密儀の神々 – 古代ローマ・古代ギリシアで栄えた異神への信仰とその起源

ローマのミトラス
ローマのミトラス(Serge Ottaviani

西方世界の宗教といえば、どういったイメージをお持ちでしょうか。

今や世界的な宗教となっているキリスト教は、古代オリエント世界に起源を持つ一神教です。多くの迫害を経た末にミラノ勅命を以てローマ国家に認められましたが、それ以前はギリシアの神々と習合したローマ古来の神々が数多く信仰されていました。これらは一神教に対して「多神教世界」です。

例を挙げればユピテル(ゼウス)やマルス(アレス)、ヴィーナス(アフロディーテー)。固有であり古いものであればクィリーヌスなど、ギリシア・ローマ神話に語られる多くの神々がキリスト教以前に信仰されていたのです。

しかし面白いことに、実はそういった神々以外にも、異郷から到来した神々がヨーロッパ社会の中で崇拝され、人気を博していたという歴史があります。そこで今回はタイトルにある「密儀」、そしてどういった神々が崇拝されていたのかなどについて紹介していきたいと思います。

「密儀」とは

まずタイトルに含まれている「密儀」という言葉に関して軽く触れておきましょう。

密儀というのは一言で表現するなら「秘儀」、即ち秘密の宗教のような意味合いを持っています。別の言い方をするなら、「国家と結びつくオープンな祭儀、宗教」ではなく「個人で入信し、儀式に参加して救済に至る宗教」とも言えるでしょう。

こういった宗教は古代オリエント世界に多く見られ、アレキサンドロス大王の死後より始まったヘレニズム時代やアウグストゥス帝の即位に端を発するローマ帝国の成立などを経て西方に広まっていったとされています。また、ギリシア土着の神の中でもそういった密儀的な儀礼を持つ神も存在していました。

密儀の神々

ここからは古代オリエント世界からローマへと到来した密儀とその代表的な神々を紹介していきます。後半ではローマではなくギリシア土着の密儀にも触れたいと思います。

密儀の神々1:イシス

女神イシス(紀元前1360年頃の壁画)

古代ローマで信仰された外来の女神の中で、代表的な一柱として挙げられるのがイシス女神です。元々はエジプト神話の古い女神であり、エジプトの先王朝時代(紀元前5000~紀元前3100年)から崇拝されていました。

この女神はヘレニズム時代が始まった古代エジプトのプトレマイオス朝によって採用され、王がオシリス、王妃がイシス、王子がホルスであるとする三位一体の神学が重要視されていました。

イシスは冥界神オシリスの再生神話において重要な役割を担う大地母神ですが、都市エレシウスの守護女神であるデメテルや他の異国の女神であるアテナやアフロディーテー、またヘカテ等と習合ないし同一視されていったとも伝えられています。

大哲学者プラトンはプルタルコスの著作の中において、「イシスは偉大な女性の生殖力であり、事物の精髄である」とも言及しています。

この女神の崇拝は西アジアからヨーロッパへと流れ、遂にはキリスト教にも接近していきました。聖処女(処女のまま神の子を身籠ったマリア)の持つ属性の一つである「無原罪聖母」、即ち「神の母(マテル・ドミナ)」はこのイシス女神の影響を受けています。

なお「無原罪聖母」というのは、聖母マリアが原罪による穢れを背負っていなかったとする教義あり、「神の母(マテル・ドミナ)」というのは聖母マリアに対する称号になります。

『金枝篇』の著者として有名な文化人類学者のJ・G・フレイザーは「剃髪の祭司、朝禱と晩禱、りんりんと鳴り渡る音楽、洗礼と聖水撒布、厳粛な行列、宝石をちりばめた“神の母”の像などからなる彼女の荘厳な儀礼は、カトリック教の外観と儀礼に多くの類似点をもっている。」と言及しています。

とりわけ聖母崇敬はキリスト教以前の大地母神信仰を土台としており、ローマで信仰されていたイシスの影響も考えられます。イエスを抱くマリアの原型をこのイシス女神の図像に求める事もあります。

豊穣神としての性質を帯びるイシスですが、この女神の崇拝はエジプト人の商人によってもたらされます。エジプトの神々はプトレマイオス朝の勢力圏内だった東地中海域の島々などに流れていき、そこでは航海、水夫の守護神「海の星(ステツラ・マリス)」としても信仰されました。

補足:ステツラ・マリスとは

「海の星」を意味する女神に対する添え名であり、イシス以外にもアフロディーテやヴィーナスといった女神に対しても扱われている。また、聖母マリアの称号としても使われる事がある。

イシス崇拝は後述する古代ギリシアのエレシウスの秘儀と同じく、秘儀的な性質を帯びています。多くの宗派では、儀式の内容までは秘密になっている事が多いですが、この宗派の場合は密儀の内容を書き残した著作が残されており、それがアプレイウスの「黄金のろば」とされています。

この物語においては、好奇心からロバに変えられた主人公ルキウスを再び人間に戻す役割としてイシスが登場していたりもします。

ローマ帝政期のイシスのようなエジプト起源の宗教では、春と秋の二回に渡って大祭が開催されており、そこには一般の人々も参加していました。故にある種公的な性質を帯びていましたが、熱心な者に対しては秘密の儀礼が授けられたとされています。

その内容は、水による清めの儀礼や禁欲を徹底する10日間の準備期間を経て行われ、曰く入信者は天界と冥界を旅したり、秘蔵の神像を見せられ、オシリスの神話に倣って仮死状態に至り、最後に新たなオシリスとして再び現れる、というものであったといいます。

密儀の神々2:キュベレとアッティス

キュベレー像(原典

イシスと同じく大地母神としての性質を帯び、小アジア起源でありながらギリシア・ローマ神話に組み込まれ、密儀の神としても崇拝されたのがキュベレです。

図像的には猛獣を傍らに従えているもの、また猛獣に曳かれた戦車に乗っているものなどが存在しています。女神がこういった姿で表現されるのは現在のトルコ中南部のチャタル・ホユックという遺跡から発掘された土偶(紀元前6000年頃)にも見出す事が出来ます。

この女神の崇拝は紀元前6世紀以降にギリシア人の世界に伝えられ、古代ギリシア世界ではデメテルやレアーといった女神と同一視されました。

キュベレの夫としてアッティスという男神が配置されていますが、最初からペアだった訳では無く、後世にアナトリア(現在のトルコ近辺)の宗教に導入され、キュベレと共に同じ神話体系に組み込まれたとされています。

キュベレはローマにオリエント起源の神々が導入された際に到来しました。第二次ポエニ戦争(紀元前219年~紀元前201年)の後に貧富の差から混乱が起こり、ローマ古来・ギリシア伝来の宗教を信仰する事が無くなった為、オリエント起源の神々と一緒に到来したのです。

この場合のキュベレは「シビュラの予言書」に基き、国家の行事として導入されたため、ある種公式に到来したものであるとも考えられます。

補足:シビュラの予言書とは

古代地中海世界において、神の言葉を人間に伝える巫女であったシビュラの神託を纏めたとされる書物、また詩集。

この二神の神話を簡単に説明しましょう。

キュベレは若く美しいアッティスに惚れ込み、彼を自分の神官に任命し純潔を誓わせます。しかしアッティスは妻を娶った為にその誓いを破ってしまいました。

これに怒ったキュベレがアッティスを狂乱状態に陥れ、彼は自分自身を切り刻んでしまいます。

彼が正気を取り戻して自殺しようとした時、キュベレは彼を樅(もみ)の木に変えました。また、アッティスはこの際に自ら去勢したという伝承も残されています。

別の伝承では彼がゼウス(ユピテル)の嫉妬を買い、猪を向けられて死ぬというもの、また松の木の姿に生まれ変わったというものもあります。

余談ですが、アトラスのゲーム「ペルソナ」シリーズでもアッティスが登場しており、この作品では松の木の伝承を採用していますね。

キュベレとアッティスの崇拝様式は、同じく東方由来のディオニュソス(ローマ神名バッカス)と似た性質を持っています。音楽や集団的狂乱、宗教的恍惚感を伴うものですが、男性信者がその密儀の中で完全に去勢するという特質を持っています。

この行為は上述したキュベレとアッティスという二神に対する神話、及び後述する神学の影響が考えられています。

「哲人皇帝」と呼ばれるユリアヌス曰く、キュベレは全生命の女主人であり、あらゆる生命の原因者であり、アッティスはその下の生命界の創造者(デミウルゴス)とされています。

また哲学者ポルフュリウスはアッティスの自己去勢を物質界の増大の防止を意味していると説き、地上での生成の停止、として霊魂を天界へと昇華させることを司っていると言及しています。

アッティスはかのキリストに先立つ「死と再生の神」であり、同じく女神とペアを成すバビロニアのタンムズやギリシアのアドニス等の系譜であるとも言えますね。

密儀の神3:ミトラス

牡牛を屠るミトラス神と2人の脇侍神カウテス、カウトパテス。ルーヴル美術館ランス別館所蔵。(Serge Ottaviani

外部から古代ローマへ到来した神として有名なのがミトラスです。

この神は起源を古代インドやイランに持ち、インド神話ではミトラ、イランのゾロアスター教ではミスラの名で信仰されました。

古代ローマではミトラという名で知られますが、古代ローマ人にはギリシア語も知られていたため、ギリシア語形のミトラスという名でも呼称されます。そのため、この神を崇拝する密儀宗教は一般的にミトラ教、またミトラス教と呼ばれています。

この項では前半で古代インド・イランのミトラやミスラに対する概説をし、後半はギリシア・ローマにおけるミトラス(ミトラ)について紹介します。

古代インドやイランなど、インド・ヨーロッパ語族(東はインドから西はヨーロッパまで広く分布する言語族)の神であるミトラ(ミスラ)は、太陽神や契約神としての性質を持ちます。バラモン教の聖典である『リグ・ヴェーダ』においては天空神ヴァルナと併称され「ミトラ・ヴァルナ」として賛歌が捧げられています。

「天則の守護者よ、その規範の必ず実現する〔両神〕よ、汝らは最高天において車に上る、ミトラ・ヴァルナよ、汝らがここに支援する者のため、雨は天の蜜〔液〕をみなぎらす。」(ミトラとヴァルナの歌(一))

このように、高位の神格として信仰されていた事が伺えます。

この二神は千の柱や千の扉のある館に住むともされており、神々と人間世界の秩序を維持する為の統治者のように描かれているという特徴があります。

イランのミスラの場合は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』の一部分「第十ヤシュト」の中で賛歌が捧げられており、主神アフラ・マズダ―と信仰という面で対立しました。

次にギリシャ・ローマにおいては、ミトラスは非常に面白い習合をしています。

トルコのネムルト山の神像群には「アポロン・ミトラス・ヘリオス・ヘルメース」という、四柱もの神々が習合した神名が記されています。

アポロンやヘリオスという神と習合されている事から、ミトラスは太陽神として認識されていた事が分かります。しかし唯一ヘルメスだけは太陽とは関係なく、商人の守護神、錬金術などの多様な性質を持つ神と習合されているのです。

これは古代ペルシア人がミトラス(ミスラ)に対応させた惑星が水星であり、同時に霊魂の案内者(プシューコ・ポンポス)としての役割を想定した事に起因しています。ヘルメスのローマ神名であるメルクリウスは英名でマーキュリー、つまり水星の名になっており、同時に神話に於いても霊魂を冥界へと誘う役割を担うため、こういった性質の類似から習合が興ったと考えられます。

ミトラス教は紀元前1世紀頃にキリキア(トルコ南部の地中海に面した地域)の海賊の宗教として現れ、紀元後1世紀にはローマ各地で知られる密儀宗教としてのミトラス教が浸透していきます。

密儀宗教としてのミトラス教の教義は「牡牛を殺すミトラス」による救済が定義されています。

この密儀の教団は男性信者のみで構成されており、上から「父」「太陽の使者」「ペルシア人」「獅子」「兵士」「花嫁」「烏」という七つの位階のどれかに所属させられます。当初は社会的地位の低い人々が多かったようですが、時代が経るにつれて将校や貴族といった人々も入信し、果てには皇帝の目に留まるようになっていきました。

ミトラス教では儀式として牛屠りが行われており、彼らの神話に則り豊穣を主題とする牛の供犠が神殿内で執り行われていました。

彼らの持つ神話的要素は残存する神殿の碑文等に残されています。その資料曰く、ミトラス教の神話体系は一種の神統記(神々の誕生の系譜などを語る物語)だったと考えられており、旧約聖書の「創世記」に相当する物語とされています。ギリシア神話の神統記であればヘシオドスの著の『神統記』がその代表例ですね。

大まかなエピソードは下記の通りです。

まず原初の混沌(カオス)からサトゥルヌス(クロノス)の時代が到来し天地が創造されます。次の時代はユピテル(ゼウス)が支配し、その次の時代がミトラスの時代とされ、天蓋たる岩盤から生まれます。この時代は恩恵に充ち、泉を湧き出させたり果実を実らせたりしつつ弓矢で武装し、世界に豊穣を齎すべくミトラスが天の牡牛を供犠に捧げます。

この聖なる供犠は洞窟内で行われます。その空間は宇宙を象徴しており、図像には太陽や月、七大惑星、黄道十二宮が描かれており、ミトラスが牛を供儀に捧げる瞬間を表しています。

ミトラスの密儀は民間の宗教として人気を博しましたが、最終的には紀元後4世紀頃には姿を消してしまいました。

しかし他宗教に与えた影響もあり、一説ではキリスト教のクリスマス(降誕祭)はこの太陽神ミトラスの誕生日を吸収したものと考えられています。

なおミトラス教の図像として、獅子の頭と人間の身体を持ち、蛇を纏っている怪神が存在していますが、この神についてはゾロアスター教における悪神アンラ・マンユ、また創造神であるズルヴァーン(時間)等、様々な説があります。

土着の密儀

これまでは古代オリエント世界からローマへと到来した密儀とその神々を紹介して来ました。ここでは古代ギリシア土着の密儀について触れたいと思います。

土着の密儀1:エレシウスの秘儀

エレウシスの遺跡(原典

古代ギリシア土着の密儀として挙げられるのが「エレシウスの秘儀」です。

エレシウスというのはアテネ付近の古代ギリシアの地名です。信者が儀礼を行う建造物はテレステリオンと呼ばれます。

この密儀宗教の崇拝対象は、ギリシア神話における豊穣・穀物神であるデメテルと、その娘で冥界の女王であり死と再生の神でもあるペルセフォネです。

この密儀の神話を簡単に解説しましょう。

ある日、花を摘んでいたペルセフォネは、冥界の王であるハデスに連れ去られます。

母デメテルはペルセフォネを探すため神々の住むオリュンポスを離れ、9日間放浪した末にエレシウスに辿り着きます。

その地の王は老女の姿となったデメテルを自らの子の養育係としますが、しばらくするとデメテルは正体を現し、エレシウスの地に自らの聖所を建てるように告げます。ペルセフォネの誘拐にゼウスが加担していたことを知ったデメテルは、怒って神々のもとに帰らず聖所にこもりました。

穀物の女神が姿を隠したため、世界は常時冬枯れの状態になってしまい、ゼウスはヘルメスに命じてペルセフォネを天上に連れ戻すことにします。

それ以来ペルセフォネは一年のうち冬季を含む三分の二を天上で過ごし、残りの三分の一は冥界の女王としてハデスと過ごすことになります。

そして自然は回復し、同時にデメテルはエレシウスの人々に秘儀を授けるのです。

ギリシア神話の中ではかなり有名なエピソードです。

ちなみにペルセフォネは地上に戻る前に、ハデスによって死者の国の食べ物であるザクロの実を食べさせられ、それが原因で三分の一を冥界で過ごす事になります。「死者の国のものを食べたことが原因で死の国に至ることになる」というのは日本のイザナミの説話にも共通し、神話の類型として挙げられます。

この密儀は毎年9月の14日に始まり、9日間に渡って行われます。この9日間はデメテルがペルセフォネを探し求めた放浪の日々を意味しています。

古代ギリシアでは密儀への参加者を求めて、アテネから使いが各地に派遣されていました。その際は戦争や訴訟などは中止され、参加者のための宿が用意されたといいます。

儀礼の流れを纏めると以下の通りです。

  • 9月14日⇒エレシウスからアテネに向けて行列が出来る。
  • 9月15日⇒アルコン・バシレウスと呼ばれる宗務長官が全ギリシア人に密儀への参加を呼び掛ける。
  • 9月16日⇒身を清める為に海へ。また豚を供犠に捧げる。
  • 9月17日⇒アテネのエレシウス聖所で供犠。
  • 9月18日⇒アスクレーピオス神(治癒神)の参加、遅刻組の受容。
  • 9月19日⇒行列がエレシウスに戻り、途中でアポローン、アフロディーテ、デメテル、ペルセフォネの聖所を参拝する。
  • 9月20日⇒夜祭りの開催。アテネの代表者らによる供犠が行われ、参加者はテレステリオンに入り白衣に着替える。
  • 9月21⇒清めの儀式。女神とゼウスによる聖婚が行われ、人々は雨や多産を祈り叫び、大祭司が人々に聖なる品を示す。
  • 9月22日⇒密儀の参加者が白衣を女神に奉納する。
  • 9月23日⇒解散、帰宅。

大まかに説明するとこういった形になります。

豊穣を祈願する祭りはローマのサトゥルナリア祭や北欧のユール祭など各地にみられるものですが、それらがどういった形態を取っているのかなどについて調べてみると面白いかもしれませんね。

土着の密儀2:オルフェウス教

オルペウス教のモザイク(Foto di Giovanni Dall’Orto、原典

「オルフェウス」といえば、ギリシア神話が好きな方には馴染み深いと思います。

死した妻エウリュディケを連れ戻すべく冥界へと下り、「振り返ってはならない」の禁を破ってしまう人物です。竪琴の名手で、悲劇的な詩人として描かれます。時にイアソン率いるアルゴー船にも乗った英雄でもあります。

オルフェウスも密儀的な宗教の開祖として見なされていました。その宗教が「オルフェウス教」です。

この密儀宗教は独自の宇宙論を有しており、肉体からの魂の離脱や輪廻転生する霊魂の救済などを説きます。また、東方起源の密儀的な信仰を持つディオニュソスと結びついていました。

後世のルネサンス期においては、新プラトン主義者達によって秘儀的宗教の創始者とされています。伝説的な錬金術師ヘルメス・トリスメギストスに並び、キリストが生まれる以前に既にキリスト教の神学を説いていた人物とされています。

オルフェウス教の神話に於いては、ディオニュソスをザグレウスという神と同一視しています。ペルセフォネとゼウスの交わりからディオニュソス・ザグレウスが誕生したとされます。

ゼウスは自らの支配権を彼に譲るつもりでしたが、ティタン神族によって殺されてしまいます。しかしアテナがディオニュソス・ザグレウスの心臓を辛うじて回収したため、ゼウスがそれを飲み込み、そこから通常の神話と同様に王女セメレと交わって新たなディオニュソスが誕生します。

八つ裂きにしてディオニュソス・ザグレウスを食らったティタンはゼウスによって討ち滅ぼされ、その際に生じた灰から人間が誕生します。

転じて、人間は善なるディオニュソスの神的な要素と邪悪なティタンの両方の性質を持っているということになり、神的な部分は霊魂、邪悪な部分は肉体に対応させるというオルフェウス教の思想に繋がります。

故にオルフェウス教は現世的、地上的要素の否定を軸としており、信者たちは魂の輪廻転生を信じました。

まとめ

今回挙げたミトラスやイシスなど、東方に起源を持つ宗教がギリシア・ローマの世界でも信仰されていたというのは伝播によるものが大きく、宗教・神話体系の垣根を超えて互いに習合しているという点が何より面白い部分だと思います。

ギリシア・ローマの神話や叙事詩の中で華々しく、時に人間味溢れる姿で描かれる神々ではなく、謎に満ちたミステリアスな魅力とその崇拝様式を以て人気を博した密儀の神々について深堀ってみるのも面白いかもしれませんね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

ライター:樹木

※参考文献

  • フェリックス・ギラン著、中島健訳『ギリシア神話』青土社、2011年
  • ジョン・R・ヒネルズ著、井本英一+奥西俊介訳『ペルシア神話』青土社、1993年
  • 西村賀子著『ギリシア神話 神々と英雄に出会う』中公新書、2013年
  • 小林登志子著『古代オリエントの神々 文明の興亡と宗教の起源』中公新書、2019年
  • 小川英雄著『ローマ帝国の神々 光はオリエントより』中公新書、2003年
  • フランツ・キュモン著、小川英雄訳『ミトラの密儀』ちくま学芸文庫、2018年
  • フェルマースレン著、小川英雄訳『ミトラス教』山本書店、1985年
  • 辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ賛歌』岩波文庫、2019年
  • ブルフィンチ著、野上弥生子訳『ギリシア・ローマ神話 付インド・北欧神話』岩波文庫、2019年
  • 篠田知和基著『世界神話入門』勉製出版、2017年
  • J・G・フレイザー著、吉岡晶子訳『図説 金枝篇 下』講談社学術文庫、2020年
  • 伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』講談社学術文庫、2016年
  • カート・セリグマン著、平田寛・澤井繁男訳『魔法 その歴史と正体』平凡社ライブラリー、2021年

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