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【富山県:釜池】愛と悲しみの伝説「カマ池の由来」をたずねて

ミスペディア

富山県にある「釜池」には、とある娘と若者の悲しい恋の伝説があります。

「カマ池の由来」というその伝説をたどり、深く切ない二人の愛に触れてみましょう。

伝説「カマ池の由来」とは

富山県の山合いに、「釜池」と呼ばれる池があります。

そこは木々に囲まれ、鳥がさえずり、湖面には新緑や紅葉が映し出される、ひっそりとした静寂な美しい場所です。

伝説の生まれた頃、ここに池はなく、人里から少し離れた山の中でした。そしてある日、ここで物語が起こります。

世の中で語られる伝説や伝承といった類は、人物の気持ちが語られていることはあまりありません。

しかし、そこにはいつだって本当の想いや切ない想いがあるはず。

この記事では、この静かな地に起こった物語、そして娘と若者の深く悲しい想いに触れてみたいと思います。

伝説「カマ池の由来」

若者と娘の出会い

昔ある山の中に、一人の若者が住んでおり、炭焼きをしながら毎晩笛を吹いておりました。

優しいその男が吹く笛の音は清らかで美しく、山々に染み渡り、木も鳥も、もののけすらも聴き入るほどでした。

いつしか、とても美しい娘が毎夜現れるようになり、大岩の上に立ち若者の笛を聴くようになりました。

若者は娘に惹かれ、娘が来るのを待つようになり、娘もまた若者の笛の音を、頬を赤らめながら愛おしそうに聴くのでした。

ある日、娘は初めて岩を降り、若者にこう話しかけます。

「私はこの地に住む大蛇です。 長い長い修行を経て、やっと龍になれる日が来ました」

「明日、私が龍となり天に昇る時、大雨が降り、山は崩れ大水が起こります」

「でも私はあなたを死なせたくはない。 今宵のうちに山を下り、走ってどうか遠くへ遠くへ逃げてください」

「このことは誰にも言わないで。 誰かに話せば、私はあなたの命をもらわなければならなくなります。 どうか黙って早く逃げてください。」

そうして娘は森の中へと姿を消しました。

悲しい別れ

若者はひと晩中苦悩し、そして村人に告げることを決断しました。

「このままでは村人が大勢死んでしまう。 皆を救えるのなら俺ひとりの命など捨ててもいい!」

村の長に告げると、村の者は驚き怯え、そして百人もの村人が大蛇の住む山へと向かいました。

「今夜のうちに大蛇を退治しなければ!」

手には蛇が嫌う「鎌」を、ひとり十丁も携えて。

山に着き、若者が娘のいた岩を指さすと、百人の村人が岩を目掛けて次々と鎌を投げ込みました。

すると突然大雨が降り、大蛇の苦しみのたうち回る音と声が森中に響き渡りました。

人々は恐ろしくなり山を駆け下りて一目散に逃げ帰っていきました。

大蛇の苦しむ音は一晩中響いていました。

翌朝雨が止み、人々が恐る恐る山へ向かうと、そこには大きな池ができていました。

池の中ほどにある大きな岩に、大蛇が七回半巻き付いて死んでいました。

岩を抱きしめるような姿、その身体には千を超える鎌が突き刺さっていたといいます……。

そして、その日から若者の姿を見るものはいませんでした。

伝説「カマ池の由来」に思う

伝説はほとんどの場合、人物のしたことや語ったことだけが残されており、各々の心理描写が語られることはありません。

しかし、大蛇であろうともののけであろうと、そこには誰かへの心からの想いがあったはず。

その思いの深さや愛に人々が共感したからこそ、伝説となり語り継がれてきたのだと思います。

「カマ池の由来」を聞いたとき、娘と若者の語られぬ想いが私の心に響いてきました。

伝説に秘められた、本当の想いに触れてみたいと思いました。

想像でしかないかもしれませんが、ここでは、愛する者を想いながら悲しい結末を迎えざるを得なかった、娘と若者の純粋な切ない想いに触れてみたいと思います。

娘の願い

娘に身をやつした化身と若者の恋。

よくある伝説といえばそれまでかもしれません。

しかし、私はこの伝説に深い深い愛、そしてたまらない切なさを感じます。

娘はなぜ若者に本当のことを告げたのか。

長き時を経てようやく龍となり天に昇れる日が来たというのに。

彼がすべてを告げれば自分の命が断たれてしまうというのに。

若者を愛するが故、その命を助けたかったから。それに違いはないでしょう。

しかし、告げれば若者は逃げてくれる、娘は本当にそう思っていたのでしょうか?

若者はその優しさで森のすべてを魅了するほどの人。

娘もそんな男だから想いを寄せていたのでしょう。

ただ笛がうまいから好きだった、そんな簡単な想いではなかったはず。

「ひとりで逃げるような男ではない……。 わかってる。」

だからこそ娘は若者を深く愛したのでしょう。

知らせずにおけば若者は土砂や大水にのまれて死ぬ。

知らせたところできっと村人に告げるであろうから、いずれ若者の命を奪わなければならない……。

結局は彼の命を守れない…娘は苦しかったでしょうね。

ならば若者に告げず、龍になり天に昇ってしまえば良かったのに。

自分が娘ならどうしただろう。娘に思いを馳せてみました。

それが大切な人なら、やはり逃げ延びて欲しい……。

自分だけ逃げるような卑怯な人になっても生き延びて欲しい、私はそう思いました。

娘もきっと同じだったのではないでしょうか。

若者に告げてしまえば、そして若者が村人にそれを告げてしまえば自分が殺されるかもしれない。

でも彼が寸分でも生き延びる方法はそれしかない!

土砂に埋まり濁流にもまれ……、自分が知らせなければ若者はそうやって命を落としてしまう。

「ならば伝えよう……」

「そして逃げて!」

「走って走ってどうか生き延びて!」

ほんのひと握りの期待を込めて、娘は若者にすべてを伝えることにしたのでしょう。

若者の苦しみ

けれど、若者は逃げませんでした。

悩んで悩んで、村人に大蛇のことを伝えました。

彼もまた苦しかったでしょう。愛する娘を死なせてしまうのですから。

「ごめんな…。」

「ごめんな…。」

何度も呟いたでしょうね。

山を登る間も、そして人々に岩を指し示す瞬間も……。

目の前で千もの鎌が投げつけられるさまは、どれだけ苦しく辛かったことでしょう……。

死にゆく娘

翌朝は嘘のように森は静まり返っていました。

そこにできた棲んだ池の中、大蛇は岩をかたくかたく抱きしめるように死んでいました。

岩は、娘が毎夜若者に会っていた場所。

それは娘にとって大切な大切な場所…。

きっと愛する人そのものだったでしょう。

千もの鎌を浴び、身体を切り裂かれ、愛する人を抱きしめながら娘はどんな思いでいたのでしょう。

「あの方らしい……」

長き年月を経てようやく龍になれる、その時を失ってでも守りたかった命。

叶わずとも、苦しくとも決して悔しくはなかったかもしれません。

そんな男だから愛したのですもの…。

まとめ 釜池にまつわる深く悲しい物語

「カマ池」はこの物語から「鎌池」と名付けられましたが、その後「釜池」と呼ばれるようになり、ため池として長く人々の暮らしを潤してきました。

今は役目を終え、ひっそりと静かにたたずんでいます。

この世で結ばれることのできなかった美しい娘と心優しい若者。

きっとあの世で結ばれていることでしょう。

天に昇る間、若者が「ごめんね、ごめんね」と謝り続けていたのではないかと想像すると、くすっと笑ってしまいます。

若者が笛を吹き、娘が笑みをたたえて聴き入る、そんな風にふたり幸せに暮らしていることでしょう。

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