサーが抜いたのです」
父の強面に怯えたのか、それとも加齢臭に酔ったのかはさだかではないが、ケイはさっきの発言が嘘であったことを告白した。
「アーサー、それは本当かね」
ケイから剣を取り上げたエクトールが、アーサーにそれを持たせながら尋ねる。
「本当です」
アーサーは、素直に答えた。
と、その瞬間、エクトール卿ががばとその場にかがみ込み、「ははぁ」と平伏した。
「ち、父上、何を……」
「実はわたしはあなたの父ではありません。あなたの本当の父の名はユーサー、この国の王でした。そしてそのただひとりのお子であるあなたこそが、この国の王となる正統な資格者だったのです」
ケイが、父にならってアーサーの前に平伏する。
エクトール卿父子の姿を見たそこらの通行人も、何か偉い人がいるらしいと思って「へへぇ」と平伏した。
アーサーは、ちょっと右の方を向き、「王者の剣」を抜いてそこにいた人たちにかざした。
「へへぇ」
剣を見た人たちが、一斉に平伏する。
左に向き直って剣をかざしても、同じ結果になった。
「こ、これは面白い」
アーサーが「水戸黄門」という話を知らなかったことは幸いであった。
知っていたらたぶん、彼はそのまま善を扶け悪をくじくために全国漫遊の旅に出てしまったかもしれない。
ちなみにそれをやると、ここからこのお話のタイトルを「燃えろアーサー」に変えなければならない、ということは伏せておこう。
エクスカリバー
王者の剣を抜いたアーサーだが、それでも彼をブリトン人の正統な王だと認めようとしない諸侯が数多くいた。
なるほど正統ではあるかもしれないが、あの悪逆なユーサーの子なんぞ王として戴きたくない、と考える人も、少なからずいたらしい。
そこでアーサーは、軍勢を率いてそれらの諸侯と戦うことになった。
こうなると何のために王者の剣を抜いたんだかよくわからなくなる。
その戦いの最中、アーサーは「吠える怪獣」という妙な生き物を追いかける変な男に出会った。
彼は自分を「ペリノア王」と名乗った。
とりあえず強そうな男と出会ってしまった場合、戦わなくてはならないのがこの当時の騎士の掟であったため、アーサーは王者の剣を抜き放ち、ペリノア王に襲いかかった。
珍獣を探して森の中をがさごそとうろつき回るような変なヤツではあったが、ペリノア王は非常に強く、アーサーは苦戦する。
ついにアーサーはペリノア王に王者の剣を叩き折られてしまった。
それからふたりは鎖帷子を脱ぎ捨て、上になったり下になったりのとっくみあいのどつき合いを始めたが、なかなか勝負がつかない。
しかし最後にペリノア王はアーサーを組み敷いて、その首を掻き切れる体勢に持ち込んだ。
その時、タイミングよくマーリンが現れ、ペイリン王にいった。
「この人を殺すと国家が大損失を受けることになりますよ」
要するに遠回しに「この人王だよ」といったわけだ。
しかし鈍いペイリン王はマーリンに「こいつ誰?」と聞き直す。
マーリンは呆れながらも「アーサー王です」と告げた。
これでペイリン王は自分を放してくれるはず、とアーサーはほっとしたが、その予想を裏切り、ペイリン王はさらに一層力を込めて、アーサーの首を掻き切ろうとした。
このまま解放しても根に持たれて後で復讐される可能性が高いから、思い切ってこの場で殺してしまおうと考えたのである。
野蛮この上ないが、実に合理的な発想だ。
「ちょ、ちょっと待て、ま、マーリン!」
慌ててアーサーはマーリンに助けを求める。
マーリンはペイリン王に睡眠の魔法をかけ、ペイリン王はその場にどっと倒れてぐうぐうと寝始めた。
ふたりはペイリン王が爆睡しているのを確認すると、手に手をとってその場を逃げ出した。
その途中で、アーサーが情けない声でマーリンにいった。
「剣を折られてしまった」
「わかりました。代わりを調達して差し上げましょう」
マーリンはそう言って、アーサーをとある湖のほとりへと案内する。
湖の真ん中から、1本の腕が突き出されており、その手には1振りの剣が握られていた。
「あれって……犬○家の一族?」
「違います」
ちなみに「犬○家の一族」で突き出されているのは腕ではなく脚である。
マーリンが湖に立ちこめる霧に向かって手を振ると、1艘の船がこちらにやってきた。
船には、美しい乙女が乗っている。
いや、「乙女」じゃないだろう。
だってこの人、マーリンの愛人のヴィヴィアンだもの。
そうとは知らないアーサーは、美人を見てちょっとでれっとなったが、やがて直ぐにこう思い直した。
(……熟れ具合が足りんな)
ここ、後で重要になるから覚えておくように。試験にも出すよ。
それはともかく、マーリンは愛人ヴィヴィアンにアーサーを接待させ、彼女を通じてアーサーに、さっき折れた剣よりも霊験あらたかな剣・エクスカリバーを与えたのである。
「ところで王よ、剣と鞘と、どっちが大事だと思うかね?」
「そりゃ剣じゃないか? だって鞘じゃ相手を斬れないだろう」
「いやこいつの場合、剣より鞘の方が重要なんじゃ。この鞘持っている限り、持ち主は怪我することはないんじゃから」
「本当?」
「本当じゃとも」
「じゃあ試してみる」
そういうとアーサーは、鞘を投げ捨て、エクスカリバーの刃を直接手で掴んでみた。
「わわわわわっ、血、血が出たっ、ぷしゅーっと出たっ! 鞘を捨てたら怪我をしたっ!」
マーリンはしばらくあきれたような視線で、アーサーを見つめていた。
アーサーの結婚
アーサーの王位を認めない諸侯はなかなか強く、アーサーはいつまでたっても彼らの反乱を鎮圧することができなかった。
そこでアーサーは、マーリンの薦めに従って、フランスにあるベンウィックという国のバン王と、その兄弟でゴールの王であるボールス王とを味方に招いた。
この兄弟はアーサーのために力戦し、やがてアーサーに勝利をもたらす。
が、アーサー援助に熱を入れ過ぎたため、自分の国がおろそかになって他の王に攻め込まれてしまった。
最終的に2人は国を失い、ホームレスとなってさまよううちに死んでしまう。
バン王の妻は、生まれたばかりの子供を連れて放浪するが、やがてその子供もヴィヴィアンに連れ去られてしまった。
ちなみにこの子供が、後のランスロットである。
余談はともかく、バン王とボールス王が加勢に来たが、それでもアーサー軍は反乱軍に勝利することができない。
「やっぱ、力ばっか強くても頭が決定的に弱いのを味方にしてもダメかねぇ」
マーリンはそう思ったが、アーサーはそんなことには気づかなかった。
アーサーのことはどうでもいいが、このままでは戦争がいつまでも終わらない、と思ったマーリンは、ちょっとずっこい手に出た。
つまり、サラセン軍をそそのかし、反乱軍の諸将の居城を襲わせたのである。
諸将はアーサーとの戦争どころではなくなり、慌てて自分の城に帰った。
これでとりあえず自分が攻められる心配がなくなったので、アーサーは敵を各個撃破して内乱を鎮圧することに成功した。
すべてマーリンの策のおかげなのだが、大魔法使いにしてはやることがちょっとえげつなさすぎるように思えるのは気のせいか?
さて、戦争が終わったら、アーサーは精力をもて余してやたらと女性を追いかけるようになった。
リオルノスという伯爵令嬢が、ご機嫌伺いにアーサーのもとにくると、たちまちこれに襲いかかって妊娠させてしまった。
「こ、こいつはケダモノか……」
今更ながらに呆れたマーリンは、哀れな次の犠牲者が出る前に、アーサーを戦場へと追い立てることにした。
とりあえず戦争していればそっちに夢中になるので、婦女子に被害は生じない。
というわけで、アーサーは「戦争仲間」のバン王とボールス王とを引き連れて、キャメラードというところに出かけた。
ここの王・ロデグランスがライエンス王に攻撃を受け、アーサーに救援を求めていたのだ。
アーサーはライエンス王の軍勢を一蹴し、ロデグランスは大喜びでアーサーを城へと迎え入れた。
そこでアーサーは、ロデグランスの娘・グィネヴィアと出会った。
この結果2人は恋に落ち、結婚したのだが、マロリーの「アーサー王の死」にはその恋愛の過程ははっきりと書かれていない。
それどころか「2人は恋に落ち、結婚したと書物には書いてある」という、実に遠回しな表現をしているのである。
きっと戦争が終わってスイッチが切り替わったアーサーが、そこに女がいると思って飛びかかった、とかいうのが真相だったのではあるまいか。
こんな感じでアーサーとグィネヴィアはなし崩しに結婚したのだが、どうやらグィネヴィアの父ロデグランス以外は誰も祝福してくれなかったようである。
マーリンもこの結婚に反対していた。
そして誰あろう、アーサー自身もしばらく後に、この結婚を激しく悔いることになったのだ。
アーサーの抵抗勢力の首領は、オークニーのロト王だった。
ある日ロト王の妃が、敵情視察のためにアーサーの居城を訪れる。
この時彼女は4人の息子を伴っていたというのであるから、すでに堂々たる熟女だったのだろう。
で、アーサーがこの女性に対して「恋心」を抱く。
これまでの女性に対する「劣情」ではない。「恋心」なのである。
要するに、父譲りの熟女好みが、この時点において覚醒したのであった。
アーサーはなんだかんだと口実を設けて王妃を1ヶ月も自分の城に留まらせた。
もちろん、夜は常にあーいうことをしていたのである。
その結果王妃は懐妊した。
王妃が孕んだととみるやアーサーは身柄を亭主のロト王のところに戻した。
こういうことをされて怒らない亭主がいないわけはない。
ロト王は軍勢を率いてアーサーに戦いを挑んだが、アーサーはあっさりと返り討ちにしてしまった。
このあたりの暴君っぷりも父ユーサーにそっくりである。
ちなみに、ロト王の王妃モルゴースが実は父親の違う姉であった、とアーサーが気づくのはかなり後の話である。
彼女はアーサーがまだ母イグレーヌの胎内に仕込まれたばかりの時にロト王と結婚しているから、どう少なく見積もってもアーサーより10数才年上ということになる。
この点においても、逃げも隠れもできない熟女である。
というわけで、熟女の味を覚えてしまったアーサーは、新妻グィネヴィアをほとんど相手にしなくなる。
その結果、欲求不満に陥った彼女は、王の取り巻きの騎士の1人と不倫することになるのだ。
その騎士というのは、王の戦争仲間のバン王の息子ランスロットだった。
ちなみに、ランスロットはというと、幼少時にヴィヴィアンが一目惚れして拉致、湖の自分の城に閉じ込めて逆光源氏な育成方法を取ったほどの美声年であった。
ただし頭の方はというと、やっぱりあまり優秀ではなかったようである。
円卓の騎士の集結
さて、娘がブリトン人の国王の妻になるということで喜んだロデグランスは、娘が嫁入りする際に、ひとつの巨大な円卓を持たせた。
これはマーリンが作ったもので、席にはそこに座るのにふさわしい騎士の名前が自動的に表示される、というキテレツな機能を持っていた。
この機能に喜んだアーサーは、その席にふさわしい騎士のコレクションを始めた。
まずはロト王の息子であるガウェインである。
彼は母親と一緒にアーサー王の宮廷にいる間に、すっかり王になついてしまっていたのだ。
その結果、「王の結婚式の時に自分を騎士に任じてくれ」と言い出すまでになっていた。
たぶん、夜中にその尊敬する王が自分の母親と何をしていたのかに気づかなかったと見える。
……その辺の脳のシワの少なさが、似たタイプであるアーサーと気の合った原因であったのかも知れない。
アーサーの義父であるエクトール、義兄であるケイも、円卓の騎士になった。
ケイはその後も国務長官、つまりヘッドコーチのような立場でアーサーの宮廷内部で力を保ち続けたが、エクトールはさっぱり活躍しなくなったので、2軍に落とされたのかも知れない。
さらに、マーリンの愛人ヴィヴィアンが拉致して育てていたアーサーの戦争仲間・バン王の息子を連れて来た。
アーサーはこれも喜んで円卓の騎士に加えた。
基本的に円卓の騎士は、アーサーとよく似た本能だけで生きているような体育会系の男ばかりであったが、少々例外がいた。
例外その1はトリスタンで、その2がランスロットであった。
彼らはウホッとは別の意味でいい男だったのである。
そしてそのいい男を、結婚以来放置され続けた欲求不満妻・グィネヴィアが見逃すはずはなかった。
グィネヴィアはあの手この手でランスロットにちょっかいを出し、彼を「自分に忠実な騎士」、つまり愛人に仕立てあげてしまう。
やがてふたりの関係は、誰もが知ることとなるのだが、亭主であるアーサーだけが最後まで気がつかなかった。
どうして気がつかなかったかは、ここまで読んできた方たちにはある程度見当がつくと思うので、敢えて説明はしない。
ガラハッドの誕生
グィネヴィアにたらし込まれ、王妃様一筋になってしまったランスロットは、いい男であるにも関わらず他の女性に興味関心を持たなくなった。
そりゃあもう、別の意味での「いい男」なのかと誤解されるぐらいに。
しかしイケメンであるから、中身がどうであろうとも一目惚れしてしまう女性は出現する。
カーボネックのペレス王の娘エレインも、そんな女性のひとりであった。
ただ、エレインが他の少女と違っていたのは、惚れた男をモノにするために行動を起こした、というところである。
彼女とランスロットとの出会いは、アーサーの義姉であるモルガン・ル・フェイがエレインの美しさをねたみ、とある塔に幽閉していたのをランスロットに救われた時のことであった。
ランスロットに夢中になったエレイン姫は、命を助けて貰ったお礼に、女の子の一番大切なものを捧げよう、とランスロットに迫ったのだが、ランスロットはこの据え膳を食おうとはしなかった。
そこでエレインは、侍女のブリーセンに相談する。
魔女であるブリーセンは、エレインの姿を魔法で王妃グィネヴィアそっくりに変えてしまった。
その夜。
物音がするのに気がついたランスロットがその方向を見ると、非常に悩ましい格好をした王妃グィネヴィアが、自分に向かっておいでおいでをしているではないか!
この時点でランスロットは理性を海の彼方にすっ飛ばしてしまい、尻尾を振りながら王妃(中の人はエレイン)の寝室に行き、姫と大人の関係を結んでしまったのである。
これでエレインは妊娠し、男の子を産む。この子はガラハッドと名付けられた。
エレインとグィネヴィア
自分の配下の中で最高の騎士であるランスロットに男の子が生まれた、と聞いたアーサー王は、その子と母エレインを自分の居城に呼び寄せ、祝いの宴を催そうとした。
「どうじゃ、いい計画だろう」
アーサーは得意満面でランスロットにこういったが、ランスロットは非常に迷惑そうな顔をした。
(だってそうすると、エレイン姫と王妃様が顔を合わせることになってしまうじゃないか……)
ランスロットと王妃がかなりヤバい関係であることは、アーサー王以外のほとんどすべての国民が知っている。
当然、エレインも知らないはずはない。
そうであるにも関わらず、王の誘いに応じて宮廷にやって来るのは、王妃に女として挑戦し、ランスロットを奪おうと考えてのことに違いない。
(こりゃ、血の雨が降るな)
ランスロットは、そう予感した。
ところでエレインであるが、ランスロットが予感した通りのことを考えていた。
(王妃の縄張りの中で、ランスロットとエッチして王妃に思いっきり敗北感を味合わせてあげるわ。そうすれば、もうランスロットはわたしのものよ)
行動力の権化である彼女は、またも侍女ブリーセンの魔法を使ってグィネヴィアそっくりに化け、ランスロットを誘惑して自分の寝室に引き込んだのである。
と、ここまでならばまだいい。
浮気というのは、した当人が妻または亭主に対して、その事実を否定し続ければ、なかったことにされるものなのだ。
が、ランスロットの場合、ことが終わって寝入ってから、寝言で先ほど堪能した王妃(中の人エレイン)の肉体の素晴らしさを褒め称え始めてしまった。
その声は、石壁を通して王妃の寝室にまで届いたというから、ほとんどターザンの絶叫のごとき大音声だったのだろう。
いびきや歯ぎしりよりもタチが悪い。
さて王妃。深夜に「王妃様の肌はすべすべだ!」とか「こ、このおっぱいがおっぱいが!」とか「×××の中がサイコー!」とかのとんでもない大声で目を覚まさせられた。
しかもよく聞くとそれは自分の愛人の声である。
どうやら彼は「王妃」と恥ずかしい行為をしているような感じなのだが、自分はここんとこ何年も夜は寂しく独り寝を続けていた。
(……さては!)
王妃はエレインがどうやってランスロットをたらし込んだかを知っていた。
このため数瞬で何があったのかを悟った。
「この浮気者!」
怒髪天を衝いた王妃は、寝間着姿の隣の部屋に行き、ドアを蹴飛ばし始めた。
「出てこいゴルァ!」
その声を聞いてランスロットは目を覚ます。
隣を見ると、満ち足りた顔で、正体を現したエレインがすやすやと寝息を立てている(たぶん狸寝入りだと思うけど)。
その格好はというと勝利の全裸である。
またもこの女の罠にひっかかったか、と思ったランスロットは飛び起き、そのまま自分の部屋に戻ろうとドアを開いた。
しかしそこには悪鬼の形相で仁王立ちする本物の王妃の姿があった。
王妃はとても文章に書くことができないような言葉でランスロットを手酷く罵り、彼はそのショックで精神に異常を来して宮廷から飛び出して行ってしまったのだ。
翌朝、エレインはランスロットを追って宮廷を出た。
彼女はやがて狂ったランスロットを見つけ、父のところに連れていく。
エレインの父・ペレス王はとある不思議なアイテムを取り出し、その力でランスロットは正気を取り戻した。
「あれって何です?」
ランスロットは尋ねた。
「あれですか。聖杯っていうんですよ」
ペレス王はこう答えた。
エレインはその後父にねだって城を1つもらい、ランスロットと息子ガウェインとともにそこで生活しようとした。
だが、ランスロットはまた王妃様一途に戻ってしまい、エレインを捨ててしまった。
だが、マロリーの物語のその後を読むと、エレインに貢がせた城はしっかり自分のものにしてしまったようである。
聖杯探索
この頃から、円卓の騎士の近辺にやたらと「聖杯」と呼ばれるものが出現するようになる。
それは多くの場合、騎士たちの怪我を治したり、狂った頭を元に戻したりといった奇跡を現したのだが、役目を終えるとまたどこかに消えてしまっていた。
アーサー王はこの聖杯をずっと手元に置いておこうと、配下の騎士たちに聖杯探索の命令を出した。
そこで円卓の騎士たちは残らずアーサーの宮廷を後にし、聖杯探しの旅に出たのだが、どうやらこの聖杯には、とある条件を備えた騎士しか近寄らせない、という特性があったようだ。
その条件というのは、「騎士が清らかな身体であること」ぶっちゃけていえば童貞だということだ。
円卓の騎士の中で武勇を比べると、第1はランスロットで、その後同着2位ぐらいでガウェイン・トリスタンが入る。
だが彼らのうちガウェインは、基本がアーサーと同様のケダモノっぽいので、清らかさとはほど遠く探索の冒険初期の段階で脱落してしまう。
トリスタンはというと、美女イゾルデとの恋に忙しく、暇があったら×××な生活を送っていたため、これまた脱落する。
というか、聖杯関連のエピソードに、彼はほとんど登場しない。
それでは武勇第1のランスロットはどうだっただろうか。
彼の場合、「使用回数」は2回(相手はどっちもエレイン)でさほど多くない。
が、基本的に不倫恋愛の当事者であり、聖属性とはほど遠い人物であったため、結構いいところまで行ったのだが、これまた脱落してしまうのである。
最終的にこの聖杯近くまでたどり着けたのは、ボールス、パーシヴァル、ガラハッドの3人だった。
ボールスは、同じ名前のボールス王の子供で、ランスロットの従兄弟にあたる。
彼は、若き日に一度だけ女性と過ちを犯したが、その後はずっと清らかな身体を保っていたという。
このため、聖杯の近くまで行くことができた。
パーシヴァルとガラハッドは、2人揃って童貞である。
また、生まれてからほとんど外に出ることがなく、ずっと自分の家の中で引きこもり生活を送っていた、という点も共通していた。
ということは、今現在どっかの匿名掲示板で聖杯の騎士を募集すると、基本条件該当者が何万と出てくるような気もする。
でもこの話、これ以上突っ込むとかなり危険そうなので、ここらでやめておく。
聖杯を探し当てた3騎士は、しばらくその場で暮らしたが、やがて清らかなガラハッドは聖杯・聖槍とともに昇天。
パーシヴァルはそのまま隠者となり、精進生活を送った後にこれまた神に召された。
最終的にボールスのみが、アーサーの宮廷に戻って一部始終を報告することになったのである。
バレた不倫
キャメロットに戻ったランスロットは、グィネヴィアとの不倫を再開した。
いつまでたっても不倫をやめないため、国民の王妃支持率は地に落ちた。
エレインとの三角関係を演じていた時は、まだランスロットは王妃と大人の関係にはなっていなかったようだが、どうやらこの頃は日常的に彼女の寝室で夜を明かしていたようである。
こんな感じだったので、ある日ついにガウェインの弟アグラヴェインがキレてしまう。
「王の名誉のために、ランスロットめを浮気の現場でふんじばる!」
アグラヴェインはそういいつつ、同志を募った。
たちまちのうちに、弟(実は異父弟)のモードレッドなど、13人の仲間が集まった。
とある夜、アグラヴェインたちの襲撃を受けたランスロットは仰天する。
このまま踏み込まれると、彼は騎士として限りなく不名誉な最期を遂げなければならなくなる。
できれば戦って死にたいが、武器も鎧もない。だって、全裸だから。
やむなくランスロットは、自ら扉を開き、勢い余った騎士たちを転倒させ、そのうちのひとりから剣を奪った。
それから後は、めちゃくちゃに剣を振り回してモードレッドを除く13人の命を奪い、そのまま遁走してしまったのである。
ランスロットは不名誉な死を免れたが、王妃の方は不倫の現場を押さえられてしまったため、当時の法に従って火あぶりにされることになった。
このためグィネヴィアは、王妃の豪華な衣装を剥ぎ取られ、下着姿で荷車に乗せられ、刑場に引かれていく。
円卓の騎士も、見物する民衆も「きっとランスロットが王妃を奪回するためにやってくるに違いない」と思った。
ガウェインの弟のガヘリスとガレスは、ランスロットになついていたため、乱入してきたランスロットと戦いたくない、といい出した。
それでもアーサーが護送の役を務めてくれ、と懇願したため、彼らは鎧を着ず、剣も持たない非武装状態で荷車の横についていたのだ。
と、そこにやっぱりランスロットが来た。王宮から逃げた時は全裸だったが、今度は完全武装し、名剣アロンダイトを携えている。
しかし、脳内はというとグィネヴィアの寝室で大暴れした時と同じバーサーカーモードであったため、刑場に乱入するや否や誰彼を構わず剣を振るい、殺戮をほしいままにした。
非武装状態であったガヘリスとガレスは、それぞれあっけなく1太刀で殺されてしまった。
すべての騎士を殺戮すると、ランスロットは王妃をさらって逃げていった。
予想通りの展開になった見物人は大喜びだったに違いない。
ガヘリス・ガレスの兄弟はランスロットになついていたが、長兄ガウェインにも可愛がられていた。
すぐ下の弟アグラヴェインが死に、末弟モードレッドが重傷を負った時には、何とも思わなかったガウェインだったが、この2人が死んだと聞いてキレまくった。
ガウェインはさっそく王に「ランスロットをぶっ殺せ」と迫り、軍勢を率いてフランスのランスロットの居城に押しかけることにした。
ちなみにこのランスロットの城、というのは、捨てた女であるエレインに貢がせたあの城である。
モードレッドの反乱
アーサー王は、戦場の勇者ではあるが、部隊指揮官としてはあまり優秀ではない。
特に攻城戦が苦手である。
有り体にいえばあんまりおつむの中身がよろしくなさそうなのだ。
ガウェインにしても、似たようなものである。
このような始末なので、勢いに任せてフランスまで押しかけたはいいが、戦いはあっという間に膠着状態に陥る。
とりあえず交渉でグィネヴィアの身柄は引き渡してもらい、彼女をブリトンに帰したが、ガウェインは「ランスロットの野郎をブチ殺すまでは戦いを終わらせない」といい、そのまま陣を張り続けた。
やがてガウェインは、城方の騎士を挑発し、一騎打ちで各個撃破していこうと考えた。
このやり方で、彼はランスロットの従兄弟で、「生涯過ち1回」のボールスを倒し、重傷を負わせた。
そしてとうとう、御大ランスロットを引き出すことに成功する。
ガウェインは、1日のうち午前9時から正午まで、通常の力の3倍が出せるという特異体質であった。
その際、彼の全身が真っ赤に染まるのかどうかは記録がないのでわからない。
一騎打ちをしている間にそれに気づいたランスロットは、正午になるまでのらりくらりと相手をかわし、正午過ぎになって力の衰えたガウェインを倒す。
ガウェインはこれで重傷を負った。
頼みの綱のガウェインを倒されて、アーサー陣営は意気消沈する。
とそこに、さらに悪いニュースがもたらされた。
ブリトンの国の留守を任せたモードレッドが、アーサーに背いたというのだ。
モードレッドは、建前上ロト王とモルゴースとの間の子、として育てられたのであるが、実の父はアーサーである。
ということは、アーサーと、その父ユーサーのDNAを受け継いでいる、ということになる。
つまりは彼も「熟女好み」である可能性が極めて高かったのである。
アーサーとの結婚当初はロリといっていいぐらい初々しいグィネヴィアであったが、結婚以来もうかなりの年月が経過している。
毎日顔を合わせているアーサーは気づかなかったが、年下のモードレッドから見れば、十分「熟女」になっていたのである。
その熟女をモノにすれば、ブリトン人の国がおまけについてくる。
「ここはひとつ、男として勝負に出るしかない」とモードレッドが思ったとしても不思議ではない。
この知らせを聞いたアーサーは舌打ちをし、すぐに全軍に陣を引き払い、ブリトンに戻れと命令した。
最後の戦い
モードレッドは、アーサーが留守の間に国内にいた諸将の大部分を味方につけていた。
このため大軍でアーサーの上陸を待ち受けていたのだが、アーサーはあっさりとこれを撃破する。
だが、上陸作戦終了後、ランスロットに受けた傷が元でガウェインが死んでしまった。
この時点で、アーサーが長い年月をかけて集めた円卓の騎士はほとんど彼のもとにはいないという事態になったのだが、アーサーはめげずにモードレッドの軍隊を追いつめる。
あとちょっとで敵軍を撃破できる、というその時、アーサーは不吉な夢を見た。
ついでに、死んだばかりのガウェインが夢枕に立ち「今後1ヶ月の間に戦闘を行えば、あなたは必ず破滅するから和議を結べ」と進言してきた。
アーサーはその通りにして、モードレッドを自分の後継者にし、なおかつ今すぐ国土の半分を分け与えるという、寛大というにも程がある条件で講和条約を結ぼうとする。
ただし、アーサーは個人的にはモードレッドをこれっぽっちも信用していなかったので「和議の席で、剣を抜く騎士がいたら、その時点で戦争再開ね」と配下に指示していた。
その和議の席で、モードレッド配下1人の騎士が毒蛇を払いのけようとして剣を抜いた。
それを見たアーサー軍はパニックに陥り、そのまま一斉に剣を抜いて暴れ始める。
講和条約の調印会場は、そのまま最終決戦の戦場になってしまった。
そこでアーサーはモードレッドを見つけ、槍でその脇腹を深々と刺す。
モードレッドも、最後の力を振り絞って、アーサーの脳天に剣での一撃を加えた。
両者は同時に倒れた。
モードレッドはそのまま死んだが、アーサーはまだ息が残っていた。
円卓の騎士の最後の生き残りであったルーカンとベディヴィアの兄弟が、アーサーを助け起こして戦場を離脱した。
実はルーカンはこの時かなり深い傷を負っており、途中で傷口から内蔵を噴出させて死んでしまった。
アーサーは「ああ、ルーカンはわしよりも重傷だったのに……」とその死を嘆いた。
が、ちょっと待って欲しい。
アーサーは頭蓋骨を骨折して、脳漿が流れ出すような状態なんだろう?
普通それ、腹が破れたのと同等以上の重傷じゃない?
……あ、アーサーの場合、脳味噌はいくらダメージを受けても生きていくのに支障はないから、そういうことになるのか……。
さて、いよいよこれはもうダメかもわからんね、と悟ったアーサーは、エクスカリバーをベディヴィアに手渡して命じた。
「これをこの先にある湖に投げ込んでこい」
天下の宝剣エクスカリバーを惜しんだベディヴィアは、剣を隠して主君に嘘の報告をしたが、アーサーはその嘘を見破った。
3度目に、ベディヴィアは本当に湖に剣を投げた。
すると湖の中から、女性の白い腕が延びてきて、剣を受け取るとゆっくりと沈んでいったのである。
その後、船に乗った一団の貴婦人が出現する。
その一団の中には、ヴィヴィアンやアーサーの義姉・モルガンもいたという。
彼女たちは傷ついたアーサーを船に乗せ、静かに去っていった。
船の行き先は、「アヴァロンの島」というところだったという。
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