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神話の舞台を現代ギリシャに訪ねる:酒と演劇の神ディオニュソスの聖地を各地に巡る

現在のディオニューソス劇場
現在のディオニューソス劇場(Славен Косановић撮影、原典

現代のギリシャを観光客として訪れた場合、「神話ゆかりの土地を回ってみたい!」と思い立ったら、どんな観光スポットがあるのか?

そのテーマを何回かに分けて紹介してきたこのシリーズですが、今回は少し変わったアプローチとなります。

土地にフォーカスするのではなく、神様のうちの一人、それも、酒と酩酊と演劇の神、ディオニュソスを扱ってみようと思います。

日本ではローマ名である「バッカス」のほうが、酒屋やらレストランやらの名前に使われることがあり、なじみ深い名前かもしれませんね。

お酒の神様と聞くと、陽気でひょうきんなキャラクターを想像するかもしれませんし、漫画や映画ではそのような描かれ方をする場合も多々あるのですが、実際にはこのディオニュソス、キャラクターとしてはなかなか掴みどころのない神様です。

どこか、闇の部分も感じさせる、といいますか。

善とか悪とかの基準では簡単には測れない、時に愛らしく時には恐ろしい存在。

「容姿が美しく物腰も爽やかなギリシャの神」というイメージからは、外れている存在に見えるのです。

ディオニュソスゆかりの地を訪れるなら、まずはアテネのディオニュソス劇場

現在のディオニューソス劇場
現在のディオニューソス劇場(Славен Косановић撮影、原典

まずはギリシャの旅先としても、ディオニュソスとの付き合い方としてもビギナー向け(!)のところから、ご紹介しましょう!

ギリシャに行って、まずは散策気分で行ける有名観光スポットとしては、首都アテネにそびえるアクロポリスがあります。

ここには有名なパルテノン神殿の他に、古代から遺る大きな野外円形劇場があります。

これが「ディオニュソス劇場」です。

古代においては、実際にここにアテネ市民たちが集まって、演劇を鑑賞していたといわれています。

演劇は祭儀の時のとても重要なイベントとされていたので、円形劇場に町の名士たちがずらりと集まっての演劇鑑賞の場というのは、さぞや盛況だったことでしょう。

ちなみに書店に出ている「ギリシャ悲劇」と名のつく本をどれか読んでいただけると分かるのですが、ギリシャ悲劇というのは現代人にはちょっと耐えられないところがあるくらい「えぐい」物語が多いです。

たとえば、王様にまで上り詰めた英雄なのに、最後には奥さん(というか実はお母さん)に自殺され、悲しみのあまり針で自分の目を潰して流浪の身にまで落ちてしまう、「オイディプス王」の話とか。

無慈悲な暴力とか、近親相関とか、肉親殺しとか、子殺しとか、「シャレにならない」重いテーマを扱うところに特徴があります。

そうした演劇を好んで鑑賞していたアテネ市民たちとは、どういう感受性で、どのような人生観を持っていたのでしょうか。

少なくとも当時の演劇というものは、現代の映画鑑賞などとは気合の入り方も尊重のされ方もまったく異なる、ハイカルチャーだったのではないでしょうか。

見終わった後に「俺はこう思う」「いや俺はこう感じた」とみんなが熱く議論をしながら帰宅する、そんな場だったのかもしれません。

ディオニュソス劇場はアクロポリス観光とセットで見学することができます。

アテネ市内の名所なので、ギリシャ滞在の初日のコースにはちょうどよい距離といえるでしょう。

問題はデロス島におけるディオニュソスの扱い!

バッカスの幼年時代 (ウィリアム・アドルフ・ブグロー)
バッカスの幼年時代 (ウィリアム・アドルフ・ブグロー)

ところが、ここまでは、あくまで「ディオニュソス初心者編」!

もっとディープな「ディオニュソスゆかりの地」が、現代ギリシャに残っています。

デロス島のディオニュソス聖域です。

デロス島という島自体、世界遺産にも登録されている名所で、神話ではアポロンとアルテミスがこの島で生まれたとされています。

そのアポロンやアルテミスの神殿跡も遺されている、神秘的な島なのですが、圧巻なのはむしろ、ここにあるディオニュソス聖域と呼ばれるエリアのほう。

ここの雰囲気の異色ぶりが、ただごとではないのです。

問題のディオニュソス神殿はギリシャの遺跡の中でも規格外!

デロス島、ライオンの回廊
デロス島、ライオンの回廊(原典

何がそんなに異色かというと、えぐい話にはなりますが、この「ディオニュソス聖域」と呼ばれる場所には、いわゆる男性性器をモチーフにした巨大な柱が並んで祀られているのですね。

「ギリシャの神殿」というと、おごそかな場所というイメージがあるのですが、この景観はそこから乖離していて、現代人には「ウッ」と生理的な衝撃があるのではないでしょうか。

古代ギリシャ人の感受性は、とうぜん我々とはずいぶん違っていたはずなので、これをみてあまりうろたえるのもおかしな話ではあるのですが、少なくとも初見の際の衝撃度は高いです。

でもどこかで、日本人にはなつかしさもあるのではないでしょうか。

日本の神道では、神社そのものが女性の母胎をイメージした構造になっているとされていたり、「奇祭」と呼ばれるようなお祭りでは、男性性器をモチーフにしたおみこしが登場したりしますよね。

その雰囲気に、なんとなく似ています。まさに、「奇景」。

もっとも、日本の地方の風習に、このような自然崇拝の形があるのは、「へえ、めずらしい!」と比較的スナオに受け止められるのですが、ギリシャのデロス島という場所で似たものに出会うと、そうとうな驚きがあるのではないでしょうか。

こういうあたり「どうもディオニュソスというのは、ただものとは思えない、他のギリシャの神々と違う気がする」と私が考える所以です。

ひょっとしたら、もっとアジアのほうの地域の、別の古代宗教の神様が継承されたものではないか、などと推測してしまいます。

他にもデロス島の考古学博物館へ行くと、ディオニュソスを描いたとされるモザイクや、ディオニュソスの像、および彼の師にあたるシレノスの像など、関連する出土品を見学することができます。

まさにディオニュソスづくし、「上級者向き」です!

最後に:ギリシャの白ワインについて

今回は少し異色の神様を扱った為、ちょっと不気味さも感じさせる場所の紹介になったかもしれません。

息抜きといってはなんですが、ディオニュソスの「陽気なお酒の神様」のイメージのほうに戻り、彼の領分である「ギリシャの伝統的なお酒」の話を少し、しましょう!

ギリシャにおけるお酒の神様ということは、当然「ワインの神様」です。

実際、ギリシャはワインの産地でもあり、フランスやイタリアの国際展開には負けてしまいますが、地元の名産ワインには良いものがたくさんあります。

個人的には、このカラリとした風土によく合う、白ワインのほうに銘酒が多い印象を持っています。

ここで紹介したいのが、「レチーナ」と呼ばれる、ギリシャ特有の白ワインです。

不思議なことに、マツヤニの香りがほのかにする、不思議な味わいのワインです。

ギリシャでは伝統的にこの「マツヤニの香りをあえて加えるワイン」というのが常道だったようで、レチーナはギリシャでは大衆向けのワインとしてよく目にします。

実は最近、日本のあるソムリエ講習のサイト上にて、このレチーナについて「はっきり言って異色のワインで現代人の舌にはあわない」というようなことが書いてあるのを見たことがあるのですが、失礼な!

ギリシャを知っている人にとっては、たまらない「なつかしい味」です!

そりゃ、ボルドーとかキャンティとかに比べれば洗練されていないのは確かですが。。。

ギリシャの伝統的な製法の名残をもつ、大衆ワイン、レチーナ。

ギリシャ滞在の際には一度、こちらも試してみてはいかがでしょう!

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