映画やマンガ、ゲームなど、様々なところで取り上げられて人気を博しているキャラクター「海賊」。
その存在はファンタジー要素強めに描かれていますが、彼らは私たちと同じように、確かに歴史上存在する人間でした。
今回はそんな海賊たちの真の姿をご紹介していきます。
「海賊」ってそもそも誰?

一口に「海賊」と言っても、様々な種類があります。
映画「パイレーツオブカリビアン」や漫画「ワンピース」などに描かれている代表的な海賊は、16世紀から17世紀にかけて活躍した「カリブの海賊」です。
多くの方は海賊と聞くとこれらをイメージすると思います。
しかし、海賊はもっと古くから存在しています。
有名どころでいうと、バイキングが挙げられます。
カリブの海賊より何世紀も昔、9〜11世紀の中世の時代に北欧から海に漕ぎ出して各地に上陸した人々です。
そこに海があり、人がいれば、存在しうるのが海賊です。
よって歴史はかなり古く、古代ギリシア時代には既に記録が見られます。
「歴史の父」ヘロドトスも、著書『歴史』を海賊の掠奪の話から始めているのです。
とはいえ、この時代には貿易と掠奪は同等な行為でした。
ここから、「海賊」は一義的に定義することがかなり難しい存在だということがわかるでしょう。
そのため、一旦ここでは「海で暴力・略奪行為を働く者たち」と簡単に、広義に定義しておきます。
カリブの海賊
海賊研究について
次に、今回取り上げる「カリブの海賊」についてご紹介していきます。
このカリブの海賊、非常に有名ではありますが、何せ史料が少ない。
つい最近まで、歴史とは文字で残されたものが全てでした。
彼ら自身は文字の読み書きができないことがほとんどで、もしできたとしても大変な航海中に日記なんかをつける暇、ないですよね。
しかも彼らは「犯罪者」です。
王族や偉人の歴史は、国が責任を持って公文書を残したとしても、彼らの歴史を残してくれる人はいません。
だから海賊について書かれているきちんとした一次史料と呼べるものは、裁判記録ぐらいしかありません。
当時の海賊の姿を綴った本なんかは、本当に片手で数えられるくらいしかないのです。
さらにその「はみ出し者」という側面から、歴史学の中で「一国史」や「英雄史」が主流だった頃は、全くと言っていいほど研究が進められてこなかったのです。
しかし、最近の歴史学の潮流は、彼らに味方しています。
権力者ではなく民衆の目線から歴史を紐解く「下からの歴史」や、国ごと・時代ごとに分けずに研究する「グローバルヒストリー」などが流行りだからです。
まあ流行りと言っても、今までの歴史学に行き詰まりが見えただけかもしれませんが。
そんなこんなで、カリブの海賊は、まだまだ研究途上の分野と言えるでしょう。
だからこその面白さがありますね。
カリブの海賊は3種類に分けられる!

いよいよカリブの海賊の姿に迫っていきます。
「カリブの海賊」と一緒くたに呼んできましたが、実は時期・性質ごとに大きく3種類に分けられます。
今回の記事では、最初に登場した海賊についてご紹介します。
1650-1680年ごろの海賊(バッカニーア)
この頃の海賊は、まだ完全な「犯罪者」ではありませんでした。
ここだけ「バッカニーア」と名前がついていることからもわかるように、かなり均一的な性質を持っています。
彼らの多くはイギリス人であり(最後までカリブの海賊はイギリス人の割合が一番多かったのですが)、標的はスペインでした。
活動範囲はカリブ海。
映画「パイレーツオブカリビアン」でも海賊のたむろする街として描かれているトルトゥーガ島は、その通りの姿でこの時代存在していました。
時のイギリスは世界中の海に漕ぎ出し、スペインと覇権を争っていた時代。
そんなイギリスという国家に使われたのが海賊でした。
「私掠船」という単語は高校世界史の教科書にも出てくる単語ですが、これは「私掠免許」を持った船のこと。
私掠免許というのは、民間の船が他国の船を拿捕することを認めた免許状で、発行するのは国です。
つまり、国お墨付きの海賊。権力の犬です。
当時は国際法なども十分に整備されていない時代。
絶対悪など存在せず、国が認めればそれは犯罪ではないのです。
ここが1つ、カリブの海賊を語る上でポイントになってきます。
バッカニーアの中でも著名な海賊は、ヘンリー・モーガン。

彼の人生は貴重な一次史料となる本に記録されています。
その本は、ジョン・エスケメリング(John Esquemeling,1645~1707)の『カリブの海賊』。
原著は『アメリカの海賊(アメリカのバッカニーア)』(De Americaeneche Zee-Roovers)という題で、オランダ語で書かれ1678年にアムステルダムで出版されました。
続いてスペイン語訳され、1648年にロンドンで英語版が出版されたことからもわかるように、世界的ベストセラーになりました。
このエスケメリング自身も海賊でモーガンの近くにいたことから、ある程度の正確性は認められるでしょう。
モーガンの一生はまさに激動。
イングランドに生まれ、海に出て、スペインを倒して英雄になり、最後はジャマイカ島代理総督にまで上り詰めたのです。
ここにそんな彼の人生がわかりやすく表現された言葉をご紹介します。
「バッカニーア・アドミラル・サー・ヘンリー・モーガン」
ヘンリー・モーガンの子孫の一人だという作家アレンは、このような題名でヘンリー・モーガンの伝記を書いています。
つまり、「海賊にして提督、しかも国王陛下よりサーの称号を受けたヘンリー・モーガン卿」ということです。
モーガンの例から分かるように、この時期はまだ「完全なる犯罪者=海賊」と「国家の犬=私掠者」の境が曖昧な時期でした。
この境界はだんだんと鮮明になり、二者はくっきりと別れていくのです。
今回はここまで。次回をお楽しみに。
【参考文献】
- 石島晴夫『カリブの海賊 ヘンリー・モーガン』(原書房、1992年)
- ガブリエル・クーン著、菰田真介訳『海賊旗を掲げて―黄金期海賊の歴史と遺産』(夜光社、2013年)
- 薩摩真介『〈海賊〉の大英帝国史-掠奪と交易の四百年史―』(講談社、2018年)
- ジョン・エスケメリング著、石島晴夫編訳『カリブの海賊』(誠文堂新光社、1983年)
- 竹田いさみ『世界史をつくった海賊』(筑摩書房、2011年)
- チャールズ・ジョンソン著、朝比奈一郎訳『海賊列伝』(中央公論新社、2012年)
- マーカス・レディカー著、和田光弘・小島崇・森丈夫・笠井俊和訳『海賊たちの黄金時代―アトランティック・ヒストリーの世界―』(ミネルヴァ書房、2014年)
コメントを残す