前回の記事で詳細を紹介した、「エルギンマーブル問題」。
イギリスにはイギリスの、ギリシアにはギリシアの言い分があり、なかなか簡単には解決しそうにありません。
ところが、イギリス側が長らく主張してきた、「エルギンマーブルのような重要な考古学的遺産は、大英博物館に収められてこそ、適切に管理できる」というロジックについては、これを揺るがす大スキャンダルが発覚しました。
このスキャンダルが、エルギンマーブル問題をさらにこじらせている背景ともなっています。
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一大スキャンダルの発覚:着色されていた彫像群を真っ白に塗りなおした奴は誰だ!?
そのスキャンダルとはなんなのでしょうか?
まず、大英博物館で見ることのできるエルギンマーブルは純白の輝きを誇る大理石なのですが、最近の研究で、どうやらそもそもこれらの彫刻には派手な彩色がされていたらしい、ということがわかってきたのです。
「古代ギリシアといえばやっぱり白でしょう!」という先入観にとらわれすぎていたイギリスが、大英博物館のエルギンマーブルを真っ白に「クリーニング」してしまった、という事態が、大英博物館のどこかで発生していたということになります。
どうやら大英博物館のその「クリーニング」は二十世紀前半に実施されたようなのですが、それはなかなか徹底したものだったようで、その影響でもはやエルギンマーブルが「もともとはどんな色だったのか」を復元することはほとんど不可能な状態になってしまっているとのことです。
それだけではありません。
大英博物館で展示されているエルギンマーブルが「みごとな白」であることの影響か、他の国の博物館も、「古代ギリシアの彫刻といえば、真っ白に洗浄するもの」という伝統になってしまいました。
「古代ギリシアの彫刻は美しい白でナンボである!」の強硬な思い込みが世界中のギリシア研究を惑わせ、「どうも違うらしい」と分かってきた頃には、もうもとの再現が不可能なまでに「クリーニング」が進んでしまったという事態。
なるほど、ギリシア側からすれば、「大英博物館のような大きな博物館に保存されていれば安全ってわけでもないってことだろう!」と反発するゆえんになっています。
もっともこのような「人類全体規模でのおおいなる勘違い」というのは、考古学の世界ではある程度避けられないことのようで、大英博物館だけが悪いわけでもないですし、ギリシアの博物館に収められていればそういう目に「合わなかった」という保証も、これまた、別にない話なのですが。
イギリスの頑固さを支えているもうひとつの理由:世界中の研究者にとってもロンドンにあるほうが結局ありがたい
それにしても、ここまでモメており、スキャンダルまで出てきているのに、なかなかイギリスがギリシアに返還をしない最大の理由は何なのでしょうか?
おそらくイギリス一国の事情というより、世界のギリシア文明研究家の都合もあってのことなのではないでしょうか?
つまり、こういうことです。
実に身もふたもない話になってしまうのですが、アテネの博物館にあるより、ロンドンの博物館にあるほうが、世界の研究者や考古学愛好家が「見学に行きやすい」という現実問題ではないでしょうか?
このようなこじれた物事については、実利の問題が決め手になりがちなものです。
何のかんのと言ってもロンドンはいまだに世界トップレベルの国際都市ですし、大学や研究機関の拠点もたくさん抱えています。
多くの人が、「便利さでいうなら、アテネにあるよりロンドンにあるほうが助かるよな」という感想を、正直なところでは持っているのではないでしょうか。
もっともこの点については、これから世の中がもっと変化し、もっとテクノロジーが進み、各国の博物館のデジタルアーカイブ化やヴァーチャルリアリティを通じての情報共有などがより一般的になれば、ギリシア側にも有利な展開になってくるかもしれませんね。
日本も決して無縁ではない話:「考古学的資産は誰のものなのか?」
けっきょくこの話は、世界の各地で今日も発見され続けている「考古学的な価値をもつ発掘物」というのは、いったい誰のものであるべきか、という話に収攬すると思います。
スナオに考えれば、「考古学的な発掘物は、誰の為でもない、人類全体のものである!」と恰好よく言いきりたいところですよね。
ですが、現実はなかなかそんなふうにはまとまりません。
そういうものを持っていれば、けっきょくは観光客を呼べるお金がバカにできない額になるし、管理の権限者も明確にしないといけないし。
そういうわけで、古代の考古学的遺物であっても、発見された場合は「誰のものか? あるいは、どこかの国のものか?」の権利問題がひとつひとつに発生せざるを得ない状況です。
この話、日本も決して無縁ではありません。
むしろ今後ますます、この手の話での国際問題は増えてくるものと、予想したほうがよいかもしれませんね。
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