「真夏の夜の夢」は読んだ?シェイクスピアが描いた妖精たち3

オベロン、ティターニア、パックと踊る妖精(ウィリアム・ブレイク)
オベロン、ティターニア、パックと踊る妖精(ウィリアム・ブレイク、原典

シェイクスピアの「真夏の夜の夢」に登場する妖精たちから、その正体を探っていくこちらの連載記事。

前回までで、物語のあらすじ、妖精王〈オベロン〉、妖精女王〈ティターニア〉いたずら好きの妖精〈パック〉の起源を紹介してきました。

最終回にあたる今回は「真夏の夜の夢」の作者、シェイクスピアについてお話します。

この物語は、ただロマンチックでおもしろいだけではありません。

シェイクスピアはそれまでの妖精論をすっかりくつがえし、妖精文学にまったくの新しい伝統を作り上げたという功績を果たしています。

ではシェイクスピア以前の妖精たちはどのような姿をしていたのでしょうか?

また、彼の描いたほかの妖精物語も紹介しましょう。

妖精の語源について

「真夏の夜の夢」に代表されるように、ケルトの民間信仰からはなれて、次第にロマンチックな空想の領域へと移行していった妖精物語。

その〈妖精(フェアリー)〉の語源は、「運命、宿命」を意味するラテン語「ファトゥム、ファターレ」からきています。

妖精は、手足をもち、顔があり、言葉を話すなど、しばしば人間と同じような姿で描かれることがあります。

それだけでなく人間と似通った性質を備えていることもあります。

彼らは恋もするし、結婚もするし、子どもだって産むのです。

妖精に姿と形をあたえたイギリスの劇作家・詩人シェイクスピア

シェイクスピア
シェイクスピア(原典

世界文学のスタンダードとして人種や時代を超えて、今もなお読み継がれているシェイクスピア作品。

最高の演劇作品をいくつも世に送り出したこの偉大な劇作家は、イギリス演劇史・文学史に影響を与えただけではありません。

本来「妖精」は、善も悪も備えていた神々しい存在とされていました。

ところが、ひとつの神を至高神とするキリスト教によって邪神として排斥されてしまったのでしょう。

妖精は異教の、見棄てられた神々となり追い払われてしまいます。

そこにシェイクスピアは新たな明るい性格をもつ妖精像を取りもどそうとしました。

つまりシェイクスピアは、それまで伝承でしかなかった妖精に姿形を与えたのです。

しかし、これまで見てきたことからも分かるように、シェイクスピアは妖精たちのイメージをゼロから作ったわけではありません。

シェイクスピアは「真夏の夜の夢」に登場する妖精たちの特色をべつの文学から借用してきました。

たとえば、中世の騎士物語、古典的な詩や歌、さらには広く一般の人びとのあいだに伝わっていたフェアリーの知識から生み出されたのが「真夏の夜の夢」で活躍する妖精たちでした。

そうした知識は、シェイクスピアの過ごした田舎での思い出や、ウェールズの人たちから聞いたお話もあったことでしょう。

あるいは、その時代の迷信や魔術に関する書物から借りてきたイメージもあったかもしれません。

彼は、前時代の作家たちの作品を手本にして、これまでにない新しい妖精のイメージを作り出してみせました。

そうして生まれた妖精たちは作品のなかで重要な役割を演じてみせたのです。

シェイクスピアはたくさんの妖精物語を書いていた!

「真夏の夜の夢」のメインはライサンダー、デメトリアス、ハーミア、ヘレナの恋愛関係ですが、物語を引導するのは〈パック〉ら妖精たちです。

妖精王のおせっかい、〈パック〉のいたずら、〈ティターニア〉の間違えた恋、若者たちの三角関係……とっても慌ただしくて賑やかなこの物語の最大の魅力は、登場人物がアタフタしているのが笑いを誘う、その様子にあります。

「リア王」「ハムレット」で有名なシェイクスピアですが、「真夏の夜の夢」以外にも妖精が登場する物語を書いていたことをご存じでしょうか。

「ヘンリー4世」では、無邪気でやんちゃな放蕩息子ハル王子に頭を悩ますヘンリー4世が次のように祈ります。

「真夜中にとび歩くフェアリーが、うぶぎに包まれているまま、われわれの子どもを取り換えてくれたらなあ…」

また、独裁的な王が、自分の気まぐれから子ども達を放浪の運命に追いやる『シンベリン』。

シンベリンの娘、イモージェンは眠りに身をゆだねながらこう言うのです。

「神々さまどうぞお護りくださいませ、フェアリーたちや夜の誘惑者たちから、わたしを、どうかお願いですからお護りくださいませ。」

誰もが知る、シェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」にも妖精は登場しています。

それが、夢をあやつる妖精の女王マブ。

イギリスのロマン派の詩人、パーシー・シュリー(1792-1822)も「女王マブ」という作品で彼女を主役にした夢の物語を書いています。

たとえば丘や森。

地下のうす暗い洞穴や見通すことのできない深い水底。

原始時代の人びとは自分たちを取りまく自然のなかに彼ら、つまり妖精たちが住んでいると信じていました。

一見したところ人間とは相容れないと思われる妖精たちは、中世騎士物語とラテンの詩歌、ケルトの民間伝承、そしてシェイクスピアの想像力によって、しっかりと一つに結びつけられ、文学の畑で頂点に達しました。

いま、妖精たちは物語のなかで重要な役割を演じ、おそらく欠くことのできないものとなりました。

私たちがいま、妖精物語を楽しむことのできる背景には、おおくの文学作品と伝承があったのです。

オベロン、ティターニア、パックと踊る妖精(ウィリアム・ブレイク)
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