【神話小説】七福神のお正月 ー神さまもガチャはほどほどにー

七福神(月岡芳年、1882年)
七福神(月岡芳年、1882年)

時は2021年1月。令和という年号も3年目に突入し、多くの神々が宿る極東の国は今後ますます発展する予定だった。

とにかくこの国の「形ない物に気を寄せる」という習慣には目を見張るものがある。その最たる季節は正月だ。国民の半分は、どんな神が祭られているか知りもしないで寺や神社に詣でに行く。そして祈る。「正月は初詣をしないと落ち着かない」という者がほとんどだ。

我々からすれば、神のことを知りもしないで、一年に一度だけその辺の寺か神社で参拝し、「〇〇ちゃんと結婚できますように」なんて願われても、「は?」としか思わない。

賽銭を投げ込むのは結構だが、住職や坊主が愛人にマンションを買うために使われるだけで、我々には一銭も入ってこない。

そんな状況にも関わらず、都道府県中の神社仏閣に宿る神々は、シャンシャンと大きな鈴を鳴らされるたびに出ていって、一応願いを聞くだけ聞いているのだ。なんと涙ぐましい行為だろう。これこそ無償の愛とやらだ。神だって誰かに褒めてもらいたい時もある。

しかし2021年1月は違った。世界中で感染症が流行り、多くの人間が死んだ。日本国も例外ではない。

空気感染する病原菌から身を守るため、密を避ける行動が徹底された。様々なイベント、コンサート等も中止となった。聞き分けが良い人民が多いこの国では、一部の人間を除いてそれを固く守った。

すると、当然初詣に来る人間も少なくなった。どの神々も年末年始は多忙を極めていたが、今年は例年の半分以下の参拝客しか集まらず、思わず唖然とするほどだった。

忙しい時はあれだけ文句を言っていたが、居なければ居ないで寂しいものだ。シャンシャンとなる鈴の音も、小銭ばかりの賽銭も、今年はとても物足りない。例年は忙しい忙しいと文句ばかり垂れていたが、こんな事態は有史以来初めてだったので、物寂しいと感じるのだった。

「……そんなわけで、今年はゆったり過ごしましょう」

「そうですなあ。こんな機会はめったにないわけですし」

そう語るのは七福神の寿老人(じゅろうじん)と福禄寿(ふくろくじゅ)だ。彼らは正月を代表する神々と言っても過言ではない。

七福神とは、財宝、開運の神とされる大黒天(だいこくてん)、邪鬼を払う毘沙門天(びしゃもんてん)、漁業の神恵比寿天(えびすてん)、長寿の神寿老人(じゅろうじん)、招得人望の福禄寿(ふくろくじゅ)、芸能の神で唯一の女性である弁財天(べんざいてん)、夫婦円満、子宝の神の布袋尊(ほていそん)がいる。

この七神を信仰すると七つの災難が除かれ、七つの幸福が授かるといわれており、七神を載せた宝船を神棚に飾る家は珍しくない。そんな彼らも今年は出番が少なく、座敷でゆったりと炬燵に入り、蜜柑を一房ずつ噛みしめていた。

「正月に暇だった試しがないので、どう過ごせばいいのか……」

「確かに……特番も見飽きてしまったしなあ」

「こんな事なら豪勢なおせちでも買っておくんじゃった」

「今更大掃除する気にもならんし……はあ……」

2人が何度目かのため息をついていると、先ほどから妙に静かだった布袋尊が「ぃよっしゃぁあ!」と声をあげた。

「な、なんじゃ。驚いた」

「布袋尊、先ほどから小さな液晶画面を一心不乱に見ているようじゃが、何をしてるんじゃ」

質問する二人に対し、布袋尊は息巻く。

「どうしたもこうしたも、福袋ガチャでレアキャラが当たったんじゃよ!」

「福袋我茶(ガチャ)で霊亜伽羅(レアキャラ)?」

「ええぃなんじゃその摩訶不思議なルビは。これじゃよこれ、今下界で大流行のスマホゲームというヤツじゃ!」

布袋尊は小さな液晶を二人に突きつける。画面には【ゴッド★コレクト】という文字が踊っていた。寿老人は老眼用眼鏡をかけ直し、題字を読む。

「スマホゲームと言われても……儂は下界の流行りにはついていけん」

「寿老人よ、儂もそう思っていたが、あまりにも暇でな。何か面白いことはないかと思い試しに初めてみたのだが、これが中々楽しいのじゃ。よい暇つぶしになるぞ」

「よい暇つぶしとな?」

福禄寿が反応し、彼も眼鏡をかけ直した。どうやら話を詳しく聞きたいらしい。布袋尊は誇らしげに答えた。

「要約すると、この【ゴッド★コレクト】は、様々な神を集めてパーティーを組み、世界を救うというゲームじゃ。神はゲームを進めていくと貯まるポイントを利用して、召喚するとゲットすることができる。召喚には運要素が強く、強い神はレアリティが高いので、何度も召喚をする必要がある。ポイントは無くなるが、ゲットできた時の喜びは大変大きいのじゃ」

「ほほう。神をゲットするとは」

「例えば、ホレ」

布袋尊は福禄寿にスマホを向けた。画面には金髪の美女がふわふわと浮いている。

「この女子(おなご)は?」

「先ほどゲットしたギリシャ神話に出てくる神、ビーナス様じゃ。レア度は最高ランクの5じゃよ」

「ほほー! だが、美しすぎやしないか? 新年会で一度お目にかかった事はあるが、こんなにナイスバディーではなかったぞ」

「ああ。本人も『金髪のイメージに飽きちゃって、200年前からドレッドヘアーにしてるの』と言うておったしな」

「下界の民はそんな裏事情は知らん。だからこそ楽しいのじゃ」

布袋尊は少し何かを遠くをみるような目で言った。

「確かに、このゲームのキャラクター達は神々より神々しいのう……」

布袋尊の集めたキャラクターの一覧を見ながら、失礼なことをいう福禄寿。ビーナス以上に美しいビーナスのキャラクターをタッチすると、金髪の美女は胸を揺らしながらメッセージを発した。

『月に代わって成敗するわ♪』

「おお、喋ったぞ」

寿老人が驚く。

「そうじゃ。神話に由来する内容を話すぞ。レア度が増せば増すほど話す内容が濃くなるぞ」

布袋尊は画面を数度タッチすると、ビーナスは様々なモーションと合わせて可愛らしい声を発した。

「なるほど、それはコレクション魂をくすぐるのう」

「ゲームを進めたくなるわけじゃ」

「ささ、寿老人と福禄寿も初めてみなされ。最初は無料で10回ガチャが引けますぞ」

布袋尊の誘いにいささか興味を持った寿老人と福禄寿は、暇なのも手伝って早速ゲームをダウンロードした。起動するとオープニングが始まる。簡単なあらすじ紹介とチュートリアルが終わった後、早速ガチャを引く画面に突入した。寿老人と福禄寿は少しずつ興味を持ち始める。

「新年一発目の運試しじゃな」

「うむ。どうせならレアキャラを狙いたいのう」

「まずは儂からいかせてもらおう、南無三!」

寿老人がボタンを押すと、画面が光り輝き、くるくると回り始めた。その後金色に輝くカードのようなものが画面中央に出現し、そこから人影が登場した。

『–こんにちは、私は衣通姫(ソトオリヒメ)。和歌の神ですわ。どんな歌でもおまかせください』

「おおー! 衣通姫殿じゃ!」

「やっぱ美化されとるのう!」

衣通姫(ソトオリヒメ)とは日本神話に出てくる女性の神だ。現在の和歌山県、福島県に社がある。七福人にとっては旧知の仲なので、出現した途端盛り上がった。テレビに知人が出てきたような感覚だ。

「まさか衣通姫殿が出てくるとは……このゲーム、かなりの神を網羅しておるな」

「ふむ、だがレアリティは低いようじゃな」

寿老人と福禄寿がやんや言う中、先輩風を吹かせる布袋尊。

「衣通姫殿は知名度もあまりないし、性質が戦闘向きではないからのう。残念ながらレア度は最低ランクじゃ」

「なるほどな……待てよ、衣通姫殿がいるなら、我々もいるのでは?」

「そうじゃそうじゃ、我々もいるはずじゃ! どれだけ美化されておるか楽しみじゃのう。どれどれ……」

寿老人と福禄寿が盛り上がる中、布袋尊は寂しげに笑った。

「–残念ながら、我々はおらぬ……知名度がないからな……」

「そんな……」

「だが……衣通姫殿は……」

「衣通姫殿は知名度はそこまでだが、女性なのでニーズ的には上なのだ」

「なんと……男女差別じゃ……」

「我々のような爺さんは勝てないのか……」

「まあ、そうがっかりするでない。他の七福人は登場しておるぞ。毘沙門天や弁財天は中々のレア度じゃ」

「それはそれで腹が立つのう」

「今年の目標は七福人の知名度格差の是正じゃな」

寿老人が新年の抱負を決めたところで、福禄寿がスマホを取り出した。

「どれ、今度は儂がガチャを回そう。ポチっとな」

寿老人がボタンを押すと、再度画面が光り輝き、くるくると回り始めた。その後金色に輝くカードが画面中央に出現し、そこに人影が登場する。

『–やっほー! アタシは大黒天(だいこくてん)。あなたにたくさんの金銀財宝、届けちゃうゾ★』

「大黒天がwwww 美少女にwwwww」

「あんなに腹の出た脂肪肝のオッサンが美少女にwww なぜwww」

大黒天が出た瞬間、思わずネットスラングが出るほど報復絶倒する寿老人と福禄寿。大笑いは十数分続いた。

「面白かった……まさかの初笑いが大黒天の美少女化とは」

「大黒天の知名度は高いが、原作そのままのフォルムでは人気が出ないので美少女にしたんじゃな。この手のゲームではよくあるテコ入れじゃ」

布袋尊が腹筋をさすりながら答える。

「弁財天にも教えてやろう。あやつも腹を抱えて笑うぞ」

「そうじゃな。ラインしておくわ」

ひとしきり笑った3人は、大黒天の必殺技『プリティ★財宝ザクザク★ボンバー』のモーションを見て、再度畳の底が抜ける程笑った。

「–はあ、はあ、これ以上、大黒天に触れるのはやめよう」

「そうじゃな。もはや命にかかわる程笑っておる」

「それにしても、このガチャとやらは面白いのう。中々ストーリーに進めん」

「その気持ちは重々にわかるぞ。欲しいキャラを引き当てるのに夢中になって、ついストーリーや育成を疎かにしてしまうんじゃ。儂もビーナス殿を引くまでどれだけの金額を費やしたか……」

布袋尊の発言に、福禄寿は戦々恐々と呟いた。

「ガチャ……おそろしい文化じゃのう……」

「下界の人間がハマる理由がわかるわ……」

すると、寿老人が何かに気づいた。

「お、儂はこのキャラが気になるぞ。牛に乗り、キラキラと輝いている英雄じゃ」

「ん? ああ、そのキャラはシヴァ神じゃ。かなりのレアキャラじゃぞ」

シヴァ神。ヒンドゥ教ーの最高神のひとりで、牛に乗っている姿が有名。インドでは牛は神様の乗り物として尊敬されている。

「今年の干支が牛じゃから、それに因んで召喚可能になったんじゃ。シヴァ神は有名じゃし、逸話的にもかなり強いから、皆が狙っておる。シヴァ神がゲットできたら、かなりの人気者になれるぞ」

布袋尊が説明を始めると、寿老人はわなわなと震え始めた。

「儂……ほしい……シヴァ神、ほしい……」

「諦めよ。ガチャは欲しいと思ったキャラクターは来ぬ。特にシヴァ神はその強さゆえ、レア中のレア、激レアとして設定されておる。ゲットできたものは数えるほどしかおらん」

布袋尊が達観した目で悟した。

「布袋尊、その台詞が寿老人に更に火をつけるのでは?」

福禄寿が指摘した通り、寿老人はもうシヴァ神しか目に入っていなかった。震える手でスマホのボタンを押すが、なぜかガチャが引けない。

「むむ、故障してしまったか?」

「そうではない。ガチャを引くためのポイントが足りなくなってしまったのだ」

「むむむ、それなれば、ポイントはどうやって貯めることができるんじゃ?」

「ストーリーを進めるのが一番だが、手っ取り早い方法はコレじゃ」

布袋尊は胸の前で右手を胸の前にあげ、親指と人差し指を合わせ、輪っかを作ってみせる。

「説法印(せっぽういん)……なるほど、釈迦の心か!」

「違う違う、コレじゃ。マネーじゃ」

ちなみに説法印とは、釈迦が弟子に説法をする時の姿を表している。

「マネーさえあればガチャが回せるんじゃな? それなら簡単じゃ! 待っておれ、早速近場の寺社仏閣に……」

「寿老人、よもや賽銭を拝借するつもりではないだろうな……って、おい!」

炬燵から抜け出した寿老人を呼び止める福禄寿。だが寿老人は「ちょっとだけなら大丈夫じゃ!」と走り去ってしまった。

――数時間後。

寿老人は大量の使用済みアイチューンズカードの海原で大の字になっていた。

「出ぬっ………!!」

「だから言うたじゃろうが。シヴァ神は超激レアだと」

布袋尊は蜜柑を剥きながら遠い目をしていた。

「なぜここまで運が悪いのじゃ……儂は七福神が1人、長寿という幸運を司る寿老人じゃぞ……!」

「賽銭泥棒が何を言うか。そんな汚れた金では召喚できるはずも無かろう」

「じゃが、同じ激レアのゼウス殿はもう3枚も来たぞ……」

「あの人は……強いが、爛(ただ)れた逸話も多いし、細かいことは気にせんのじゃないか……?」

福禄寿がフォローにならないフォローをするが、寿老人は諦めきれないようだ。

「いやじゃ~シヴァ神が出るまで引くんじゃ~けど、儂の薄汚れた手では無理じゃ……もっと徳の高い、シヴァ神を引くにふさわしい神の力を借りて召喚すれば……はっ、そうじゃ!」

寿老人は再び立ち上がり、襖(ふすま)を破れんばかりの力で勢いよく開き、全力疾走し始めた。そして10分後には、何やら可愛らしい二頭身の生物(?)を抱えて返ってきた。

布袋尊と福禄寿は首を傾げる。

「寿老人……その、魚とも鳥とも取れない不思議な生物は一体……?」

「見たことが無いとはいわせんぞ、疫病の大流行で日の目を浴びた、日本国の妖怪アマビエ殿じゃ!」

「キュ、キュゥー?!」

アマビエ。江戸時代後期に登場したとされる妖怪。アマビエの姿を書き写した絵を人々に見せると、疫病が治ると言われている。

「いま日本国で一番徳の高い生物といえばこの者しかおるまい。アマビエ殿の指を借りればシヴァ神など一発で召喚可能……! いざ、まいる!」

「キュゥ、キュウーーー!!」

「寿老人……見損なったぞ……そこまでして……」

「お主……来年から七福神の座から降格するぞ……」

布袋尊と福禄寿のドン引きを尻目に、嫌がるアマビエの右手を掴み、スマホの画面に押し付ける寿老人。

すると画面は金色に輝き、いわゆる確定演出(必ず超レアキャラが出る状態)の状態に入った。

「ぃよっしゃぁあーー! シヴァ神キターー!」

興奮しすぎて口調が乱れる寿老人の声が響く。辺りには神々しい輝きが満ち、風とともにスモークが立ち込めた。布袋尊と福禄寿はあんぐりと口を開く。

「なんじゃこの光景は……ガチャ演出が具現化しておるだと……?」

「まさか、アマビエ殿の徳が高すぎて、超超超レアキャラを引き当ててしまったのでは……?」

七福神の髪や着物が靡(なび)き、軽い物は吹き飛んでゆく。すると、光源に揺らめく人影が見えた。寿老人は思わず叫ぶ。

「お、ぉお……シヴァ神じゃ…‥‥儂はやっとシヴァ神を引き当てた……!!」

〖……いかにも、俺の名はシヴァ。破壊と畏怖の至高神にして、唯一無二の存在だ〗

「きゃー! カッコいいーー! 儂も人生で一度はそんな発言してみたいー!」

年甲斐もなくぴょんぴょんと跳ねる寿老人は、お目当てのレアキャラをゲットでき最高に舞い上がっていた。布袋尊と福禄寿は未だに事態が呑み込めていない。

そんな時、布袋尊が何かに気づいた。

「待てよ……これはゲームのキャラではなく、本物のシヴァ神ではないか……?」

『–そうっす』

具現化したキャラクターだと思っていたシヴァ神が口を開いた。

『–あの、変な奇跡で呼ばれたけど、年甲斐もなくゲームにハマに過ぎるのは良くないっすよ……俺もそんなに暇じゃないので、今後は気を付けて欲しいっす……』

「…………はい」

『あと、寿老人さん、仮にも神っすから、お賽銭に手をつけちゃ駄目っす……反省してくださいね……』

「…………返す言葉もございません」

軽く頭を下げて消えたシヴァ神。残されたのは、若者に正論で論破された老人と、それを冷ややかな目で見つめる老人×2、プラス無理やり連れてこられた妖怪だけだった。

–こうして、七福神達の虚しい正月は終わった。

来年こそは忙しい年末年始が来ることを祈るばかりである。

END

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