【怪談】江戸時代に物語化された、青頭巾伝説とは?

『雨月物語』第四版の見返、序文
『雨月物語』第四版の見返、序文(原典

栃木県で生まれた青頭巾伝説は、怪談話の一つです。

耳にすれば怖くなってしまう人もいるかもしれませんが、江戸時代には文学作品にもなっており、人とは何であるかということについて考えさせられる話しでもあります。

ここではそんな青頭巾伝説について、独自の観点からご紹介していきましょう。

禅宗のお寺に伝わる伝説

青頭巾伝説は禅宗のお寺が舞台となっています。

栃木県栃木市にある大中寺であり、曹洞宗のお寺です。

曹洞宗は鎌倉仏教の一つであり、道元が開いたものです。

大中寺も15世紀に曹洞宗のお寺となりましたが、元々は真言宗のお寺であり、再興された形です。

大中寺には七不思議が起こるとされています。

敷地内にはその案内図もあるほどです。

たとえば東山一口拍子木があり、寺の東方で拍子木が聞こえると変なことが起こると言われています。

馬首の井戸というものもあります。

ある豪族が戦いに負け、悔しさで馬の首を切って井戸に放り投げたら、馬のいななきが聞こえるようになったとのことです。

そのほか、不開の雪隠、不断のかまど、油坂、枕返しの間、根なしの藤があり、青頭巾伝説以外でも興味を引かれる場所です。

禅僧と少年が織りなす青頭巾

青頭巾伝説とは、一体どのようなものでしょうか?

一般的に伝わっている話を短くまとめてみました。

むかしむかし、快庵という禅僧が奥羽の修行へ赴き、下野(現栃木県)の高田というところで、宿を探していました。

すると通りがかりの男たちが快庵を見て山の鬼が来たと勘違いし、周囲の村人たちが怯え、逃げ惑いました。

快庵が驚いていると、ある男が手にした天秤棒(てんびんぼう)を振り上げました。

しかし快庵の様子が違うと思い天秤棒を下ろすと、快庵が言いました。

「諸国遍歴に来た僧であり、一夜の宿を借りたいだけである。どうしてこうもわたしを恐れるのか?」

男は快庵にお詫びすると、事情を話しました。

近所の由緒ある寺に住職がいますが、ある旅へ向かい、十二・三歳程の美しい少年を連れて帰ってきました。

住職は高い学問を持っていましたが、少年を溺愛しました。

けれども少年は病に掛かってしまい、看病の甲斐もなく亡くなってしまいました。

以降住職は少年の亡骸と戯れ、腐肉を食べ、骨を舐めるようになりました。

亡骸がすっかりなくなると村の墓にやって来て、死んだばかりの人の体を食べるようになりました。

村人たちは山の鬼として恐れるようになりました。

快庵は男の話を聞くと、住職を教化することを約束しました。

翌日、住職のところへ行き、禅の教えを説いて座禅を組ませ、青頭巾もかぶらせ、再び奥羽へ向かいました。

それから一年が経過し、快庵が再び村を通りかかりました。

住職が気になったので、寺へ行ってみると、ボロボロの廃屋の中に住職がいました。

しかし以前とは違った姿でした。

ひげも髪も伸び放題のまま座禅をしていましたが、影のようであり、ブツブツつぶやいてばかりでした。

快庵は杖を振り上げ住職の頭へ叩き下ろすと、またたく間に住職の体が崩れ、青頭巾と白骨だけが残りました。

快庵はこの後、村人たちの願いで村に残り、住職のいた寺を再興しました。

その寺が大中寺であり、曹洞宗の関東三大役寺にまでなりました。

 

上田秋成「雨月物語」の一編に

『雨月物語』第四版の表紙
『雨月物語』第四版の表紙(原典

江戸時代に創作された有名な怪談文学に「雨月物語」があります。

上田秋成の作とされ、映像化もされています。

青頭巾伝説は「雨月物語」の一編に入っており、ストーリー展開は一般で伝わっているものと同様です。

けれども「雨月物語」はあくまで文学です。

秋成が耳にしたであろう青頭巾伝説を下地に、秋成独自の視点で描かれています。

淡々とした語りの中に、少年に溺愛した住職の思いや住職を説教した禅僧の気持ち等を伺い知ることができます。

怪談と言えば怖いだけの話に思えますが、「雨月物語」には独特の世界観も描かれ、秋成が求めていたであろう美的世界も覗い知ることができます。

脚色された部分があるとはいえ、青頭巾伝説を知ったのであれば、明成版の物語も読む価値があるでしょう。

それだけ青頭巾伝説は有名な怪談話でもあり、江戸時代においても広く知れ渡っていたと見なすことができます。

僧といえども、まずは人

文学や映像にもなっている青頭巾伝説には、人とは何であるか、について考えさせられる要素があります。

僧と言えども一人の人間であり、厳しい修行を積んだり、広く学問を学んだりしても、心の隙間ができてしまうこともあるのでしょう。

簡単に言えば、青頭巾伝説の住職は欲に溺れたのです。

僧という高見に上ったような人でも、欲から抜け切ることは困難なのだということがわかります。

また、この作品には、少年愛の要素も入っています。

最初は少年を我が子のように愛していただけだったものが、積もり積もって性愛にまで行きついたのかもしれません。

少年愛と言えば、トーマス・マンの「ベニスに死す」を思い出す人も多いと思いますが、日本ではすでに伝説の中で少年への愛が描かれていたのです。

このように、青頭巾伝説は単なる郷土の怪談でなく、人とは何かということについても考えさせられるお話なのです。

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