これまで、少年時代にギリシャに滞在していたことがあるライターが、その思い出に絡めつつ、ギリシャ神話ゆかりの地についての印象を何回かに分けて紹介してきました。
今回は少し番外編となりますが、コトバのほうからギリシャ神話に親しんでみましょう。
ともあれギリシャ語といってもいろんな方言や種類があり、そもそも古代に使われていたギリシャ語と現代のギリシャ語はぜんぜん違ってしまっているので、そうした歴史的変遷までをも含めて本格的に勉強しようとしても、これはかなり大変です。
かつ、よしんばギリシャ語をある程度話せるようになったとしても、現代ギリシャではホテルやタクシーの運転手は英語がそこそこできたりするので、実際にギリシャ語を使わなければいけない機会などというのもほとんどありません(ギリシャに仕事に行くとか、ギリシャ人と国際結婚するとかでもないと)。
ですが、古代ギリシャ人が使っていた「古典ギリシャ語」を面白本位の雑学程度にかじるというだけであれば、西欧の大学では講義で教えられていることもある言語のため、教材や無料辞書もサイト上でかなり手に入り、ある程度の独学が可能です。
神話好きな人なら、文字が読めるようになるだけでも、けっこう楽しいですよ!
そこで今回は、「ギリシャ神話の本ではカタカナ表記されている神様や英雄やモンスターの名前は、本当の古代ギリシャではどう読まれていたのか?」という実例をあげて、「古典ギリシャ語ってどんな言語?」という紹介とさせていただきたいと思います。
ウォーミングアップとして、まずはギリシャ語のアルファベットに触れてみよう!
現代英語は26文字ありますが、古典ギリシャ語はちょっと少なく、24個の文字から成立しています。
これらの文字自体は、現代のギリシャで使われている標準ギリシャ語とも同じです。
日本では東京の国立国会図書館の館内のレリーフに、このギリシャ文字が刻み込まれています。
「Η ΑΛΗΘΕΙΑ ΕΛΕΥΘΕΡΩΣΕΙ ΥΜΑΣ」
と書いてあります。
「真理が我らを自由にする」という意味です。
一見すると慣れない感じかもしれませんが、ΩとかΣは、物理学の単位や数学記号で現代でも使われているので、理系の方はそちらで目にする文字かもしれませんね。
「こんな不思議な古代文字のようなものが、現代ギリシャでも使われているの?」と思った方、ハイ、まさにこの文字が、町中にあふれているのが、現代ギリシャです!
道路標識も、雑誌の表紙も、映画館にかかっているハリウッド映画のタイトルも、すべてがこのようなギリシャ語アルファベットで書かれているので、子供の頃、初めて父に手を引かれてアテネ市内を散歩したときは、「ああ本当に異国にきたんだな」と感動したことを覚えています。
ただし、古代ギリシャ語と現代ギリシャ語とでは、文字表記が同じでも読み方が違う、というややこしいことが起こっています。
日本語でも「あいうえお」の五十音のひらがなは随分昔から成立していますが、平安時代の読み方と現代の読み方では細かいところでいろいろ違いますよね。
「てふてふ」と書いて「ちょうちょう」と読ませていたとか。それと似ています。
神様の名前はどんなふうに読み書きするの?

ともあれ、古典ギリシャ語の発音を確認してみましょう。
まずはギリシャ神話の有名な神様たちの名前が、実際の「古代ギリシャネイティヴ」たちにはどう呼ばれていたのかから!
- Ζεύς:ゼウスです。これはほとんど日本語表記のまま「ぜうす」と読んでOKです!
- Ἥρα:その妻、ヘラです。抑揚を伸ばして、「へーらー」と読みます。
- Ποσειδῶν:ポセイドンです。アクセントを最後の「オン」の音に入れて、「ぽせいどーん」と読みます。ついでながら頭にある「Π」は円周率で使われる「パイ(π)の大文字版です。
- Ἀφροδίτη:なんだか珍しい文字ばかりが並んでいるようで仰々しく見えますが、英語表記にあてはめれば、A・F・R・O・D・I・T・E、美の女神アフロディテです。これまた後半の抑揚を伸ばし気味にして、「あふろでぃーてー」と読みます。
- Ἀθηνᾶ:アテナです。抑揚をもったいつけて、「アテーナー」と伸ばして読むので、日本語で「アテナ様!」とメリハリをつけて呼びたくなるのとは、ちょっと印象が違うかも、です。
いかがでしょうか?
気になったものがあった場合は、FORVOというサイトへ入っていただき、「古典ギリシャ語」を選んでから、上記のギリシャ語表記をコピペ入力して検索していただけると、世界中のボランティアが吹き込んだサンプル発音を聴くことができます。
古典ギリシャ語の「ネイティブスピーカー」というものは存在しないのですから、ここにあがっているボランティアたちのサンプル吹き込みをどこまで「本物」と信じるかの問題はありますが・・・。
英雄やモンスターの名前はどんな感じ?

有名な英雄たちの名前も見てみましょうか。
- Ὀδυσσεύς:オデッセウスです。小さい「ゅ」をかなり強めに言う「おでゅっせうす」という感じ。
- Ἀνδρομέδα:アンドロメダですね。「あんどろめだー」と最後が伸びます。この「語の後半が伸びる」感じがいかにもギリシャ語な語感です。
- Θησεύς:テセウスです。「てーせうす」と、前半のほうでタメる感じが格好いいです。
- Ηρακλής:ヘラクレスですね。後半を「へらくれーす」と伸ばす感じです。余談ですがヘラクレスは英語圏では「ハーキュリーズ」と呼ばれています。古代ギリシャ語読みより英語読みのほうが、なんだか別人のようになってしまう典型の一人です。
みんな大好きな有名モンスターたちもやってみましょう!
- Ὕδρα:これはヒュドラです。「ひゅどらー」とこれまた後半を伸ばします。
- Μινώταυρος:ミノタウロスです。「みのーぉたうろす」みたいに、真ん中にアクセントがあるのが特徴です。
- Κύκλωψ:一つ目巨人、キュクロプスです。「きゅくろーぷす」と途中が伸びます。最後の「ぷす」は一音のように、「プスッ」と一息で発音しましょう。ちなみに同じ怪物を示すコトバで「サイクロプス」という呼称もありますが、こちらは英語名ですので、混同しないようにしましょう!
いかがでしたでしょうか?
もし好きなキャラクターやモンスターの名前があったら、上記の表記をぜひ検索に使って、先に紹介したFORVOを含め、関連サイトに行って実際の発音を聞いてみていただければと思います!
というわけで、ちょっと珍しい、古典ギリシャ語のご紹介でした!
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